小説『なならき~七福神と七野家~』

七福神たちが繰り広げる、日常系ショートアニメ「なならき」。 その一方で、人間の家族・七…

小説『なならき~七福神と七野家~』

七福神たちが繰り広げる、日常系ショートアニメ「なならき」。 その一方で、人間の家族・七野家に起こっていた物語を公開しています。 最新話は「8」の付く日に投稿されます。 作者:暁唏 哲(あかつき さとる) 「なならき」本編はこちら→https://bit.ly/3JT5uGC

最近の記事

第12話 笑う家族に福来る

「な、何だって?!取り壊しは今日?!」  バンク神の作品の発見を受けて、私達家族は浮き足立っていた。  芸術的価値もさる事ながら、描かれた壁の持ち主に富と知名度をもたらすバンク神の絵画。それが、家族の運営する銭湯に描かれたというのだから。  少し前のかみすねくんの大ヒットを受けて、神拗町では再開発計画が持ち上がっていた。観光客によってもたらされた収益を使って、古くなりガタが来ている神拗町の建物を新しく生まれ変わらせようというのだ。  家族は銭湯の番台の前に集まりながら、

    • 第11話 渡りに宝船

       幸運は長くは続かないものだ。  禍福は糾える縄の如く、月に叢雲花に風。古来から語られてきたように、幸運は儚く、すぐに不幸に取って代わる。  もちろん、幸運が意思を持って人から逃げ出す訳ではない。  幸運というのは、通常よりも良いから幸運なのであって、絶頂の後には普通に戻るだけ……理屈では分かっているが、しかし惜しむ気持ちが拭えないのが人間だ。  ひょんなことから社長の座に着き、給料も待遇も改善したが、しかし周囲の態度や評判がそれで大きく変わる訳ではなかった。  妻とは和

      • 第10話 神はバズなり

        「こんばんわー…… あたしは今、大衆居酒屋『ヤマタノオロチ』に来ていまーす……」  スマホに顔を近づけ、できる限りの小声で話す。もちろん、アングルには最新の注意を払っておかなければならない。今日は顔がアップになる事を見越して、メイクもいつもよりしっかりめだ。  あれからあたしは何度か配信をしてみたけれど、あのアイス配信ほどの手応えはなく、登録者は徐々に減ってきていた。何故か大食い配信者として有名になってしまったものの、元々のあたしは大食いなんかできないからだ。  そんな

        • 第9話 触らぬ電源に祟りなし

           神はついに僕を見放したか。  机の上のノートの文字は、自分で書いたにも関わらず判読が難しい。というか、先程からノートの文字に上手く目の焦点が合わない。隣に開かれた単語帳の上を、僕の視線はスケート選手のように滑っていく。  僕は単語の書き取りを諦めてペンを放り出し、椅子の背もたれに体重を預けた。体は休まれども、頭が休まることはない。それもこれも、少し前から聞こえ続けている、不快な大声のせいだ。 「食らえ3連バナナあああ!」  嫌に耳に刺さる声が、カーテンを貫通して窓の向

          第8話 子の心親知らず

          『ご当地キャラコンテスト、開催中っぴ!』  ひよこを模したキャラクターが、高い声と共にぴょんぴょん跳ねる。  コンテストのコマーシャル動画を見せ終えた私は、向かいに座る母の反応を伺った。想像していた通りだが、あまり芳しくはない。 「この……『っぴ』っていうのは、どういう意味なのかしら?」  どこかピントのずれた彼女の言葉に、私は思わず額を抑えた。 「別に意味があるとかじゃなくって、そういう喋り方なのよ。 『ござる』とか、『なのだ』とかとおんなじよ」 「そうなの?不思

          第7話 撮らぬ企画のバズ算用

          「はーい、今日はですね、なんと!トルコアイス専門店 『ドンドゥルマ・シチフクリアン』にやって来ました!」  あたしは、スマホを持った腕を真っ直ぐ伸ばして、背後にあるアイス屋の看板を頭越しにカメラに映そうとした。が、横長の大きな看板は縦持ちのスマホにはまるで収まらない。  まあ、いいか。大事なのは顔だし。  今や日本人の半分が動画サイトを利用していると、ネットニュースが言っていた。にも関わらず、あたしの生放送には全然人が来ない。  チャンネル登録者数も開設した時の3人から増

