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消えないで H2CO3



 上になり下になり。裏返し表返し。さっきまで甘かった息が忙しく切れる。柔らかく波打つようだった体が、硬く、細かく、跳ねる。
 乱れても、きれい。言っても許されるくらいの仲にはなったと思ってる。男のくせに、って。
 きれいなままで終わんないでよ、ほら。
 珍しく俺を押し返しそうなくらい強ばるのを、開かせて押し入って体ごと。
 押されるままに腰が逃げたりしないキッドが、格好いいと思う。
 格好いい、いつものキッドで終わるなよ。欲しい、欲しい、欲しい、、ソレだけになった欲の垂れ流し、見せて。
 見せて。
 自分の体を支えるか、放棄して俺にしがみつくか、キッドの指が迷ったように動いたときにはもう手後れ。ちょっと高めの声と一緒に、、、声じゃないものも出ちゃう。俺もね。

 くたっと力が抜けると同時に、、あっけなーーーく色気も抜けて。ジムで体を動かしてばたーっと寝転がったのとまるきり同じ。
 こんな雑な仕草、絶対に女の子相手には、、見せたりしないんだろ?

「ごめん、疲れさせた?」

「あー、、、と言うか、、やりづらかった、かな。だってさ、俺が動こうとするといちいち違うように動かしたろ。口数も妙に少ないし、、、なに?今日、なんの日さ?」

「ぜんぜん何も?強いて言えば真面目にキッドさんを楽しんだ、かな」

「へえ、、いつもの愛してる攻撃じゃないんだ?」

「おっ?ついに言われないと物足りなくなってきたか」

 こめかみ辺りに軽く唇を落とすと、まだしばらくヘタっていそうだったキッドは「ぬかせ」と流して立ち上がった。洗面ボウルの横に置いてあるスチーマーから熱々のタオルを出すと、一本は俺に投げて寄越した。うん、あれプレゼントして正解ね。けっこう気に入ってそう。
 違った。俺が買ってここに置いただけだから、あれ俺の。お町の部屋にあるのを見ていいなと思ったのよ。あちらは美容目的で、俺達は違うけど。いやいや、まっとうな使い道だと思うぜ、衛生目的。

「あっ、お前、俺とヤるの飽きてきたとかじゃねえ?言えよ、そーゆーのは」

「ぶっ、、、!」

 ソーダメーカーから取り出したグラスをあわや口につける寸前だった。

「マジで言ってんの?!なによキッドさん、飽きられるのが怖いとかーー?」

「俺は!自分が飽きるのが嫌いなんだよ。俺だけ平気でお前がそうじゃなかったらつまらねえだろうが」

 あらヤダ、まじだよ。
 にやにやと顔がゆるんでる俺に不服そうな仏頂面。絶対に外したり逸らしたりしない視線がものを言う。俺を見ろ。ちゃんと見ろと。
 それ、好き、、、、。ほんとに。

「飽きるどころか、俺は、、まだ緊張してるよ」

 ああもう、必死だ。たった今さんざん楽しんだ後だって言うのに。どんだけ触っても何をしても、いつまでたっても。

「初対面でブラスター向けられてドキッとしたのをさ、まだ引きずってるんだぜ?」

 ドキドキし過ぎてしんどいくらい。距離とろう。体の距離。

「そう言えば、、、」

 そんな時に限って近寄ってくるんだ。キッドは。今夜はちゃんと自分の部屋に戻るつもりで、ベッドじゃなくてソファーに居るのにさ。

「訊くの忘れてたな。お前あの時、本当に撃たれるとは考えなかったのか?」

「えっ?!思ったよ!思いましたよ?」

 だってあれは、、アイザックがチームメイトなんて怪しいこと言い出したすぐ後だったし。まじヤベえ展開きたかと。

「てんで余裕に見えたから、てっきり顔でなめられたかと思ったけどな」

 そりゃ俺ちゃんだってね、なめられたくないのはお互い様。シンの手前もあった、、て言うか、子供が居る場でブラスターなんか出されてんのにアイザックが悠然としてっから混乱もあった。それに、、、

「言わせてもらうとですね、あんな美人の子猫ちゃんを見せつけられて浮かれた瞬間にだよ、俺より先に乗ってる野郎が居たとか、実際ご立腹モンだったんだからねっ」

 俺もそこは忘れてたけど。

「わ、わかったわかった。許せ。ほら俺、運転したわけじゃないし、ハンドルも何も触ってない。そこは許せ」

 タンブラーグラスのソーダでCheers!

「あ、ついでにもひとつCheersしてよ。あのさ、俺ちゃんあん時、ほんっっと最初の一秒だけ、、、女の子にブラスター向けられたと思ったーー!!」

「あっ、、、こっのやろーっっ!よくも今まで黙って、、、」

 あはははは、言っちゃった!言っちゃった!
 よし、撤退っ。部屋から出られる程度の服、とっくに着ちゃったもんね。追って来れまい?バスタオル羽織っただけのキッドさん。
 ドアのパネルに手を置いてニヤリと振り向くと、部屋の真ん中で仁王立ちしてたキッドは肩からバスタオルを落とす勢いでグラスの炭酸水を飲み干し、そのグラスを、、投げつけてきた!

「ぎゃーーっ!ななな、なんてことすんのよ!投げても割れないジュノースタジオ製だからって!!、、あ、、ほんとに割れないんだコレ?!すげーなっ」

「あの宣伝文句マジだったのか。ほんとに割れてねえや。良かったなボウイ」

「良かったなじゃありませんよ!試すなよっ、まったくもう!」

 まったく、、、もう。グラス投げたりブラスター向けたり欲まみれだったり格好よかったり。今はオヤスミのキスを待ってるただの可愛い恋人。引き止めるつもりなんか無いくせに全裸のままで。

「帰る気満々だな」

「ん、、、おやすみ、、、、、」

 帰る気はあるのに未練たらたら唇を離す。こういうとこ、きっとなめられてんだろうな。

「な、明日の午後、泳ぐの付き合ってよ」

「センタールームの奥のプール?なら午前中に海パン買わねえと」

「午後は、誰も居ないだろ」

「ああ、みんな出かけ、、、えっ、、」

 俺の顔と、何も着てない自分の体とを視線が往復する。
 そう、そゆこと。

「オマエやっぱり、いつもと違うコトしたくてしょうがねえんじゃ、、、?!」

「いつまでも見せつけてるから思いついちゃったワケよ?水の中でどんな風にゆらゆらするのかじっくり観察しちゃうからヨロシクー。ほら、ドア開けるぞ。さっさとベッドに戻りな」

 まだ何か言いたげなもっそりした仕草でバスタオルを拾ってるけど、ありゃ絶対、明日になっちまえばノリノリだ。
 水の中でゆらゆら、、して、させて。それから表返し裏返し、だな。
 もっとも笑い転げて終わりって可能性、高いけどな!






 あのさ、そいでどうなったって、、、プールサイドは戦場だったよ。シンの部屋からノリノリで水鉄砲を持って来たキッドのせいで。





            ーーーendーーー

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