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ななのルーマニア シビウ日記 part.5 俳優座アテンド①

part.4トレーニング期間で終わっている時点で、この先がどれほど目まぐるしく、息つく暇もないくらい楽しかったかが伺える。(ただの更新をさぼった言い訳...)

シビウから帰国して、人魚の瞳、海の青 公演を終え、深奥と夢鬱の稽古中。二つの公演を挟むと、なんだか6月の記憶は少しだけ遠い。忘れたというわけでは決してなくて、まるで一年前のことみたい。まさか、まだ二ヶ月も経っていないだなんて。

時系列順に書きたいから、これを書きたくないけど.... 

実は人魚の初日(7月20日)にルーマニアでとっても仲良くなったラブユーな美咲ちゃんが来てくれた。(コカ・コーラの翼さんと王子の大石さんも。ありがとう!)美咲ちゃんと別れたあと、長いことラインで会話をしたのだけれど、夢みたいな日々だったのに、夢じゃなかったね!とお話したことがとても嬉しかった。海外で出会って仲良くなった人と、日本で会うことが実は私は怖かったりする。海外マジックって絶対に存在していて、外国にいる高揚感・ドキドキ感から凄く仲良くなったり、好きになったりしても、それが日本に帰ってくると消滅して、急にぎこちなくなっちゃう、みたいな。結構、そういう事ってある。美咲ちゃん・大石さん・翼さんと飲んでて、全くそれがなくて、ルーマニアにいた時みたいにお話できたことが、ちょっと嬉しかった。演劇っていう繋がりがあるからかもね、と美咲ちゃんの一言に納得。夢じゃなかったね。

(現在のことだから四角で囲った)

時系列を巻き戻したいと思う。

8月の現在、今から書くことは、相当印象に残っていることだと思って欲しい。ちゃんと現在進行形で更新したかったな、と思うけれど、本当に冗談ではなくアテンド業務がはじまってから、メイクも落とさず、歯磨きもせずに眠る夜が過半数だった。そして、それを別のボランティアの女の子に言うと、ぎょっとされて「え、それ私もだよ...」と言われる毎日。インプット量が多すぎて、動きすぎて、楽しすぎて、身体が持ってなかったな。毎日。

私の可愛いスパイク(お前は犬を可愛がりにいったんかい、と突っ込まれてもおかしくないほど、私のカメラロールは犬で埋まっている)

トレーニング期間が終わり、私の第一弾目の仕事は俳優座さんのアテンドだった。俳優座!もちろん名前は存じ上げているけれど、実は一度も拝見したことがない。「クスコ」という演目を上演される、と聞いてドキドキする。アテンドメンバーは日本人からは、私、華ちゃん、大石さん。ローカルボランティアからは、アナ・オクタヴィア・忘れた。(忘れたことは正直に忘れたと書く方針で行きます)

計6人のこのメンバー。なぜこの構成か、というと日本人カンパニーアテンドには日本語・英語・ルーマニア語が話せる人が必須だから。

カンパニーから何か要望が入る→私たち日本人ボランティアが英訳しローカルに伝える→ローカルボランティアが小屋付きさん・コーディネーターにルーマニア語に訳して伝える

このベルトコンベアの上で情報や質疑応答は流れていく。バイスバーサもある。聞いてみると、小屋付きさん(劇場で働いている方)は英語が話せない方が多く、確かに身振り手振りのブロークンでやっと意思疎通出来たかもしれない、とほのかに思うレベルだった。伝言ゲームもいいところで、「それ、本当にあってる?」「彼、本当にそう言ってた?」「もう一回聞ける?プリーズ...」と何度も何度も繰り返した。私はこのチームでは英語のコミュニケーションを主に担当していたので、ここで間違ったら死んでしまう、と常に細心の注意を払って情報を流したり、受け取ったりしていたことをよく覚えている。

俳優座さんはモスクワ公演を終えていらっしゃるとのことで、きっとお疲れだろうな...とホテルでカンパニーの到着を待つも、予定時刻より3時間ほど遅れてご到着。ブカレスト⇆シビウの移動はただでさえ疲れてしまうだろうに、税関が混んだり、渋滞があったりで大変だったらしい。

(この期間中、バタバタしすぎて一切写真がありません。これでもか、というほどある犬の写真をお楽しみください。)

突然大勢の日本人を目の前にして、ちょっと緊張する。ご滞在されるのは、6/14-6/18。この期間、私は俳優座さんのアテンドしか仕事がない。(人によっては掛け持ちで別のカンパニーアテンドや仕事があったりする)4日間、全力投球しようと皆さんを目の前に決意。海外の演劇祭で、ボランティアとして日本で(東京で!)演劇をやっている方々とお会いするなんて、ちょっと不思議だな、とぼんやり思う。