          第7話 撮らぬ企画のバズ算用

          第6話 禍い転じて福増える

          「おやおや」  商店街の中を、宝船がすべるように進んでいきます。  先頭で舵を切っている恵比寿さんは、なんだかとても楽しそうなお顔をしていました。  ここは神拗町商店街。神拗町の外れにある、寂れた商店街です。  わたしはこの商店街で、銭湯の番台さんをしています。  近頃は大きなデパートにお客を取られて、商店街の勢いは下火です。テレビで「シャッター街」なんて言葉をきくと、思わず胸に手を当ててしまうくらい。  わたしはもう、40年以上この商店街で暮らしています。繁華街と半

          第6話 禍い転じて福増える

          第5話 能ある神は筋肉を隠さない

          「お〜い、七野〜!カラオケ行こうぜ!お前の奢りな!」  校門を出て20秒。僕は、今日も平穏に帰れない事を悟った。  声をかけてきた那珂島は、返事も待たずに僕の肩を掴んで引き寄せる。バランスを崩し、たたらを踏んだ僕を見て周囲から下卑た笑い声が上がった。何が面白いのだろう。 「今日何時間する?追い出しギリまで?」 「やべ、学生証家かも」 「別になくても顔で分かるべ」 「七野、今日財布持ってきてるよな?」  曖昧な笑みで返せば、那珂島は「分かってんじゃん」と笑って背中

          第5話 能ある神は筋肉を隠さない

          第4話 女心と琵琶の音

           ああ、どうしてあんな事を言ってしまったのかしら。  昼下がりの公園で、私は1人、空を見上げていた。今日は良い天気だ。大きな空を眺めれば、綿のような白い雲が、右から左へゆっくりと飛んでいく。  子供達は学校に、働き手は職場に、人が出払った後の住宅地は静かだ。  長く閑があると書いて、長閑。のどかな昼下がりとは、こういう時間のことを言うのだろう。一つ違う点があるとすれば、私の心中は全く穏やかではないということだ。 「ニャー」  膝の上で、三毛猫のラッキーが不服そうに鳴き

          第3話 二度ないことも三度目の正直

          『ピッ……ピッ……ピッ……』  機械的な、冷たい音がゆっくりと鳴っている。  果たして、私はこの音を今、自分の耳で聞いているのだろうか。あるいは、記憶に焼き付いたそれが、頭の中で反響しているのか。  金縛りは、起きたまま体が動かなくなるのではない。本人は眠っているのに、起きていると錯覚して、体が動かなくなる夢を見ているのだ。  そう、孫が得意げに話すのを聞いたのはどれほど前だろうか。指先一つ自由にならぬまま、ぼんやりとした視界の中、病室の天井を見上げているこの状況も、

          第3話 二度ないことも三度目の正直

          第2話 小銭も積もれば山となる

           「店長、先輩、注文が溜まってきてますよ!」  厨房に向かって大声を上げながら、俺は空の食器を手際よくトレイに乗せていった。  バイトを始めたての時はビールを注ぐのも一苦労だったが、今ではジョッキを両手に3つずつ持って運ぶことも余裕だ。すっかり一人前の居酒屋店員と言える。 (別に、居酒屋店員のプロになりたいワケじゃないんだけど……)  運んできた食器を流しに並べると、店長の首のうちの1本が伸びてきて、スポンジで皿を洗い始めた。  首が全部で8本あるこの居酒屋の店長は、当

          第2話 小銭も積もれば山となる

          第1話 人も歩けば鯛に当たる

           不幸は連続するものだ。  泣き面に蜂、弱り目に祟り目など、古来から語られてきたことわざにもその事実は表れている。  もちろん、不幸が意思を持って同じ人間を襲う訳ではない。  不幸に見舞われた人間は注意力が散漫になり、不注意が次の不幸を招く……理屈では分かっているが、しかしこう不幸が続けば、何かのせいにもしたくなる。  事の始まりは、仕事で犯した小さな間違いだった。ちょっとした、スケジュールの記入ミス。良くないことだが、よくあるミスだ。  しかし、今回はそれがとことん裏目

          第1話 人も歩けば鯛に当たる