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人間の実体を描きたい|【稽古場レポート】ピンク・リバティ『点滅する女』

さみしそうで、美しい。
そんなチラシから、何を想像しますかーー

演劇ユニット・ピンク・リバティ新作公演
『点滅する女』

公演ビジュアル(表)

6月14日(水)より、東京芸術劇場シアターイーストにて開幕する演劇公演です。
娘の喪失(死)に苦しむある家族に訪れた幻想的な夏の一幕を、ブラック・ユーモアを交えて軽妙に描き出す、さみしくも美しい家族劇。

脚本・演出は、ピンク・リバティ代表の、山西竜矢さん。山西さんは、脚本や演出にとどまらず、俳優としてもキャリアを重ねられています。映像作品の監督業にも活躍の幅をひろげ、2021年に公開した長編映画『彼女来来』では、若手映画監督の登竜門 MOOSIC LABにて準グランプリ含む三冠を達成し、高く評価されました。

ダブル主演となる姉妹役を務めるのは、森田想さんと、岡本夏美さん。森田さんは、映画『わたしの見ている世界が全て』に出演し、マドリード国際映画祭2022外国映画部門 主演女優賞を受賞。岡本さんは、映画『ハニーレモンソーダ』や舞台『12人の淋しい親たち』などに出演し、多大な人気を集めています。

チラシに映る彼女たちは、凛とした爽やかさを残しながらも、どこかさみしそうな表情をしています。作品の雰囲気が気になり、私は稽古場の取材に伺いました。

撮影 : 中島花子

その日の稽古は、シアターゲームからスタート。40分ほどかけて、じっくりと場の空気をあたためていきます。その後、山西さんの提案で、今作に出演する俳優・大石将弘さんによる「歩き方のワークショップ」が始まりました。

ティザー映像の冒頭に映るように、この作品では、登場人物がゆっくりと歩く舞台表現が特徴的なのですが、大石さんの動きを軸に俳優の動きを揃えていきます。
「ゆっくりと歩く」といっても、舞台上で美しく自然に魅せるのは難しい技術。「ゆっくり」という言葉に囚われると、ロボットのように同じ側の手足が同時に前に出てしまったり……なんてことも起きてしまうのです。
肩の力が抜け、とても自然に歩く大石さんの動きにならい、ほかの俳優のみなさんも練習をつづけます。稽古場には集中の眼差しが溢れ、15分ほどで、全員の動きがみるみると揃っていきました。

撮影 : 中島花子

そして、シーンの創作へ。

この物語では、若くして亡くなった娘・千鶴(岡本夏美)の霊が、君子という女性の身体を借りて家族のもとへ戻ってきます。霊となった千鶴は、家族を驚かせるだけでなく、あるひと言をきっかけとして家族関係を大きく揺り動かします。

その中で、あるキャラクターが暴れ回るシーンの俳優たちの動きについて、丁寧なすり合わせが行われました。なぜそのキャラクターは暴れる感情に至るのか、逃げ回る周囲のキャラクターたちはどのような動線で動くと自然なのか……。

演出の山西さんが一方的に指示を出すのではなく、俳優のみなさんも「どう動きたくなるか」を発言し、一緒になって話し合いながら、確認作業が進んでいきます。また、霊である千鶴は逃げる必要がないので、千鶴役の岡本さんは、俳優部と演出部のつなぎ役のように、特に積極的に提案している姿が印象的でした。

撮影 : 中島花子

4時間ほど稽古を見学しましたが、非常に素敵だと感じたのは、山西さんのあたたかい笑い声。俳優の芝居に対して細やかに反応し、たくさん笑います。心から創作を楽しんでいるのだなぁと、よく伝わります。
演出家として最初に芝居を観る山西さんが、俳優にとっての最高なファンになるからこそ、それに呼応するように、俳優からもエネルギーに溢れる演技が生まれる。とても心地の良い創作現場でした。

撮影 : 中島花子


今作は東京芸術劇場が才能ある若手団体とタッグを組み上演する“芸劇eyes”に選出され、演劇界での注目の存在です。見学の合間に山西さんへ、戯曲づくりや上演への想いについて、お話を伺いました。

撮影 : 高木陽春

ーー戯曲の内容は、いつもどのように考えていますか。
山西:人間の実体を書きたいと考えながら書いています。人間は「良い人」や「悪い人」といった両極端で区別されるのではなく、良い人にも悪いところがあって、その反対もあると思うんですよね。この曖昧さを書くことが好きなんです。

ーー曖昧さは、今回のチラシデザインにも表れている気がします。さびしそうで、美しい。家族をテーマにしたのは何故ですか。
山西:創作活動が趣味ではなく仕事として成立するようになってきたことで、不思議と家族と向き合う時間が増えていきました。そうしたら、自然な成り行きで、家族をテーマにしていたんですよね……。

ーー稽古も、仲の良い家族のように、笑いが溢れていましたね!
山西:みなさんが積極的に発言をしてくださるので、いい雰囲気で進んでいます。好きで続けている演劇なので、ピリッとした空気よりも、明るい雰囲気で稽古を進めていくことを心がけていますね。

ーーさいごに、上演へ向けた想いをお聞かせください。
山西:笑えたりも、泣けたりもする作品になったらいいなと思いながら創作しています。いろんな人に伝わってほしい作品です。ぜひ観にいらしてください!

山西さんは、取材中も頻繁にあたたかい笑い声を響かせ、創作への想いを丁寧にお話ししてくださいました。
この公演は、高校生以下のチケットや鑑賞サポート付き公演も用意されており、山西さんの「いろんな人に伝わってほしい」という言葉を叶えるべく、みんなが一緒になって楽しめる観劇の環境が、よく整っています。ぜひ、ピンク・リバティに、出逢ってください。


【公演情報】
ピンク・リバティ 新作公演 「点滅する女」

公演ビジュアル(表)
公演ビジュアル(裏)

作・演出:山西竜矢
音楽:渡辺雄司(大田原愚豚舎)
出演:森田想 岡本夏美
水石亜飛夢 日比美思 斎藤友香莉 稲川悟史(青年団) 若林元太 富川一人(はえぎわ)
大石将弘(ままごと/ナイロン 100°C)金子清文 千葉雅子(猫のホテル)
日程:2023年6月14日(水)~6月25日(日)
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
チケット料金
前売 4,800 円
当日 5,000 円
前半割 4,500 円(6月14日~6月16日)
高校生以下 1,000 円

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