ギャル、勇者になる 19

「さ、まずは単純なところから始めていこうか」
 そう言うのはボーア領次期女王であるレイラ・エーヴァックの異母姉妹であるブラッド・エーヴァックだ。
 現在、ウチらがいるのはエーカトール邸の西棟にある訓練場。広さ的には一般的な学校の体育館ほどの広さではあるが、なんと言っても天井の高さが違う。
「真奈、ファイト〜!」
 このなんかちょけてる金髪ガール、セレナ=エーカトールこそ、このエーカトール邸に住む1人娘である。
「セレちゃんさ!ここの天井、すごく高くない?」
 疑問に思ったので彼女に質問をぶつけてみることにした。この訓練場、部屋の広さに対して天井までの高さは、この訓練場がもう1階分作れそうな空間であったのだ。
「あ〜コレね。一応意味はあるんだけど、今は気にしなくていいよ!」
 なんかはぐらかされた気がした。と言うかどちらかと言うと「そのうちわかる」と言う声である。訓練と何か関係があるのだろう。
「まあいいか……で、ブラッドさんまずは何をすればいいわけ?」
 気を取り直して訓練相手であるブラッドに注目する。
「そうだな…まずはどう言う力を持ってるかによって変わる!お前はなんの力を持っているんだ?」
 そう言えば彼女はまだウチの能力のことを聞いていなかったんだっけ。
「真奈は桜流派と下上院寺の血を引いてるわよ〜」
 少し離れた場所で見ている金髪ガールの声がする。
「ほう……!桜流派か……じゃあ取り敢えず」
 一瞬感心したブラッドはその次の瞬間、彼女が持ついくつかの剣の中から短剣を持ち、ウチに矛先を向けるような姿勢で圧をかけてきた。
「もし桜流派の血が流れてるなら……」

