はじめに

 エッセイを書いてみようと思う。

 そう思い立ち、書き出そうとして、いきなり躓いている。あれ、段落の1文字目は空けるんだったっけ……。参考にしようと先輩方のnote記事を見てみると、どうやら書く文章のタイプによって違っているようだ。うーん、とりあえず空けておくか……。

 そんなことすら分からないほど、普段は全く正式な文章を書いていない。読む方も、せいぜいビジネス書や実用本を月に数冊ながめる程度だ。小説やエッセイなんかは、もう全くと言っていいほど読んだことがない。思い返すと、小学生の頃の読書感想文は嫌いなことに分類していたし、理系だったこともあり、文章を書くということに正面から向かったことがほとんどなかった。社会人になってからも特に興味を持つきっかけはなく、ずっと映画やアニメなどの映像作品にばかり触れてきた。

 そんな僕にも唯一、ある意味まじめに文章を書いていた時期がある。高校2年生。まだ世の中にはガラケーしかなく、二つ折りの携帯電話をパカッと片手で開けることをかっこいいと思っていた頃だ。調べてみると、どうやら第二次ケータイ小説ブームというタイミングだったらしく、そういえば皆がケータイで小説を読んでいたような気がする。当時そんな流行が来ているという自覚はなかったが、付き合っていた女の子のリクエストで「恋空」の映画を観に行ったことを覚えている。なんやかんやで、ちゃんと流行りの波に乗っていたのだろう。

 ケータイ小説の方にはそこまで興味を持っていなかったが、そんな大きな流れの中、インターネット上に簡単なブログを書いて公開している同級生が多かった。無料でサイトをつくる方法を聞きつけた誰かが管理人となり、部活やグループごとにサイトを立ち上げていた。そこにメンバーがアクセスし、各々簡単なプロフィールやブログを書く。サイトには相互リンクが貼られており、他の誰かのブログを気軽に見に行ける。ホムペと呼ばれていた気がする。僕はそれにハマっていた。

 日常のちょっとした出来事を盛って書き、勢いでおもしろ風の文章に仕立てて書くのが、周りの主流だった。今でいうTwitterのような場だったと思う。誰が見に来たか分かる足あとや、閲覧数といった機能があり、クラスの可愛いあの子の足あとを獲得したり、相互リンクの他校から読者を集めたりする人気者は、それはもう、輝いて見えた。顔がかっこいい、勉強ができる、などの評価軸はそこにはなく、面白いブログを書けるヤツが正義だった。お調子者の同級生と、どちらが閲覧数を獲得できるかを競い合い、ブログを書いては一喜一憂する。そんな異様な世界観に生きていた。

 通学や授業中、家でテレビを見ている間にも、とにかく何か面白くかけそうなネタはないかと探し回り、何かあればメモを書き留める。更新頻度によって反応に差が出てくるため、週に4〜5本のペースでの公開を目指していた。「地下鉄でこんな会話が聞こえてきた」「道でこんなものを見つけた」といったレベルの些細なことすらも、ブログ化し、吐き出していった。自分でよく書けたと思うものや、周りからの評判が良かったものは、それ相応に閲覧数が伸びた。自分の書くブログの面白さが数値化されているようで、なんだか嬉しかった。

 そんなブームは1年以上続いたが、受験シーズンが近づくにつれ徐々に熱は冷めていき、そのうち誰もブログを更新しなくなった。高校卒業時点ではかろうじて残っていたサイトも、今となっては完全に消失してしまっている。その瞬間には特に意識はなかったが、あれは確実に僕の青春の一部だった。今振り返るとかなりいびつだが、とても楽しい毎日だった……。

 非常事態宣言が発令され、家にいる時間が圧倒的に増えているこのご時世。ずっと自宅にいるのっぺりとした毎日。せっかくなので何か新しいことを始めようと考えたときに、ふと、あの高校2年生の日々を思い出した。特になにもない日常に、何か面白いことはないかとアンテナを張り、見つけてはブログを書く。そんな意識を持てば、もう少し生活が楽しくなるかもしれない。

 エッセイを書いてみようと思う。今度はちゃんと続くと良いな。

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