自分を好きになる魔法

 数年前、高校を卒業した3月に私は人生で一個目のピアスを開けた。高校生までは、親や教師に縛り付けられて自由のない毎日。髪色やメイクといった容姿さえ自分で決めることが許されていなかった。私がピアスを開けたのは、そんな不自由な人生が終わった開放感とこれまで自分を押さえつけていたものへのちょっとした反発心からだった。最初は耳たぶに左右1つずつ、のつもりだった。しかしこの日から数年間の年月を経て、私の耳には多くの穴が開くことになる。
 大学に通うようになり、たくさんの友達ができた。その中には、耳たぶだけでなく軟骨にピアスを開けている子がいた。私は一瞬で虜になり、その子と出会った日の帰りに早速軟骨用のピアッサーを買った。帰り道は痛みへの不安で心がいっぱいだったけれど、それ以上にワクワクして自分の気持ちが踊っているのが分かった。家に帰り、期待と不安とちょっとした罪悪感を抱え、勇気を振り絞って押したピアッサーの硬い感触は今でもよく覚えている。
 私は昔から、何においても自分に自信がなかった。ここで触れているのは主に容姿のことだが、現代の日本で美しいとされている、シンデレラのガラスの靴が履けるような細い体型は1度も手に入ったことがないし、パッチリとした目も、スっと通った鼻立ちも、何ひとつ持ち合わせていない。横顔なんかは特に歪んでいるように思えて、なるべく髪で隠していた。
 しかし軟骨ピアスを開けた途端、髪で隠していた耳を誰かに見せたくて仕方がなくなった。私はこんなにも可愛いピアスを付けているんだぞ。って。その日から、自信がなかったはずの横顔を鏡で見るのが楽しみになった。もっと楽しみを見つけたくて、たくさんのピアスを開けた。私はピアスのたくさん付いた自分の耳が大好きになった。
 今の日本は、ピアスやタトゥーのような、自分の身体を
傷つけるオシャレに偏見を持っている人が多い。親から貰った身体に傷を付けるなんて、有り得ない。多様性が尊重されつつある世の中にも、そんな考えが未だ残っている。確かに、服やメイクで自分を着飾るのとは違って、身体を傷つける行為はどうしても伴ってしまう。だけど、私はこれを、自分を好きになる魔法だと思っている。自分の身体だからこそ、心から大好きになりたいし、自信を持ちたいと思う気持ちがあって良いと思う。ちょっと身体を加工するだけで大好きになれるんだもん。素敵なことだ。
 私は、誰に何を言われても、このたくさんの穴の空いた耳を大切にしたい。明日は就職先の説明会がある。否定されてしまうのはやっぱり怖いけど、それでもこの耳を隠さずに行こうと思う。自分が好きな自分を表現する第1歩になれば良いなと思う。

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