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わたし大規模修繕委員長、やります

2016年9月1日。
大規模修繕委員会が招集されました。
参加したのは2016年度の理事会メンバー。I氏、M氏、N氏の3名と、2015年度に私と一緒に理事会を務め、今期は監事として会をサポートする立場のH氏。
そして新たに修繕委員となったS氏、O氏、そしてわたし。実はK氏も修繕委員でしたが、現に居住する区分所有者以外は一切の役に就けないルールなので、彼が引っ越すと役は自然消滅し、3名となりました。

この日決める一大議案は「誰が大規模修繕委員長になるか」でした。
すでに転居してこのマンションに住んではいないと言っても、K氏の影が色濃く残る中、当然ですがそんなハズレ役に自ら就こうとするような、無謀なな真似は誰もしません。

ご存じない方もおいでと思いますが、一般的にマンション管理組合の役というのはただただ損をするだけです。どんなに頑張っても住民のために心を尽くして役に邁進しても、1円の報酬もありません。
時間と神経をすり減らすだけなので、極力避けることをお勧めします。ただしその場合、役を引き受けてくれた方には、最大限の協力をお願いしたいです。
手法はこの連載の最後でお話しすることにしましょう。

それはさておき。

「どうしましょうか。誰かにお願いしないと」
コチコチと時間だけが過ぎていきました。
管理会社のフロントは出席者の一人一人の顔を見ていきますが、誰も彼と目を合わせようとはしません。
わたしは考え続けていました。
T氏宅に漏水が発生した時、自分の考えをキチンと表明しなかったことに、何となく後悔めいたものを感じていました。
それに2015年度の理事会を大過なく運営できたという自信めいたもの、ちょっとかじった者が抱きがちの、無知ゆえの驕りのようなものもあったと思います。

K氏への嫌悪は全く消えていませんでしたが、怒鳴られた臨時総会以降は極力接触を避けていたため、もしかすると私のような新参者があっけらかんと役を引き受けた方がうまくまとまるかも、という妄想が頭をめぐったのも確かです。

「あの、わたしやります。一番若いですし」

いろんな考えが頭をめぐり、困り顔のフロントをはじめ、理事さん方や修繕委員の二人の様子を見ていて、思わずわたしは言ってしまいました。

こう言った瞬間、強(きつ)く締め上げた紐をふいに緩めたように、空気がガランとたわんだことを、今もはっきり思い出すことができます。
「それがいい、そうかそうか、ありがとう、それはいい」
理事長のI氏は大喜びです。M氏、N氏、そして修繕員のS氏やO氏も賛成してくれて、よかったよかったと喜んでくれました。
因みにこのI氏、後々ただならぬ曲者と変節していきますのでご注目を。

会議はこうしてどうにか終了しました。
この日一番ほくほくして会議を終えたのはK氏とはツーツーの仲であった管理会社のフロントだったでしょう。喜び勇んで、K氏に今日の成果を報告したに違いありません。

「真行さん(本名は違うよ)が、修繕委員長を引き受けてくれました!」と、言ったかどうかは知りませんが、この報告でK氏からとんだ大目玉を喰らったことは想像に難くありません。

今後はマンションの外で、自らキングメーカーのように動こうとしていたK氏が想定していたのとは全く違う、“わたし”という人が大規模修繕委員長になったのですから。

翌々日の土曜日。
お茶のお稽古から帰ってくるタイミングで、携帯電話が鳴りました。
画面にはフロントの名前が表示されています。



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