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「とある海岸沿いの漁船の主とMBA持ちの旅行者の話 ーー億万長者になる方法」ショートショート

とある海岸沿いの小さな漁村に、とあるエリートコンサルタントが訪れました。
波止場に止めてある漁師の船を見ると、活きのいい魚が獲れています。

コンサルタントは、その船の主に尋ねます。

「その魚を獲るのに、どれぐらいかかったのですか?」

漁船の主は答えます。

「数時間くらいかな」
「まだ明るいのに。なぜもっと長く海に残って、もっと魚を獲らないんですか?」

「家族が必要としている分が獲れたからね」

「では、仕事以外のときはなにをしてすごしているんですか?」

「遅くに起きて、魚を少しとって、子供と遊んで昼寝して、妻たちとゆっくり食事を楽しむ。
 夕方ごろにたまには気の合う仲間たちとワインを片手にギターを弾いて楽しんだりしているよ」

それを聞いたコンサルタントは仕事柄、ついつい口を出してしまいます。

「私は○○大学をを卒業し、MBAを取得しているコンサルタントです。ここにはバカンスで訪れているのですがせっかくのご縁なので、あなたに助言しましょう」

「助言? もう十分に充実しているよ」

「あなたはもっと漁の時間を長くするべきです。そして、大きな漁船を買ってください。
そうすれば、もっと魚を取ることが出来て、さらに多くの船を買うことができますよ。
最終的には大きな漁船団を手に入れることが出来るでしょう。」

「また、ここが肝心です。仲介業者を挟まずに獲れた魚は加工業者に直接出荷しましょう。
最終的には自分の加工工場を作ることが出来るでしょう。製品、加工、流通に関してすべて自分でコントロールできるようになりますよ」

「そしたら、こんな小さな漁村を離れて都会に進出するんです。大きな会社を経営するには優秀な人材がたくさんいる都会が最適です」

それを聞いた漁船の主は、コンサルタントに聞きます。

「で、それはどれくらいかかるんだい?」

「15~20年くらいで、十分ですよ。もし私がコンサルをすれば5年でできるかもしれませんね」

「じゃあ、その後は?」

コンサルタントは、待ってましたとばかりに応える。

「ここからが最高ですよ。あなたの会社を株式公開して、自社株を大々的に売り出すんです! するとあなたの手元にはあなたは巨万の富が。一躍、億万長者に成り上がるのです!」

「巨万の富か…それで、次は?」

コンサルタントは満面の笑みで答えます。

「そしたら、大金を持って早期リタイヤですよ。あなたの好きなことがなんでも出来るんです!
そうですね。朝早く起きる必要もない。遅くに起きて、魚を少しばかり獲って、子どもと遊んで昼寝して、妻さんとゆっくり食事を楽しむ。
夕方ごろには散歩に出て、気の合う仲間たちとワイン片手にギターを弾いて楽しんだりできるでしょうね」


ふむふむ、とそこまできいた漁船の主は、コンサルタントに質問する。

「そんなにうまくいくのかい? 調子いい夢を見せているだけじゃないか?」

「なにをなにを。私をだれだと思っているのですが……いや、あなたにはわからないでしょうが、本当ですよ。やれば、できますよ」

「なるほど。そこまでいうのなら」

「聞いてみる気になりましたか?」

「この船をやるからやってみせてくれないか? なぁに、一週間もあれば魚を獲れるようにしてやるよ」

漁船をたたきながら、主は言いました。

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「おかえりなさいませ、社長。ひさびさの休暇はどうでしたか?」

「いや、いい息抜きになったよ。自由に時間を使って、子供も家族も喜んでくれた。旧友とも楽しめたよ・・・・うむ」

「それはよかった。おや、なにかありましたか?」

そういって漁船の主は、超高層ビルの窓からバカンス先で出会ったコンサルタントを思い出した。

「いや。みな、やらないものなんだな、と思ってねーーできるとわかっていても」




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