まっすぐ

 ベッドサイドの壁に掛けてあるコレクションの銃の埃をちょっとはたいたら、つい細かい部分の埃まで気になりだした。額を下ろしてまで本格的なクリーニングをするつもりはなく、ベッドに膝立ちのまま中途半端にちょいちょい拭いていく。
 だらだらとそんなことをしていたらボウイがシャワーを済ませて出てきてしまった。
 しまった。俺もまだ風呂上がりでろくに服も着ていない。まるでボウイを待ちかまえていたような有様。

「お・ま・た・せー」

 ほらな。湯気の残ってるほかほか野郎が後ろから抱きついてくる。
 今に限った事じゃない。ボウイのペースは狂わない。
 素っ頓狂な大声で騒ぎまくったかと思えば、一言もなく出かけていたり、ある日は黙々とマシンの相手をしていたかと思えば、別の日は一人でべらべら喋りながら作業している。結構めまぐるしいヤツだと思うのに、俺への態度は、変わらない。
 耳の後ろに鼻がすりすり。唇が首筋にかすめる。おはよう、おやすみ、いただきます、ただいま。それと同じ、風呂上がりの挨拶。
 いつだったか、律儀と言ったら否定された。マメだと言っても首を横に振る。そうじゃない、愛してる、と。考えあぐねて健気と言ったら口を尖らせた。
 ブレる様子もない挨拶に、俺はと言えば押しのけたり、歓迎したり、締め技に持ち込んだり。バラバラもいいとこだ。気まぐれ?ムラが有りすぎ?我ながらよくわからない。
 今?
 YesともNoとも反応しない俺にじれて、単純に抱きついていただけのボウイの腕がするりと動き出す。わき腹を下がっていくその手を掴んで引き離し、向き直りざま人差し指を突きつける。ブラスターを扱うのと同じ真剣さで、正確に、額の手前五センチ。
 ちょっと寄り目になって両手をあげるボウイの顔に吹き出さないように口を引き結ぶ。
 黙らせたいだけなら指は立てればいい。
 でも今日は。
 五センチをそっと詰めて額に指を当てる。額から鼻筋をなぞって、唇を縦断。
 瞬きを繰り返すボウイ。
 笑ったら負け。たった今、勝手に決めたルール。顎から、、喉。指で線を引くように、体の中心に縦のライン。まっすぐ、ゆっくり。
 胸の中心、みぞおち、そのまま、下へ。

「ちょ、、キッド、、さん?」

 返事してやらない。もうひと押し。指をすべらせる。腹から、もっと。

「な、なあ、ちょっと、、、」

 ニヤケながら顔、赤くしやがった。俺の勝ち。ヘソはからかわずに通過。腰に巻いたタオルのふちに触れて、止める。勝たせてもらった余裕を込めて、目を合わせる。

「どーするつもり?その先」

「どうしたい?リクエストしろよ」

「そりゃもちろん、、」

「あ!道路工事みたいなガツガツしたの無しな!そうじゃないなら、遊んでやるぜ?」

「道路工事!俺ちゃんそんな機械みたいなことした覚えねーぞ。だいたい先にエスカレートしちゃうのそっちでしょーが?」

「は?よく言うぜ、お互い様だろ」

「んーにゃ、7:3くらいでキッドさんの方ががっついてるね」

「テキトー言ってんなよ?なんならガマン比べでもしてみるか?」

「へ?どーやんのソレ?」

「ど、、えーと、、もしかして放置プレイ???」

「ヤダ!絶っっ対やだ。俺ちゃん乗らない」

「俺も嫌だ」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 馬鹿くさい会話のあいだ、実はちょっと反省していた。「遊んでやるぜ」なんてついつい口から出たけれど、そうじゃない。ボウイが健気って言葉に口を尖らせたときと同じ、上から目線の悪い癖。
 遊んでやる、なんてつもりじゃないんだ。お前には、、、お前とは、、、
 遊ぼうぜ、ボウイ。

                end

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