【爆+切】かっこよすぎるぜ!

すまっしゅ性転換ネタ。切島くん(♀)と爆豪くん(♂)の小話。付き合ってないけど、ナチュラルにいちゃつくふたり。

白くてふわふわの肌。同じく白くてふかふかの胸。丸みを帯びた腰から尻へのラインに、腹筋なんてまるでない柔らかい腹。ぎゅっと握りしめた二の腕は、これまた柔らかくて暖かい。鏡の中に映ったその姿に、俺はもう何度目か分からない感嘆の息を吐いた。
普段なら騒がしいはずの雄英高校『男子』更衣室の中にいま現在いるのは、この俺、切島鋭児郎ただひとりだった。
しかも、その俺は、なんと驚くべきことに、胸があり、体が柔らかく、身長が心なしかいつもより低く、つまり、女の子の体をしていた。
「すげぇ話だぜ……」
思わず漏らしたつぶやきは、鏡の中に吸い込まれる。
なぜこんなことになっているのか、経緯をざっと説明しよう。時間は今より1時間ほど前、午後のヒーロー基礎学の実戦練習を行っていたA組の元に、市街地にヴィランが現れたから討伐に協力しろという警察からの要請があった。先生と共に俺たちは現場に向かったのだけれど、そのヴィランが持っていた個性が、他人の性別を反転させてしまうという、なんとも厄介な個性で、気が付いた時にはクラスの半分くらいのやつらの性別が反転してしまっていた。しかしそんなことくらいで動じるようなやつはA組には誰ひとりいなくて、なんやかんやありつつも、ヴィランは捕獲され、個性の影響で反転した性別は全て元どおりになった。
ただし、俺を除いて、だ。
そう、なぜか俺だけが個性の影響が解けず、体が女の子のまま、元に戻らなくなってしまっていた。捕らえたヴィランの個性を分析した先生たち曰く、性別が元に戻るまでの時間はその人間により差がある。だが、どんなに長くても12時間で影響はなくなる。だ、そうだ。
本当かよ、と半信半疑になりつつも、しかし女の子になってしまったのはもうどうしようもない事実だから、俺はとりあえずその事実を受け入れ、大人しく明日を待つことにした。
それにしても、と鏡を眺めて改めて思うが、いまの俺は中々可愛い女の子だ。顔付きまで変わってしまった様な気がするけど、どこがどう変わったのかと聞かれると、具体的には答えづらい。つまり、特に大きな変化はないが、しかし完全に女の子になってしまっているということだ。ううん、世の中にはすげえ個性があるんだなぁ。
なんて、呑気に感心してる場合じゃなかった。早く着替えを終えて帰らなければ。うちの学校は19時までには完全下校することになっているから、ぼやぼやしていると校門が閉まってしまう。
ばたばたとヒーロースーツからジャージに着替えた俺は、更衣室のドアをがらりと開けて、それから、あっと声を上げた。ドアの前の壁にもたれる様に、爆豪が立っていたからだ。爆豪もついさっきまで俺と同じように女の子にされていたのだけれど、無事に個性の影響が解けて、今はいつもと変わらない男の姿をしている。
「遅えよ。着替えごときにちんたらしてんじゃねえぞ」
「へ? あ、もしかして、俺のことを待っててくれたのか?」
驚いた。
俺はクラスのみんなとは別で先生たちから質問を受けたり、性別が戻らないことをリカバリーガールに見てもらったりしていたから、爆豪もみんなと一緒にとっくに帰ったと思っていたのだけれど、この様子からすると、どうやらわざわざ俺の事を待っていてくれたらしい。
「なんで?!」
「ああ? いつも一緒に帰ってるだろ。別に理由なんてねえよ。自惚れんな」
