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コロナ禍で殺処分数は増加するのか? 状況・課題整理をしてみた_2020/05/03

こんにちは、シロップの井島です。保護犬猫マッチングサイトOMUSUBI(お結び)の事業責任者をしています。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、数ヶ月後が不透明な状況ですね。

日々更新される情報や悲観的な予測に頭を抱えている方も少なくないと思います。今後新型コロナ感染対応の長期化が見込まれる中、ペット業界にも影響が広がっています

今後の見通しが立たない部分もありますが、現在の問題を整理し、シナリオ別の施策を整えておくことはできます。むしろ「ピンチはチャンス」を実感する機会にできるかもしれません。

本記事では主にペット流通市場において、新型コロナ感染拡大に伴い顕在化している事象と問題を整理し、収束シナリオ別に対策を検討することを目的にまとめてみようと思います。

ちなみに、昨夜SNSで寝ぼけながら見た新型コロナの風刺動画にこんな一節がありました。

The only way we're gonna get through this is if we think as we, not as me.
この状況を切り抜ける唯一の道は、「私」ではなく「私たち」として考えるしかない。

不安と不確実が溢れるこの状況下で、暗がりにスッと刺さる一筋の光を見たような気持ちでした。タイトルを覚えていないのが悔やまれますが…。

動物愛護に関しても人それぞれ多様な価値観があり、動物も言葉で主張しないため、「私」の意見がぶつかり議論が空中戦になってしまうことが多いです。

しかしこの時期をただ苦しい日々にするのか、変革の日々にするのか、それは私たちがどれだけ複雑な状況を整理し、他セクターを理解し、遠くを見つめられるかにかかっていると感じます。

新しい情報や指摘がありましたらぜひ連絡ください。
都度、情報更新を行なって参ります。

# ペット流通市場の現状と問題

まず前提に、「ペット流通市場」と記載すると以下の図でいう繁殖・販売セクターが連想されますが、飼育セクター保護セクターも含める意図で執筆しています。

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※超絶シンプルなイメージ図であることご了承ください。

元々、殺処分問題の話になるとセクターごとの議論に終始しがちです。しかし流通ライン上では必ず相互に影響を与えているので、本来は他セクターにどんな悪影響・好影響を与えるかを切り離さずに施策検討すべきだと考えています。

以上を踏まえ、新型コロナの感染拡大に伴うペット流通市場の事象整理をしてみたいと思います。

事象_1|ペットショップ、卸市場の休止懸念

緊急事態宣言が発令された地域を中心に、生体販売を行うペットショップの休業・営業短縮が行われています。また、繁殖業者から子犬・子猫を買い付けが行われる卸市場も、規制強化が進むと稼働が難しくなることが予想されます。この状態が長期化をすると深刻な問題が発生すると考えられます。

■子犬・子猫の売れ残り問題
現在の日本では、残念ながら幼いほど好まれる(価値が高い)傾向にあります。休業要請が長期化する中、犬猫たちは成長し(あまりこの書き方はしたくありませんが)生体価値が下がってしまうのが実情です。買い手がつかないまま成長した犬猫の行き場がない場合、殺処分数の増加につながったり、引き取り屋へ流れることも懸念されます。

■繁殖業者(ブリーダー)の飼育崩壊
卸市場やペットショップとの売買がメインの業者は、この状況が長期化した場合、資金繰りの悪化による飼育崩壊も可能性として考えられます。

「そんなブリーダーそもそも潰れてしまえ」という声も聞こえてきそうですが、繁殖セクターの健全化を目指す場合、一時的に漏れ出す犬猫の救済措置も検討が必要だと考えています。保護団体の継続すら危ぶまれる現状、崩壊事例が多発することはとても喜べる状況ではありません。

後述しますが、外出自粛の影響でペットのお迎え希望者は増えていると言われています。直販がメインのブリーダー(飼育環境・繁殖管理を徹底する優良層)は、おそらく現時点では希望者との面会方法や感染対策が課題となることが予想されます。

