襲いくる影【短編小説】サクッとショートショート!
ある日の夕方、僕の足元から伸びる影は太陽が沈みかかっていたため、路地の奥に長く伸びていた。
そのとき僕は、あることに気づいた。
僕の影がそんなに伸びた場合、影は薄くなりボンヤリと見える。
しかし、その日の影はくっきりとした真っ黒な影だった。
あまりに不自然だったので、僕は自分の影を見つめていた。
すると路地の奥にある僕の頭の部分の影が、紙がめくれるようにゆっくりと起き上がったきた。
僕は目の前に起きていることが理解できず、その場で棒立ちになりながら影がめくり上がる現象を見つめ続けた。
僕の影は次に右手が地面から離れ、伸ばした右手は高さ2メートルはある路地の壁に手をかける。
僕は信じられない光景に怯え、恐怖のあまり足が震え、立っていることができず、その場で尻もちをつくような感じで座り込んでしまった。
しかし目線だけは、今起きている奇怪な現象から目をそらすことができず、恐怖で逃げ出したい気持ちがあるのに見続けていた。
僕の影は次に、左手も右手と同様に路地の壁に手をかけ、そのままその壁を椅子の肘掛けを使うように起き上がった。
立ち上がった影の高さは3階建てのビルよりも高く、その姿は黒い巨人のように見える。
しかし、路地の横幅は3メートルほどしかなく、車が1台しか通れない一方通行の場所だ。
しかも僕の体から伸びだ影なので、高さは10メートル以上はあるが、体の横幅は1メートルもなく、とても細い体型をしている。
まるでアメリカの都市伝説で語られるスレンダーマンのように見えた。
そのとき影の巨人の背面から、男性らしき姿でこの地域の高校の制服を着た人物が近づいてきた。
しかし、その高校生は巨人のことが目に入らないのか、何事もないかのように一定のスピードどこちらに歩み寄ってくる。
もしかしてこの影の巨人は僕だけにしか見えないのかと思った。
だがその考えはすぐに違うと確信できた。
高校生は影の巨人のことを気づいていないのだ。
歩きながらスマホを片手に夢中でスマホを見て操作をしている。
高校生は歩きスマホをしている最中まったく前を見ていないのだ。
そして少しづつ影の巨人に近づいていった。
ついには高校生は影の巨人の左足にぶつかり転倒した。
その現象を見た僕は、目の前にいる影の巨人が物質として実在する存在だと認識した。
高校生は転倒した衝撃でスマホを地面に放り投げてしまい、文句を言いながら落ちたスマホを取ろうと手を伸ばした。
しかし、高校生よりも先に手を伸ばし捕まえたのは、影の巨人の方だった。
影の巨人が捕まえたのは高校生だった。
そのとき初めて高校生は影の巨人を認知し、その異常なまでに大きく、非現実的な現状に恐怖し悲鳴を上げた。
僕も高校生の悲鳴を聞き、恐怖で足がすくみ逃げ出すことができなくなっていた。
影の巨人は捕まえた高校生を自身の頭の方へと持っていった。
そして高校生の頭部を影の巨人の頭へと突っ込んだのである。
次の瞬間、グシャっと潰れるような音と共に、高校生の首からは大量の血が吹き出した。
影の巨人の姿は黒く解りづらいが、影の巨人が高校生の頭部を突っ込んだ場所は、位置的に口の場所に思える。
つまり高校生は影の巨人に喰われたということだ。
その後も影の巨人は、高校生の体を腰まで自身の頭に突っ込んだ。
そしてまたしても大きな音でグシャッと、高校生の上半身を喰った。
高校生の腹部からは、大量な血と千切れた腸が飛び出した。
僕はそのとき直感した。
この高校生が食い終わったあとは僕が喰われると。
僕は恐怖で動かない足を何度も両手で叩き、自分を奮い立たせた。
生まれたての子鹿のように、足はプルプルと震えているが、なんとか立ち上がることができた。
そしてフラフラになりながらもその場から離れようと、必死で走ろうとし後ろを向き足を一歩前に出した。
なんとか進むことができる。
このまま走ってこの場から逃げ出そうとした瞬間、僕の視界が真っ黒になった。
そして僕の頭は何かに潰されるような程の激痛は走る。
「グシャ」っという音とともに僕の意識はなくなった。
僕は自分の影に喰われてしまったのだ。
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