わあ、いつもいつも邪険にされながらも爆豪にまとわりついててよかったぜ! なんて、誰かが聞いてたら同情されそうなことを思いながらも、俺は飛び上がって喜んでしまった。
「さんきゅーな、爆豪!」
「うるせえ。さっさと帰るぞ」
おう、と返事をしつつ、いつものように爆豪の肩を抱こうとした俺の腕は、しかしスカッとその狙いを外してそのまま下に落ちてしまった。ああ、そうか、いつもと俺の身長が違うから、手を伸ばす高さを見誤ってしまったんだ。そんなわずかな差異に、思わず足を止めてしまったけど、爆豪は俺の行動には気がつかずに歩き出してしまった。
俺も早く行かなきゃ、と数歩進んだが、身長以上に足のリーチも変わってしまったようで、全然爆豪に追いつけない。焦って、もっと早く歩かなきゃ、と思ったそのとき、爆豪が足を止めて、俺のことを振り返った。そしてオレンジの瞳が俺のことをじっと見る。
「あっ、爆豪、わりぃ…」
てっきり、もたもたしてんじゃねえとかなんとか怒鳴られると思った俺は先回りして謝ってしまったけれど、爆豪は特に何も言わなかった。そして俺が追いついたのを確認してからまた歩き出す。だけど、心なしかその速度がさっきより遅いような気がして、俺は心の中で死ぬほど驚いていた。
まさかとは思うけど、爆豪は俺のことを気遣ってゆっくり歩いてくれてるのか? いやいやそんな、まさか。たまたま、だよ、なあ?

俺がそんなことを考えてドギマギしているうちに、あっという間に駅まで着いてしまった。そしてちょうど到着した電車に二人で乗り込む。車内はそれほど混んでいなかったけれど、それでも座席は空いてなくて、俺と爆豪はドアに寄りかかるように並んで立った。
そうして電車に揺られながら直立していると、だんだんジャージのズボンが腰から下へと下がっていってしまいそうになって俺は慌ててそれをずり上げた。
先生に女子生徒用の制服を貸してやると言われたのを断って自分のジャージを着てきたのだが、これは大人しく借りるべきだったかもしれねえな。
腰は緩いし、丈も長い。その上、上着の袖も長くて、油断すると指先まで隠れてしまう。俺が苦戦しながら裾を折ったり、袖をまくったりしているのを、爆豪はしばし無言で見ていたが、しまいには呆れたような顔をしつつ、おい、と声をかけてきた。
「手ぇ出せ」
「え、お、おう」
俺がおずおずと差し出した手を爆豪が取る。そして器用にジャージの袖を折り上げてくれた。あんまり綺麗に折ってくれたものだから、思わずそれに見惚れてしまった。
「おい」
「あ、わりぃ、なに?」
「こっちに近づけ」
どういう意味だろう、と思っていたら、ぐいっと腕を引かれて、体が爆豪の胸に押し付けられるように密着した。えええ、なにすんだ急に、と焦った俺をよそに、爆豪は俺の腰に手を回してきた。嘘だろ?! なにする気だよ! と、声をあげそうになった瞬間に、ぐいっとジャージのズボンが上に引き上げられた。
「うおぅっ!」
「こうしておけば下がってこねぇだろ」
そう言いながら、俺のズボンのウエストの部分を数回折り返した爆豪は、満足そうにうなずいて、俺から一歩離れた。そして腕を組んだままドアにもたれるように立つ。その一連の流れるような動作を見た俺は、なんだか分からないけどめちゃくちゃ感動して、爆豪をまじまじと見つめてしまった。
あれ、なんか俺、ドキドキしてねえか?
なんだよ、これ。もしかしてこれをときめくって言うんじゃねえ?
