私をぎゅっと抱きしめて

 ここは人間とぬいぐるみが共に生きる街、ドリーミング・シティ。
 いつもは明るいこの街も、あいにくの大雨によっていつもとは違う、暗い雰囲気が覆っていた。濃い雨でぼんやりと光る広告群が睥睨する中、黒いブルゾンを着た少女が走っていた。
 腕に抱えられた白いユニコーンのぬいぐるみが、持ち主の少女を不安そうに見上げる。
 その時、正面を三体の黒い熊のぬいぐるみが行く手をふさぐ。右足首には『BLACKBEAR』のタグが付けられていた。
「その『ノータグ』は違法です。すぐに明け渡してください」
 三体の熊は息の合った動きで、右手から鋭く光る爪を引き出した。
 かばうように後ずさる少女、瞬間、熊たちが飛ぶ。

 そして、その三つの首がきれいに刈り取られた。

 少女の横から飛び出したそれは、着地して抜き放った刀を納めると、少女の方を振り返った。

 そのぬいぐるみは、鋭い目をした、うさぎのぬいぐるみだった。

【続く】

#逆噴射プラクティス #小説 #ぬいぐるみ #ファンタジー

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