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エナジータンクマガジン☺️💓

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こちらでは、私のことや私のnote・写真をご自身のnoteでお使いになってくださった方々、紹介してくださった方々のnoteを集めさせていただいています😊ご紹介頂き、またお使いくだ… もっと読む
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#BL

あなたに私は絡みつく 第57話(完結)

第56話 欧介 「おーい、準備出来た?」 「今行くー!」 雲一つない快晴の朝。 ばたばたと階段を下りる足音。 門の前に止めた車の中には、買い揃えた撮影器具と着替えと、テント一式に非常食まで積み込まれている。 隣の咲枝家から、なるみさんが紙袋を持って出てきた。 「おうちゃん!これ、お弁当、持って行って!」 「なるみさん…これ、何日分?」 「え?多い?」 「ちょっと多めだけど、ありがたくいただきますね」 律の母、なるみさんは再婚した。入院した時にお世話になったバ

あなたに私は絡みつく 第56話

第56話 律 「こんな格好で庭に立つなよっ…誰か…見てたらどうすんだよっ」 「……律が呼んだのに」 「呼んだけど……脱ぐなっ…」 「……だっ…て…っ…んっ…」 甘ったるい声で言い訳をする欧介さんの唇を塞いだ。 それからとろけそうな目をした欧介さんをリビングに連れ戻して、ソファの上に押し倒した。 この人は、自覚というものがないらしい。 自分がどれほど色っぽくて、それが男のリミッターを簡単に外してしまうかを知らないんだ。 普段は爽やかなイケメン然としているくせに、こうい

あなたに私は絡みつく 第55話

※ひとつ前の54話の後半をアップし忘れました。3/15に改稿しております。 第55話 欧介 何もする気が起きなくて、ソファの上に寝転がった。 三人分の食材をどうしようか。 自分の分だけを作る気にもならない。 物わかりのいい大人の振りをして。大丈夫じゃないくせに、笑顔で手まで振ったりして。 全然、これっぽっちも平気なんかじゃなかった。 わかっていたことなのに。 久しぶりに浴びた、あの侮蔑の視線。 律とつき合っていることは知らないはずだ。なのに、何かを感じ取って好き勝手に

あなたに私は絡みつく 第54話

第54話 律 「荷物、これだけ?」 「あ、あと、戸棚の中の洗面道具…」 「俺が来る前にしまっとけって言ったじゃん」 「だって先生の話があったんじゃけぇ」 「はいはい、いいから早く片づけろよ」 母の退院の日。 叔父が手伝うと言ったのをなんとか阻止して、欧介さんに車を出して貰った。 別に今日、言おうとは思っていない。 ただ何となく、欧介さんに手伝って欲しかった。 そう多くない荷物を持って駐車場に着くと、洗車してぴかぴかのレンジローバーが待っていた。欧介さんがあまり

あなたに私は絡みつく 第53話

第53話 欧介 「見合い……」 「断ったけど。…びびった」 「………」 「焦りすぎなんだよ…そんなこと想像したこともない」 律はビールの代わりにジンジャーエールを飲んだ。そうとう昨夜のことを気にしているらしい。 叔父さんから持ちかけられた見合い話で苛々して呑んだのか。 俺は二本目のビールを開けながら、尋ねた。 「でも…叔父さんもそんなこと言い出すなんて、どうしたんだろうな」 「……母さんが」 「え?」 「……俺が、いつか結婚するときに蓄えておきたいって、仕事

あなたに私は絡みつく 第52話

第52話 律 「りっちゃん、機嫌悪うねぇ?」 「別に…」 「この間のこと、怒っとるんじゃ…」 俺は母の情けない声に、余計に苛ついた。気が強くて、人の顔色を伺うことなど嫌うタイプの人だったのに、入院してからずっとこの調子だ。 無理もない、と思いながらも、つい強く当たってしまう。 「怒ってねえよ。母さんが頼んだんじゃないんだろ」 「それはそうじゃけど、兄さん、いろいろ心配で先走ってしもうたのよ。許しちゃってくれん?」 「心配の方向がおかしいんだよ…」 「ママが兄さ

あなたは私に絡みつく 第51話

第51話 欧介 もう三日も律と連絡を取っていない。 さすがに愛想を尽かされたかもしれない。 携帯を開いてみても、着信もメッセージもない。 当然か。 煙草に火をつけて、庭に面した窓を開ける。時刻は午後九時。昼間の蒸し暑さが落ち着きやっと涼しくなった庭に出て、リクライニングチェアに横になった。 律の部屋の窓は閉まっていた。 思えば最初の出会いはこの庭だった。 おそらく産まれて初めて目にした男同士のキスシーン。それでも俺を色眼鏡で見ることもなく、年上の友達としてつき合って