いまの行動も、どうやら爆豪本人はほとんど無意識にやったことのようで、顔色ひとつ変わってない。やばい、かっこいいぞ、こいつ。うーん、なんつうか、さすがだ、爆豪。普段から男気のあるやつだとは知っていたけど、ここまでとは思ってなかった。
俺は顔を赤くしたり、ドキドキする心臓をぎゅっと押さえてみたりと忙しかったけど、爆豪はといえば、涼しげな顔をして窓の外を見ているから、余裕綽々って感じでますますかっこよく見えてしまって、俺は照れ隠しのためにガリガリと頭を掻くしかなかった。
そうこうしているうちに電車は次の駅に到着した。俺たちが立っていたのとは逆方向のドアが開き、どっと人が流れ込んでくる。
そっか、この駅は、幾つかの路線がつながる大きな駅だから、人の乗車が多いのか。
いつも通学に使っている路線だが、19時過ぎの帰宅ラッシュの時間に電車に乗ることは少ないので、油断していた俺は、わらわらと溢れた人に流されかけてしまった。
あ、やばい、爆豪が見えなくなる、と焦ったその時だ。腕が力強く引かれて、気がついたら俺はドアに背中を押し付けられるような格好になっていて、しかもその目の前に爆豪がいて、俺が人に押しつぶされないように、背中と腕でしっかりガードされていた。
「ば、爆豪…あの…」
「狭えな。着くまでそのまま我慢してろ」
「いや、あの、全然、狭くない…うん…ありがとな…」
うわあ、俺、このシチュエーションを少女漫画か映画かなんかで見たことあるぜ。これって大体、可愛い女の子がイケメンにされるやつだろ?
しどろもどろになりつつ爆豪になんとか礼を述べた時、ドアが閉まり、電車は発車した。
俺は目の前にある爆豪の顔が直視できなくて、思わずうつむいてしまった。多分、顔はさっきより赤くなっているはずだ。でも、その時はまだ、俺と爆豪の間に僅かながら空間があった。本当に大変だったのは、そこからだったのだ。
電車が次の駅に着いた時、俺はちょっとホッとした。ここで少しは空いたらいいなと思ったからだ。爆豪の行動はすごく嬉しかったけど、でもやっぱりなんだか恥ずかしいし、そもそも爆豪に守ってもらっているという状況が申し訳なかった。だがしかし、俺の期待は見事に裏切られる。
その駅で、残念ながら人が減ることはなく、むしろ倍くらいの人数が電車に乗り込んできた。そしてその結果、俺の右足と左足の間に爆豪が片足を置くような格好になり、ぐっと距離が縮まってしまった。
その体勢にうろたえた俺は思わず声を出す。
「あ、あ、あのさ、俺、大丈夫だから、もっと楽な体勢して構わねえから…」
ていうか、俺の胸がさ、爆豪に完全に当たってる。ジャージの下には何も着ていなかったから、胸から爆豪の体温がめちゃくちゃ伝わってきていて、俺はどうしていいかわからずに、身を硬くするしかできなかった。俺が爆豪の体温を感じてるってことは、つまり爆豪も俺の体温を感じてるってことだよな。う、うわ、どうしよう。なんて、頭の中をぐるぐるさせていたら、不意に額のあたりに衝撃があった。
思わず顔を上げると、目の前に爆豪の整った顔があって、いまの衝撃は、爆豪が俺に額をぶつけたからだと気がつく。
「おい、大丈夫か?」
「へ?! あ、おおう、全然、大丈夫、だ!」
「顔が赤え」
「う、うえええ、全然! 赤くない!」
満員電車の中、そんなやり取りを小声でしていたら、すぐ隣にいたサラリーマンが俺たちを睨んできたので、俺は慌てて口をつぐんで再びうつむいた。爆豪はといえば、不機嫌そうに舌打ちをしていたけれど、とりあえずそれ以上の反応はしなかったので、俺はこっそり安堵した。こんなところで爆豪がブチ切れたら、俺はもうどうしていいかわからない。やれやれ、睨まれるほど大きな声じゃなかったと思うんだけどなぁ。でも、毎日こんな満員電車に乗っていたら、ちょっとしたことでイライラするのも分からなくもねぇな、とサラリーマンのことを慮ってやっていたのだが、なんとそいつは驚くようなことをぼそりと呟いてきた。
「こんなところでいちゃいちゃしてんじゃねえぞ、高校生のガキどもが」
その言葉を聞いた俺は、一瞬訳が分からずに、ん、と首をかしげて、その次の瞬間にようやく自分が今は女の姿をしていて、しかも爆豪に守られるような格好で、これじゃあどこからどう見ても普通のカップルにしか見えないのだということに思い至った。
そういえば、そのサラリーマンだけじゃなくて電車内のおっさんたちのほとんどが俺たちのことをチラチラ見ているような気がする。
それに気がついてしまったら、俺の体温はさらに上がって、全身から汗がだらだらと流れ出た。いや、そんなことより、爆豪はどう思っているんだろう。つーか、さすがにもうすぐブチ切れるんじゃないだろうか。
俺は慌てて顔を上げて、爆豪を見上げる。
予想通り、爆豪は最高に不機嫌ですって顔をしていて俺は一気に青ざめた。
「ば、爆豪…」
落ち着け、と言いたかったのだけれど、俺がそう言葉にする前に、爆豪が口を開いた。
「切島。降りるぞ」
へ?