事象_2|全国的な外出自粛(休校、リモートワーク含) 

感染爆発による医療崩壊を防ぐため、# StayHome 習慣が広がっています。家で過ごす時間が増え、ペットを迎えたいと考える方が増加傾向にあります。実際にOMUSUBIでは感染拡大前の2020年1月と比べ月間応募者数が2倍になっています。

レンタルペットを営む店舗でも需要増加を実感しているニュースもありました。

アメリカの一部地域では、預かりボランティアへの応募が増加した施設もあるようです。実際に預かりボランティアを行うためには知識や団体のサポートが必要になり、クリアすべき壁があります。

しかし負担が増加する保護団体や犬猫の支援として、レンタルではなくボランティアという選択肢の浸透も大切だと感じます。


■人手不足による団体スタッフの負担増  
外出自粛の影響で、ボランティアスタッフが確保しきれず人手不足に悩む団体もいます。元々最小限のスタッフで運営している団体も多い中、「スタッフ間で感染者が出たら誰が保護犬・保護猫の世話をするか」**心配する声も挙がっています。

また、OMUSUBI登録保護団体にヒアリングしたところ、3月4月と問い合わせが増加し、対応が追いついていないというお話もありました。

■ペット需要の増加、安易なお迎えの問題点
「家にいる時間が増えるから、家族を迎えるにはちょうど良いタイミングじゃないか」そう考えるのは普通だと思います。しかし、安易なお迎えによるミスマッチや、外出自粛が解けた後の環境変化が飼育放棄につながることが懸念されています。

どれだけ長期化すると言っても、after/withコロナの時代は訪れます。

ぜひ、15年先も考えた上で検討いただきたいです。OMUSUBIでもサイト上で注意喚起をしたり、公式SNSで # 迎える前のいぬねこ勉強会 として情報発信をしています。

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■海外の関連ニュース
他国でも同様の事象があり、譲渡促進の機会と捉えると共に、やはり安易なお迎えを懸念視しているようです。

【要約】新型コロナの影響でペットを助ける人が増加。保護団体は「犬はロックダウンのためだけにいるのではない」と熟考を呼びかける。(UK | THE Sun

【要約】犬猫の里親への関心は新型コロナ発生後に増加しているが、保護団体は「迎える前によく考えて」と呼びかけている。(UK | skynews

事象_3|保護団体の譲渡会中止、面会延期

OMUSUBIサイト上では譲渡会などイベント情報の掲載ページがあります。3月に外出自粛、施設の休業要請が本格化すると同時に譲渡会の中止が目立つようになりました。

■9割の保護団体がコロナの影響を実感
保護団体さんとのコミュニケーションから影響の大きさが垣間見えたため、登録団体を対象に影響アンケート調査を実施。9割の保護団体さんが「影響がある」と回答しました。

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影響を受けている項目として最も多かったのが「譲渡会中止による譲渡機会の減少」です。ペット需要は増加していると言っても、今まで出会いの場として重要だった譲渡会が開催できない状況は課題です。

■適切な譲渡機会の創出が課題
今後、今までのような譲渡会開催は難しくなるため、オンライン上での機会創出が重要になります。しかし「電話やメールだけで見極めるのは難しい」という至極真っ当な声もあります。

対象は命なので、結果的にオフラインで触れ合い、相性を確かめることが大切です。その重要なオフラインの場まで、いかにオンラインで繋げていくかを考えていかなければいけません。

オンライン上で適切な譲渡機会を創出できれば、犬猫にとっては移動ストレス、慣れない会場でのストレスを軽減した上で、本来の姿を見てもらえるメリットにも繋がるでしょう。

OMUSUBIではオンライン上での譲渡機会の創出を急ぐため、# オンラインお結び会 を実施しています。また、登録保護団体を対象にアンケート調査の上で「オンライン活用サポート(仮)」も実施する予定です。

