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Milky Road



 熟睡とはほど遠そうな、リズムの整わない寝息の果て。もそり、とキッドが寝返りを打つ。

 寝返りなのか、それとも起きていて体の向きを変えているだけなのか。

 眠りに落ちる寸前のぼやっとした意識の中で、ボウイは男性にしては大人しいその寝相の気配を感じていた。

 だるい。なにもしてないのに。つまり隣で寝ている相手と。

 もういちど、ごそり。

 眠い。仕事が、、、しんどかった。




 四人とも別行動だった。お町が失敗すればボウイは撃墜されていた。アイザックが遅ければキッドは持ちこたえられなかった。役割に集中しながら、他の無事を信じながら。それぞれに。

 ボウイが部屋に戻って来た時、キッドはもう自分の物でないそのベッドで寝入っていた。初めてではないが、少し珍しい光景だった。

 ちょっとつつけばたぶん起きてきて、ちゃんと求めればきっとセックスにだって応じてくるのだろうとボウイは知っていたが、穏やかな眉の寝顔を見たら体から余計な力がすとんと抜け落ちてしまった。





 むくりと、キッドが起き上がる。

 ボウイはほんとうにもう、眠りとの境目だ。背中に感じた気配に、何か応じようか、声をかけようか、目蓋の下で視線が迷った時、すっ、、と、キッドの指の一、二本が、ボウイの髪を撫でた。

 それきり。キッドはまた静かに体を横にした。

 ほんの微かな指の動き。今日も数えきれぬほど引き金を引いた指。

 眠っていたなら気づかなかったほどのそのちいさな行為が、何度となく重ねてきたセックスよりもずっと大事なことに思えて、夢の中、ボウイは愛しさに息を詰める。


『俺の生まれてきた理由』


 そんな言葉がふわっと浮かぶ。

 そして、これがそうならいいのに、と。

 誰か、、見てくれていないだろうか。キッドの仕草を。自分の胸の内にあふれるものを。今夜の自分達を。

 人々がその「誰か」と考えている存在から、自分が離れてしまったのだったと思い出す前に、ボウイは深い眠りに沈み込んだ。

 慈悲深いヒュプノスが、静かな、静かな、アステロイドの夜を散歩する。




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