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「一つになった世界と分断された人々――ワールド・イリュージョン」ショートショート


技術革新は世界はひとつになった。
そう呼べるほどに、技術は世界を狭くした。

VRとかつては呼ばれた仮想現実技術は、ほぼ五感をトレースし、
実感させる、さらに拡張させることを可能とした。

さらに超高速情報網は、世界のあらゆる場所を繋げた。

これらにより、一歩も家を出ることなく、世界のどこにでも旅することが可能となった。

例えば、
日本の片田舎――田舎という呼称さえもいまは無実化しているが――にいながらに、
アジアどころか、ヨーロッパの町中を歩くことが出来る。
ただ部屋同士を繋げての会議ではない。本人の実感としては、リアルに
町中を歩くことができるのだ。そして、仮想空間とつながった現地の人と
コミュニケーションを取ることが出来る。

仮想と現実世界とシームレスにつながり、もはや現実が拡張していた。

技術は世界を変えた。感染症による世界的な危機は、技術革新と普及を後押しし、
既成概念を取っ払い、人々の利用を促した。

世界は、狭まった。
かつては時間と空間が隔てて、不可能だったことが、一瞬で実現できる。
世界は、ひとつになった。
一人の人が、人生で世界を横断できるほどになったのだ。


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世界は、分断された。
感染症は、技術革新によりまとまっていったグローバル化を、圧倒的なまでに破壊した。
技術革新で、仮想空間上で繋がりを強め、人々はつながりを錯覚するが、
20世紀とさえ比べても、世界は広くなった。

移動が、困難になった。

21世紀初頭までは、世界は情報通信とともに移動技術の発展と交通網の整備で
たやすく人々は移動していた。
しかし、感染症の拡大とそれに伴う経済活動の停滞は、世界を文字通り分断した。

感染症によるロックダウンは一時的だったが、その影響は深刻だった。
移動が規制された結果、まず航空会社がつぶれた。旅行自体も厳しく規制され、
商業としてなりたたなくなった。

モノの移動はかろうじて必要な程度行われるが、
人の移動に対するサービスは壊滅的となった。

そして、それらを支える移動手段、製造業の需要も激減し、
潰れた。

その後に回復するだろうという見通しは楽観的過ぎた。
一度潰れたモノは立て直せず、製造業では製造技術も設備も失われ、
再起しようとするときにはコストが圧倒的に跳ね上がってしまった。

結果、大規模物流の一部のみがかろうじて残ったが、人々は移動手段を失った。

もはや外国への移動どころか、国内の長距離移動さえも難しい。
人々は、中世の人のように生まれた コミュニティ で生涯を終えるのだ。



―――本当にあるかわからない、外の世界の幻想を眺めて


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