天の聖杯、起動

少年が血溜まりの海に倒れていた姿があった。

 

ピクリとも動かない、指先1つすらも動く気配は無い。

 

ただそこには、数多の悲鳴とモンスターの咆哮、家屋が焼け落ち崩れる音が響くのみであった。

 

「……ぼ、坊主…」

 

「もう彼は死んでいます。事実、終わらせた私が言うのですから間違いないですね♪あぁ…あの内臓を貫く感覚、たまらないですねぇ…」

 

………狂っている。

 

「……クソ野郎が」

 

「おっと、そんなに褒められたらぁ…ご褒美をあげたくなりますぅ……ねっとぉ!!」ゲシッ

 

「グホァッッ!!!」ゴホッ

 

黒ローブの男は、ただただ人の苦しむ姿を悦しんでいた。

 

殴り、蹴り上げ、人肉を切り刻み、己の欲求を満たし尽くすまで、この男は決してやめる事はないだろう。

 

そう思うしかない程に狂気を感じていた。

 

「………ぐっ」ハァハァ

 

「さて、そろそろ飽きてきましたし……」

 

こいつは、

 

「死んでください」ブン

 

危険だ。

 

―――カッ

 

「……?!」バッ

 

「……なんだ、ありゃぁ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流れ込んでくる。

 

その記録は酷く断片的で、だけど……

 

素敵な素敵な物語を僕は見る事が出来た。

 

だからこそ、僕は僕の望む道を歩もう。

 

「……っ!な、何故貴方が」

 

僕は、僕の願いを見つけてみせよう。

 

「死んだ筈の貴方が、立っている!?」

 

その為に、

 

―――僕に、力を貸してくれ。

 

「はああああああぁぁぁぁ!!!!」

 

胸が熱く、背中に刻まれる感覚がある。でも、不快な感覚ではない。

 

少年は立ち上がった。

 

その胸に、眩い光を携えて。

 

「くっ!!何ですか、この光は!!」

 

そして……

 

新たな4つの光が散らばり、村の各場所に発現した。

 

その光達はすぐさま人の形を為していく。

 

「……ふう、現界するのは実に久しぶりだね」

 

赤い大剣を片手に携えた男、アルヴィース。

 

「って、酷い惨状ね……」

 

光の大剣を軽々と持っているヒカリ。

 

「おいおい、こりゃ随分派手にやっちまってんなぁ」

 

アルヴィースと酷似した剣を肩に乗せているメツ。

 

「……っ!大丈夫ですか!?傷は……」タタッ

 

「……あ、ああ。何とか」

 

おじさんの容態を確認している、背中に炎の大剣を背負っているホムラ。

 

そして……

 

「何故、何故生きているのですか!?貴方は私が殺した筈だ!」

 

僕は……

 

「まだ、やりきっていない事があるからだ」

 

「何を言ってっ!!」

 

僕は………

 

「まだ、ベルに会えていないからだ」

 

「はぁ!?」

 

僕は……………

 

「まだ、自分の願いを叶えてないからだ」

 

僕は………………

 

「その為に、お前を倒す」

 

「………私を、倒す?」

 

「ああ」

 

「…………フフフハハハハハハハ!!私を、オレを倒すだと!?先程まで地に伏せていたただの弱っちいガキが、オレを倒せるわけねぇだろうが!!」

 

男は笑う。先程とはうって変わり、言動が荒々しくなっている。

 

「いいか、オレはLv.4だ!負ける要素なんてある訳がねぇ!仮にオレが敗れたとしても、他のLv.2~3相当のモンスター達は止まらねぇ!!全員殺し尽くすまで、この惨劇は止まねぇんだよぉ!!!」ゴォッ!

 

男がブレイに襲いかかる。

 

今度こそ、完全に、確実に息の根を止めてやると言わんばかりにブレイの胸元に剣の矛先を向ける。

 

「これで終わr「遅い」ドガッ」

 

終わる筈だった。

 

「………は?」ドサッ

 

今、何が起きたのか。

 

剣を避けられ、ただの蹴りで反撃された……?

 

「そ、そんな馬鹿な!」

 

有り得ない。

 

「Lv.4だぞ!そんなオレが、お前のようなガキに!!」

 

「やられる訳が無いってか?」

 

「…っ!な、何だ!きさ…ま…………は」

 

声のした方に振り向く。

 

その手に、ミノタウロスの角を手に持った黒の男がいた。

 

「ったくよぉ、肩慣らしにもなりゃしねぇ」ザッ

 

「お、おい!その角を何処でっ!!」

 

「あ?牛野郎共ををぶった斬ったらコイツが落としただけだぜ?」

 

「な!?」

 

ミノタウロス達を、倒しただと!?