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「これは防げるだろう!」
次の瞬間、一気にウチに詰め寄ると、その力を込めた短剣をウチに向けて切り付けてきた。
………………
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「…!」
 この数秒で起きる事をウチは未来視した。ウチも身体に力が入る。
「これは防げるだろう!」
 ブラッドは一気にコチラとの距離を詰め、それと同時にもっていた短剣で切り付けにきた。
「来る…!」
 この先の未来は見えていない。咄嗟の直感を信じ、ウチが出した答えは…脚だった。
「なっ…!?」
 ある程度の予測をしていたブラッドが焦る。しかし次の瞬間、彼女はウチから距離を取ったのだ。
 というよりこれは…力負けして飛ばされている…?
「え……」
 ウチも正直困惑している。たしかに向かってくる刃に対して咄嗟に脚で蹴る動作を行った。が、そこまでの力は入れていない。これが、桜の力なのか…?
「…やるな。それでこそ桜の一族ってところだな…」
 だいぶ離れたところで脚で踏ん張り、衝撃を耐え切ったブラッドが言う。
「だが今の力の入れ方はムラがありすぎだな。自分で力を発揮すると言うよりは危険を感知した上での防衛反応、つまり『まぐれ』に近い。…先読みしたか…?」
 ウチは少しハッとする。特に何も伝えていないが、彼女の推測は完璧だった。
「そんなに驚くことはない。戦闘経験がない割に、そのタイミングを瞬時に判断できる理由はどう考えてもその先読みの能力だけだからな」
 その顔に古傷を持つ小柄な女性の言葉は、数々の戦闘を重ねてきた重みをひしひしと感じさせるものであった。
「だが、ポテンシャルは十分にある。このムラを少しずつなくせれば強くなれる筈だ」
 そう言って少しニヤリとする彼女の顔はまるで彼女自身の部下になった気さえ起こさせるソレである。
(真奈の力…確かに見込みがあるとして連れてきたけれど、咄嗟に出たとは言え相当ね…。それに、あの力でもまだまだ全力を出してない感じに見える……)
 声を出さずにそう感心するのは、横で見守るセレナ=エーカトールであった。
「じゃあ、もう一度同じ事をするぞ」
 その言葉とともにブラッドの集中力は再度ウチの方に向けられる。
 さっきは何も考えずに出せたけれど、次は意識して彼女の攻撃を受け止める必要がある。その違いは、その攻撃を防ぐ際に出てくるのだろうか。
「いくぞ!」
 先ほどと同様に彼女が突っ込んでくる。そのタイミングに合わせ、ウチは足に意識を集中させる。
「今!」
 ウチの脚が上がる。先と同様、ブラッドの刃を受け止める。
 が、違う。先ほどと明確に違う事が発生した。互いの力と力がぶつかり、両者力の押し合い状態になる。ウチが劣勢だ。
「……グッ…!」
 彼女の力を足から全身に感じ取っている。そのパワーは意識をすればするほど痛みとして体に伝わる。
「グ、グヌヌヌッ!」
 余りの強さに思わず声が出る。ウチはさっき、コレを簡単に弾き飛ばしていたのである。
「あまり無理はするなよ!!先ほどと変わってムラはないが意識しすぎている!こういう時はわざと受けて受け身を取ることも重要だ!」
 ウチの脚には隙あらば切り付けんとするその腕を押しつけ続けられている。これ以上耐えるのは危険だ。
「……ッア!」
 ウチは守りに使っているその足の力を軸に、後ろに飛ぶように蹴り、受け身を取る。正確には、ほぼ転んだ状態に近い。
「…っつ〜…」
 思わず苦痛の声が出た。それとほぼ同時にブラッドが駆け寄ってくる。
「受け身を上手く取れてなかったように見えるが、大丈夫か?」
「う、うん。なんとか…」
 かなり強い衝撃。一瞬ゲホゲホとむせたが、コレくらいならまだまだこれからと意地を張れるくらいのダメージである。
「大丈夫なら良いんだ。…まぁ、大体の正確な力量は自分でも理解できただろう?」
「ええ、なんとなく。さっきはよくアレを簡単に跳ね返したな〜って」
 そのような事をブラッドに伝える。
「それが理解できただけでも十分な収穫だ。お前さんの中にはあの力くらいなら余裕で弾き返せるモノが宿っている。だが、アレを引き出すためにもちゃんと戦う数を重ねる必要があるんだ」
「数…かあ…」
 ウチの呟きにブラッドは頷く。
「だがさっきの咄嗟の反応の時よりも力に芯が通っていた。ちゃんと意識して力を出そうと言う感覚が伝わってきたぞ」
 少し嬉しそうに彼女は話す。
「だが、脚に集中しすぎる余り次に取るアクションにまでは意識が回っていない。そこも課題の一つだな」
 キチンと良かったところ・改善すべきところを分析する彼女のその顔はちょっとしたマニアのようなものも感じられた。
「まるでママみたい…」
 そう呟くといままで楽しそうだった顔が急に曇る。
「今なんて言った…?」
 …この空気、シリアスな雰囲気から転調した事が全員に伝わる。それを瞬時に捉えたのはレティだった。
「ブラッドおか〜さま〜」
「おい!!今この短剣で切り裂いてやろうか!!!」
 茶化すレティに怒るブラッドのソレは完全に以前から形成されている空気そのものである。
 …もしかして、ママって呼ばれがち…?
「ママ〜〜!バブバブ〜〜〜!」
 金髪セミロングも調子に乗り出した。ウチはもう知らない。
「お前が茶化していいとは言ってないぞ!!!エーカトールの娘だからと言って手加減はせんぞ!!!!」
「レティさ〜ん!!ママが襲おうとしてるよ〜!」
「ママ暴力はんた〜い!」
 …茶化しすぎだと思うんですケド。

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・19話です。ちゃんと真奈ちゃん達でてます。やったね。
・ジワジワいい感じになってますね。ね!!!!
・読んでくれて、大感謝。
・BIG LOVE…

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