その時ちょうど電車が駅に止まったけれど、ここはまだ俺たちの目的の駅じゃない。なぜ降りるんだろう、ときょとんとしてしまった俺のことを、爆豪はぎゅっと腰を抱くように抱きしめてきた。
「えええ?! な、な…」
俺が飛び上がりそうなほど驚いているうちに、爆豪は俺を抱きしめたまま、ズカズカと人をかき分けて電車を降りてしまった。
俺たちが降りた電車が走り去ってしまい、ホームにいた人々も改札の方に消えてしまうと、そこには俺と爆豪だけが残されていた。爆豪は相変わらず俺のことをぎゅうっと抱きしめていたので、俺の顔は爆豪の胸に押し付けられていて、なんだか少し息苦しかった。いや、苦しいのはそういう物理的な理由だけじゃなくて、心理的なものも大きかったのだけれど。
「ば、爆豪…あの、もう、大丈夫だから…離してくれ…」
「ダメだ」
「えっ…な、なんで?」
爆豪の腕の中で、たじろぐ俺に向かって爆豪は言う。
「いいから黙ってそのままじっとしてろ。クソ、あのおやじ、ジロジロ見やがって。とりあえずこうしてりゃ、おめえの顔は見えねえだろ。このまま次の電車に乗るぞ」
「え、このまま乗るのか?」
「おまえ、体育祭のときテレビに出てんだぞ。顔で誰だかバレるかもしれねえだろ。男のはずのおめえが女になってるとか気がつかれて、動画を撮られでもしたら、今後のヒーロー活動に影響出んだろ」
まさか、爆豪がそんな事まで考えてくれていたとは思ってもなくて、というか、俺自身は全くそんな可能性を思いつきもしていなくて、爆豪の言葉に感動してしまった。
よく考えてみたら、爆豪は中学生のときからヘドロヴィランの事件とかで何度かテレビに取り上げられたことがあるから、もしかしたらそれ関連で何か嫌なことがあったのかもしれないな、と思い至った。
だけどそんな事は全然言わないで、俺のことをただ守ってくれようとしている爆豪に、俺はうっかりキュンとしてしまって、それを隠すために爆豪の体に、顔や胸をぎゅうっと押し付けた。
でもさ、爆豪。俺の顔は見えないけれど、むしろ、こっちのほうが目立ってる気がするぜ…。
ほんの少しだけ顔を上げた瞬間に、ホームを歩く通行人がじろじろと俺たちを見ていることに気がついてしまって、俺は慌てて再び顔を隠したのだった。

そんなこんなで、俺たちが抱き合ったまま乗り込んだ次の電車も、やはり満員で、むしろさっきより混んでいたんじゃないかという状況だったけれど、爆豪のおかげで、その後はとくに騒がれたりすることもなく、無事に家まで帰ることが出来た。
ただし、翌日の教室で、俺と爆豪が電車で抱き合っているのをたまたま見かけたという上鳴がその写真をスマホでしっかり撮っていて、しかもそれをクラス全員に見られてしまって、大騒ぎになるという事件があったのだけれど。

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