 

「やあ、待たせたね」ザッ

 

「あらかた敵は片付けたわよ」ザッ

 

「ここの住民達も安全な場所へ避難させました」ザッ

 

「………っ!!!」ギリッ

 

イレギュラーにも程がある!!このままでは…!!

 

「………仕方ねぇ!!」バッ

 

男が地面に手を翳す。すると、大きな魔法陣を出現させ、彼の周囲に土や石など様々な物が集まり、やがて1つの塊となり、巨人の形を形成していく。

 

「フハハハハ!!これでどうだぁ!!!」

 

「ゴーレムというやつかな。うん、これはデカイね」

 

「5~6m位はありそうですね…」

 

「チッ、また面倒くせぇ事を」

 

「気は進まないけど、同感だわ」

 

普通なら、この姿を一般人が見たら卒倒する光景なのだろう。

 

「お前達は、オレが殺してやるよぉ!!!」グォッ

 

だが、彼らは違う。

 

「させないよ」ガギィ!

 

「な、流した!?」ズズン

 

ゴーレムの右から放たれる剛腕を軽く受け流すアルヴィース。

 

「さあ、始めようか」

 

「…ぐっ!」

 

赤い大剣は光の刃を構築し、轟の文字が浮かび上がった。

 

「モナド―――サイクロン!」ゴォォォ

 

「グオオォォォ!」グラッ

 

ゴーレムが右足を払われ、体勢を崩していく。

 

「ホムラ、行くわよ!」

 

「ええ、合わせます!ヒカリちゃん!!」

 

すかさず2人が体勢を崩し、空を見上げるゴーレムの上に現れる。

 

焔の刃は紅く燃え上がり、光の刃はその輝きを増していく。

 

「バーニング――」

 

「ライトニング――」

 

それぞれの刃は、ゴーレムの―――

 

「―ソード!!!」

 

「―バスター!!!」

 

―左右の腕を両断した。

 

「ぐあああああっ!!!!」

 

「まだだぜぇ!」

 

そしてこの男、メツも動いた。

 

振りかざすその漆黒の剣は、まるで何もかもを塗りつぶすかのような黒い刃を顕にし、やがて封の文字が浮かび上がる。

 

「黙って寝てな!モナド――ジェイル!!」

 

ゴーレムはまるで金縛りにあったかのように微動だにしなかった。いや、出来なかった。

 

「ぐっ……おおおおぉぉ!!」ミシミシ

 

力を上手く行使出来ない。それがまた焦りを倍増させていく。

 

「……っ、クソがああぁ!!」ミシミシ

 

「これで終わりだ、ローブ男」キィィィ…ン

 

そしてブレイの手には、聖剣が握られていた。

 

その刀身は透き通る程に美しく、そこから発する光は儚くも優しく包み込むような暖かさが感じられた。

 

「『願い』か――それが、君の『モナド』の本質なんだね」

 

儚くも尊ぶべきもの。それが『願い』というもの。

 

「……はっ。俺には些か眩しすぎるぜ」

 

「……懐かしいわね、この感じ」

 

「……ええ、とても暖かい…優しい光です」

 

思い出す。

 

かつての世界で触れた優しさを。温もりを。

 

天の聖杯という道具としてではなく、心を持つ者として接してくれた、ある少年の面影を。

 

「………っ!な、何者なんだお前は!!」

 

「…………」キィィィ…ン

 

僕は答える。

 

「……僕は」

 

ここから、

 

「………天の聖杯のドライバーだ!」

 

―――僕の物語を始める為に。

 

「願いを力に、我は剣を振るう者モナド·クシフォス!!!!」

 

その始まりは、運命は、必然だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブレイ·クラネル

 

Lv.1

 

力=S 976

 

耐久=A 892

 

器用=C 625

 

敏捷=B 758

 

魔力=S 999

 

魔法

 

「願いを力にモナド」…願望の具現化。事象、形、質量は使用者の想いに比例する。

 

スキル

 

「天の聖杯のドライバー」…天の聖杯、及びブレイドの使用権限。

 

「願望モナド」…意志であり、力であり、光そのもの。

 

「異端の剣ゼノブレイド」…神の力アルカナムの無力化。早熟する。