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「尊き死の選択」 ショートショート

よく生きれたものだ。

病床に伏しながらも、そう思う。

十分に生きた。

そう言える。

自分の両親が亡くなった年齢をとうにすぎ、同年代の友人も少なくなった。

身体も、若い頃は無理をしたのによくもってくれたものだ。

そして、家族にも恵まれた。良き伴侶に巡り合え、子宝にも恵まれた。

いまでは孫、ひ孫までいる。
おそらく葬式も、みなが参列してくれたら騒がしくもあるだろうが、それぐらいがちょうどいい。


自分の身体だからか、なんとなくこれが 寿命 なのだとわかる。

数日前まではいたって元気だったのに、ふとした瞬間に力が抜けて、立てなくなってしまった。

そのままぽっくりいってもよかったとも思うが、こうしていろいろと思い巡らす時間をくれたのかもしれない。

幸せだった。

無論、苦労がなかったわけではない。

不幸だと感じたことも、辛かったこともある。

けれども、こうして最後の時を迎える時、安らかに逝けると思えるならば、文句のつけようもない。

幾人か、病と闘い亡くなった人を見てきたが、それを思うと恵まれすぎているだろう。

ひとはいつか死ぬ。

これが、今日で、いまということならーーーーー


ぴーーーーーーーーーーーーーーーー

心電図の警告音が響く。それは心肺が停止したことを知らせる。

時期に呼吸も止まる。

「どうしますか?」

医師が聞く。するとそばにいた家族はうなづいた。

「延命措置をお願いします」


医師はテキパキと最新の機器を取り付ける。

心肺機能を代替する装置が取り付けられ、呼吸を代行する機器がはめられる。

管が通され、生命維持のための栄養素が送り込まれる。延々と送り込まれる。

機器がずれないように四肢だけではなく、全身が、国の安全規格に則って固定される。

「安心してください」

看護師が聞こえていないだろうとわかりつつ、意識のない本人に告げる。

「これであと10年は生きられますよ」




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