■キャパシティ不足と金銭的負荷
適切な譲渡機会・人手・資金が足りない状態が長期化すると、保護団体自体の多頭飼育崩壊も可能性としてあり得ると考えています。

普段は譲渡会で寄付を募ったりチャリティグッズ販売したりするケースも多く、寄付・支援物資の減少も懸念されています。保護猫カフェやサロン併設で運営していた施設も収入を断たれている状況です。

「事象_1」で言及したように、今後流通から漏れた犬猫や飼育放棄から、保護犬猫の増加も予想されます。社会の受け皿として活動している保護団体の負担軽減は非常に重要な問題です。

事象_4|感染者の長期間隔離

今後も感染者数の増加が見込まれる中、ペット飼養者が新型コロナ感染により長期間の隔離が必要になった場合、預かり先の問題も噴出します。

東京都福祉保健局でもペットと暮らす方に向けて、感染時の対応準備を呼びかけています。

ペット保険のアニコムホールディングスでは感染者のペットを無償で預かる# StayAnicomプロジェクトをスタートしています。

事象_5|経済的な不況

新型コロナによって失業、収入減少の方が増えることで、飼養困難者の増加も懸念されます。生活費の確保が必要な中、移住環境を変える際にペット可の適当な物件が見つからない可能性もあります。

現在、犬の飼育世帯率は全体の約13%、猫は約10%(※)といわれています。推計1,857万5千頭の犬猫が飼育されている状況を考えると、人の生活環境が変わることで影響を受ける動物は決して少なくないでしょう。

※一般社団法人ペットフード協会「2019年(令和元年)全国犬猫飼育実態調査 結果」

# 今後の変化に対する考え方

不確実な状況で噴出する問題の数々。悲観的な見方にならないのが無理がありますね。

世界全体が共通の問題に直面し、誰かの親、子供、友人が命を落としています。収束するのは1年後なのか、5年後なのか、確実な見通しは立っていません。新型コロナは間違いなく社会のスタンダードを変えています

そしてペット業界に限らず、社会全体がスピードを持って変化することを迫られています。その変化にただ悲観的に身を任せるのか、変化の潮流を向かわせる方向をコントロールするのか、それは私たち次第だと思います。

元々、ペット業界には変わるべき点が多くありました。流通市場に長年こびりつく課題や保護活動者の負担が年々増している状況など。

それらが変わるためにもっと時間が必要と思われていました。しかし新型コロナの影響で強制的な変革期に移行できる、しつつあるという見方もできるかもしれません。

不謹慎と捉えられてしまうかもしれませんが、よく言われる「ピンチはチャンス」の言葉を実証できる機会な気もします。

# まとめと想い

取り止めのない部分もある中、ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。

結局は私の視座・視野で把握している状況整理になってしまうのは否めません。それでも、目の前の問題解決を行うためにも、シナリオ別に対策を検討するためにも、状況整理をしたいと考えていました。

私は感染症の専門家ではありませんが、ワクチン開発が成功するか、部分的な収束を繰り返しながら集団免疫を獲得するのか、それとももっと問題が発生するのか。それぞれのシナリオで見通す必要があるでしょう。

現状のままでは今年度、来年度の殺処分数の増加は避けられないです(この予想が外れるのが一番ですが)。

「社会を変えたい」はよく言われる言葉です。しかし私たちOMUSUBIも、保護団体さんでさえも、現在の流通システムを構成するステークホルダーであることは変わりません。

問題を他者に見出すのではなく、私(たち)がどう変わることで、社会システムにどんな影響を与えるか、メリットはもちろんデメリット含め熟考するタイミングになれば、あるいは殺処分数の増加率を抑え、システムを最適化する機会になるかもしれません。

ペット業界を構成する人・企業が適切な連携を強めることが、この状況を乗り越えコレクティブインパクトを生み出すために一つ重要です。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!!

色々な角度の方にご意見をいただければ情報の精度も上がります。ご意見、感想お気軽にご連絡ください。

■関連情報


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