次の日、朝から仕込みが始まりボランティアは全員9時に劇場前集合。朝起きて、ホストマザーのルチアがいつも仕事前に置いて行ってくれるゆで卵をお腹にいれて、劇場に向かう。クスコが上演されるGONG THEATREは、普段は児童用のパペット演劇が主流で上演されているらしく、建物の中は人形がいっぱい。可愛くてユーモラスだけど、ちょっと不気味。

旧市街の中、少し目立つモダンなデザインの外観がとってもおしゃれ。

プロデューサー・テクニカルスタッフと合流して、俳優さんの入り時間まで諸々の確認。

このたった1日半で、リハをして、場当たりをして、客席を作って、上演まで持っていかなくてはいけない。そして、次の日には違う演目がそれを繰り返し、そして次の日にはまた違う演目が...と目まぐるしく回るシビウ国際演劇祭。一つのスペースが走馬灯のように、形や場所を変えていく姿は演劇の無常さ・儚さをこれでもかと感じさせてくれる。ただ、"楽しさ" (excitment)がそれに勝ることも確かで、真っ裸・素舞台の劇場が明日は満席のクスコ公演になる、と思うと、鼓動が高まって仕方がない。

最初のお仕事はラドゥ・スタンカ(国立劇場)まで俳優座さん側が事前に劇場に準備を頼んでいた小道具を確認すること。オクタヴィアと一緒に歩くこと10分。オクタヴィアは現役の高校生で、去年もこのボランティアに参加しており、来年もまた参加するつもりらしい。ホストシスターの15才のマリアも同じような事を言っていた。やはり地域の人に根付いているお祭りなんだな、と改めて思う反面、そういえばホストマザー・ファザーは「今年までお祭りの存在を知らなかった」と言っていた。ここまで大々的に開催されているのに!世代差があるのだろうか。

劇場の裏口にある関係者専用の建物へ。

(そしてボランティアは皆、白と紺のボランティアTシャツを普及される。可愛かった)

渡されたリストを担当者に読み上げて、準備できていますか?と聞くと、あ、うん、確認するね、とルーマニア語で言われ、誰かに電話をかけ始める。そして、明らかにそこでそれらを注文をしていた。(!)そして、今日の午後までには絶対劇場に届くから!と力強く言われ部屋を出る。ルーマニアの人たちの直前根性(造語)を目の当たりにする。清々しい気分になった。

稽古や場当たりを切り上げて、俳優座カンパニーさんとオクタビアン・ゴガへ16:00開演のThe Seaguall(かもめ)を観劇。Andrei Șerban演出。シビウ国際演劇祭の演目初観劇。

オクタビアン・ゴガは高校の名前で、後から知ったのだけれど私のホストファザーの出身校らしい。そして、弟のステファンが在学中。体育館が、演劇祭中は劇場へと変身する。

ルーマニア語とはいえお馴染みのかもめなので、あっという間にラストの銃声。マーサはヤク中だし、ニーナは性を欲する姿がとにかく野生的。何が、とか、どこが、と言われたら分からないけど演出や解釈が全体的にちょっと雑な印象。いまいち最初から最後まで繋がって来ず。でも、ルーマニア語のかもめを観られたこと、演劇人として純粋に嬉しかったな。

そして、字幕を追うことが意外と厳しいことに気づく。字幕が止まったり、そもそも遠かったり、大道具で見えなかったり、英語のスペルが違ったり、そもそもルーマニア語を聞きながら英語字幕を読むことに集中力の限界を感じたり... 当時は慣れない中、疲れたな、と感じたものの、驚くことにこれから2週間で、ルーマニア語で演劇を観ることに慣れて行ってしまう。(そして、本当に面白い作品はセリフの意味なんか分からなくたって絶対的に面白い、という事に気付かされる。この話もまた違う記事で)

目抜き通りを歩くと、たまにこんなパレードに遭遇する。街を巻き込むシビウ国際演劇祭。子供も大人も、アイスクリームやアイスコーヒーを片手に街の真ん中で繰り広げられるパフォーマンスにじっと釘付けになっている。日焼けだって誰も気にしていない。必死に腕をあげて写真を撮る姿は、ダンブルドアの葬式シーンみたいだった。

騒音とか迷惑とか、この国には全く存在していないみたい。アートがそこには純粋に存在していて、人々がそれを楽しむ姿も、ただそこにある。

明日の俳優座さんのクスコの成功を祈りながら、多分この日もクラブでお酒を飲んで、300円の安いタクシーを拾ってお家に帰ったんだと思う。

誰と話したっけ、何を話したっけ... 思い出せないのが少しだけ、悔しい。シビウの夜は、涼しくて、紺色で、1日の日焼けや、疲れをすっと冷ましてくれる。この時間に、人と話すことがいつも楽しかった。

今日は何があったよ、とかこんなトラブルがあったよ、とかお疲れ様、とか。演劇は人の絆を強固にする。毎晩毎晩、演劇を初めて、ずっと続けて来た過去の自分の選択は間違いじゃなかったな、と何度も思い出したこと、よく覚えてる。 

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