あなたに私は絡みつく 第50話

第50話 律 思わず拒んでしまった俺を見た、欧介さんの目。 嫌だったんじゃない。 よく見れば周りに人も少なく、きっと欧介さん確認してから俺にキスをしてくれたんだ。 でも、俺がその時感じたことは、焦り。 誰かに見られたら、こんな小さな町、あっという間に知れ渡る、と。 母さんに話すと息巻いていた俺はどこにいったんだ。 「急にこんなことした俺が悪いんだ、ごめん」 「違う、あの…」 「……律の反応が普通だよ。だから気にしないで」 欧介さんは泣き笑いみたいな顔をしていた。

あなたに私は絡みつく 第49話

第49話 欧介 数日後、律と一緒になるみさんの病室を尋ねた。 ベッドで上半身を起こしたなるみさんは、俺の記憶よりもひとまわり小さくなっていた。 目元が、律と同じだった。 俺を見て、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうに迎えてくれた。 「あらぁ…懐かしい!帰ってこられたんですか?」 痩せてしまって、声にも力はなかったが、明るい笑顔は変わっていなかった。 「ご無沙汰しています。いかがですか、具合は」 「大丈夫なんですよぉ、こんな顔ですみませんねぇ、りっちゃん、櫻田さん

あなたに私は絡みつく 第48話

第48話 欧介/律 夕食は、宅配ピザにした。 二人で食事を摂るのは何年ぶりだろう。酒の量も自然に増えた。 昔と同じく、テレビを見ながら他愛もないことで笑った。 お互いに離れていた時の話はしなかったが、俺はひとつだけ、聞きたいことがあった。 「律……綿貫さんがくれたんだけど、これ」 写真雑誌をテーブルの上に乗せると、律ははっとして俺を見上げた。 「見たんだ…」 「賞、取ったんだね」 「取ったけど……ごめん、勝手に…」 「ごめんって?」 「だってこれ、隠し撮りみた

あなたに私は絡みつく 第47話

第47話 律 「心なしか…家の中がきれいな気がする…」 「掃除してたから」 「えっ」 「二週間に一度、換気して簡単な掃除してただけだよ」 「だ…だけって…」 「いつ帰ってくるかわからなかったから」 「……ごめんなさい」 「……埋め合わせしてくれたら、許す」 「します!」 がばっと土下座した欧介さんの後頭部を、俺は笑いながら突っついた。 もともと茶色がかった髪は、ショーのためなのか一層明るく染まっていた。無精髭なんてもちろん無いし、片耳だけについていたピアス

あなたに私は絡みつく 第46話

第46話 欧介 朝顔のカーテンに見とれていた俺は、石を踏む足音に振り返った。 何の期待もしていなかった。 心の準備も出来ていなかった。 律。 モン・サン・ミッシェルで数分だけ再会した彼が、そこにいた。 背が伸び、少し筋肉質な上半身。大人びた目元と驚いて薄く開いた唇。さらさらの黒髪は当時の質感を残したままだった。 俺の視線と律の視線が交差する。上手に微笑みたいのに、顔の筋肉が強ばって笑えない。 律は大きく目を見開いて、足が重いみたいに引きずって、こちらに一歩近づいた。

あなたに私は絡みつく 第45話

第45話 律 勢いで病院を出た。 母親の容態も落ち着いていたので、安心した。叔父の会社も今日は行かないことにした。 東京の布川社長は、落ち着くまで休んでいいと言ってくれた。 モン・サン・ミッシェルの芦沢さんからのクレームは来たのだろうか。 もしも綿貫さんがひとりで対応していたら申し訳ない。 欧介さんに会えたあの夜、帰りの車の中で綿貫さんは言った。 『咲枝……また、聞いていいかな』 『はい』 『どうするんだ、櫻田さんのこと』 『どう…?』 『このままだと、芦沢さ

あなたに私は絡みつく 第44話

第44話 欧介 列車の中で、綿貫さんがくれた写真雑誌を開いた。 端が黄ばんでいる。刊行されたのは数年前。付箋がついたページは、何度も開いたのかくっきりと跡がついていた。 ページをなぞりながら、何度も考えたことをもう一度考える。 いつ撮ったのだろう。 アングルからすると、律の家の二階から撮ったものだ。 撮られてたことなんか、知らなかった。 この雑誌が刊行された頃は、律は高校を卒業したばかりだ。俺は、もう、モン・サン・ミッシェルにいた。 律を忘れようと、毎日踊ることだけを考