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ドドンパをしても一人(28歳・シングルライダー・女性)

28歳になりました。

28年生きても。
情緒が竹馬に乗っているタイプの女です。

人生で最も多く、絶叫マシーンに乗った一年でした。
情緒の高低差もセンターオブジアース級ですが。
そうではなく。
遊園地の話です。

小学校の修学旅行は、パルケエスパーニャでした。
命運をわけるのが、班分け。
当時の担任が「自分達で決めていいよ」と。
小学生に一番渡してはいけない裁量というソリューションを
明け渡したのを覚えています。

で、当然、大混乱を極めるわけで。
大混乱スマッシュブラザーズなわけで。

男子の方は、ノリで適当に決める傾向にあるんですが。
問題は女子。
ピチレモンで「モテ大全」特集を読み始めた、女子。
イケてる男子と同じ班になりたい、つって。

「鈴村くんのお母さんはママさんバレーの次期エースだから、鈴村くんもバレークラブの女子と同じ班になりたいらしい」
とか、もう、ライアーゲームも真っ青の情報戦が展開されました。

ピカチュウやピーチ級のイケてる女が殴り合う傍ら、
私は完全にイケてない方の女子。
ファイターとしてエントリーすらできていない級の女子。

当時はシャーマンキングの主人公・朝倉葉に陶酔していて。
熊の生爪の首飾りをしていたし。
休日はバカでけえヘッドフォンをつけて、近所を徘徊していたし。
聴いてたのは、ばあちゃんからもらったAMラジオの野球中継だし。

やれエンジェルブルーのスカートがすごいやら、
石鹸で落とせるマニキュアがすごいやらの話でもちきりだった時に、
ペタジーニの選球眼がすごいって話をしていたのが私。

そんな私にもですね、当時、好きな男子がいまして。

高橋くん(仮名)っていう。

背はまぁ低い方だけど、優しい人。
お父さんと一緒で足が速いの。めちゃくちゃ速いの。
運動会でただ一人ナルト走りしてたのを見て、好きになった。
高橋くんの手、めっちゃ、後ろに突き出てた。

高橋くんと一緒のグループになりたかった。
でも、ファイターじゃない私は高橋くんと喋れない。
高橋くんに関する情報が、一切、ない。痛恨。

息も絶え絶えで駆け込んだコンビニで、ピチレモンを開いた。
私には、ピチレモンしかなかった。
ピチにも縋る思いだった。
遠足特集には「男子は、絶叫マシーンに一緒に乗ってくれる女が好き!」って、書いてあった。

つーわけで、特訓の日々。
友人におんぶしてもらって、無茶苦茶に振ってもらったり。
目を閉じて、平均台の端から端まで歩いたり。
三半規管という三半規管を酷使し、絶叫マシーンへの耐性をつけました。

高橋くんと、オーバーソウルしたい。
私の頭は、高橋くんのことでいっぱいだった。

そして迎えた、班分けの日。
女子2名、男子2名の班を作るという算段のところ
なんと、奇跡的に、高橋くんが余っていた。

女子4名、男子4名。
勝利が垣間見えた。

事前に絶叫マシーンに乗れる女をリサーチしていたので
私は迷わず、余っていた彩美ちゃん(仮名)と結託した。

「ピレネー(宙ぶらりんのめっちゃ怖いやつ)めっちゃ楽しみやわあ!」

チラチラと高橋くんを見ながら、言いました。
一瞬の沈黙の後、うつむく高橋くん。

「俺、絶叫マシーン、怖くて乗られへんねん」

ええ。まあ。お察しの通り。

私と彩美ちゃん以外の女子は、絶叫マシーンに乗れない系の女子でした。
女の子やもんね、って男子から言われていました。

噛みしめた唇は、血の味がした。

そんなわけで。
私は伊藤(始業式以外で肉声を聞いたことがない)と
山田(机の中でコッペパンを飼う習性がある)と
痛恨の4マンセルを組むことになりました。

高橋に出会えた喜びと、高橋と行けない寂しさの
両方を手に入れて、バスは走り出す。

隣に座る山田が、この世の終わりかと思うくらい
おっとっとを食べ散らかしてるけど、
できるだけ見ないようにした。
ボール球を投げられたペタジーニくらい、見向きもしなかった。

高橋くんのグループは、メリーゴーランドとか、
コーヒーカップとか、和むアトラクションに乗ってました。

我々、絶叫大好き4マンセルはと言えば。
ピレネーとグランモンセラーという、
2つのジェットコースターに延々と乗り続けました。

キャッキャウフフしながらソフトクリームを食べる、
高橋くんのグループを遠くに眺めながら。

「背もたれに触れずに重心を前にした方が、浮遊感を味わえる」
「声を出すと身体の緊張がほぐれてしまうから、出さない方が恐怖感ある」

と、地獄のようなPDCAをずっと。
4人で回し続けていました。


山田の腹が大きすぎて、私の安全バー、ガッタガタだったな。
しがみつくような人生だったな。※卒業まで伊藤と山田とは仲良く過ごした

そんな、修学旅行の名残がね……。
一人で富士急ハイランドに行くモンスターを、育ててしまったと、ね……。

仕方ないね。

しかし、あえて、全ての絶叫マシーン好き女子に捧げたいのです。
富士急ハイランドには、一人で行くべきだと。

東京から行く場合、時期にもよるけど。
新宿から高速バスに乗って、片道1800円ほどで行けます。安い。

そして、なんと言っても。これ。
シングルスマートフリーパス」です。
きっと、ネーミングに、ものすごく気を遣われたのだろうと。
そういうスタッフの皆さんの心配りが、針のように胸を刺す。

通常フリーパスより、300円安く買えます。安い。
これまた時期によって違うけど、
FUJIYAMA、ええじゃないか、高飛車など、
1〜2時間待ちもザラな絶叫マシーンに、ほぼ待たずに乗れます。凄い。

シングルライダーという仕組みです。
レストランでは一人席の一人ハンバーグを用意してくれるという、至れり尽くせりっぷり。

恋愛方面鳴かず飛ばずのシングルライダーの私が、この時ばかりは。
シングルスマートパスの外せないリストバンドを腕に巻きつけられた時は、
実家のお母さんの顔が浮かんだけど。

でも、この時ばかりは。

めちゃくちゃ楽しい。(めちゃくちゃ楽しい)

FUJIYAMA8回、高飛車5回、ええじゃないか4回、乗りました。
朝から晩まで、シングルライダー。

一般の行列の横にある、優先レーンを歩いていくので
連続で乗ると、何度も同じ人達の横を通るんです。
最初こそ、ちょっと恥ずかしくて、上着脱いだり帽子かぶったり
都度、人相を変えていたんですが。

途中からね、もう、王者の風格だよね。

私が往く道が王道と言わんばかりの。堂々さで。
私の中の堀内孝雄が「You’re king of kings」と叫んでいる。

怖い怖いと彼氏にすがりつく彼女を横目に
「ちょ〜いと私が様子見てきてや〜んよ!」と言わんばかりの。
余裕と微笑みを携えて。

アトラクションに乗る前に、機械による顔認証があるんですが。
係員のお兄さんも「あ、どうぞこちらへ」って感じで。
顔認証すら省略していた。
多分、航空会社の最高級ラウンジってこんな待遇。知らんけど。

それで、記念すべき一人富士急ハイランドの締めに、ドドンパに乗ろうと思いまして。

ドドンパ。
発車して1.56秒で時速180kmになって、1回転するコースター。
制作者は時空でも越えたかったのかと疑う、ドドンパ。

シングルライダーってつまり、2人がけのコースターに3人組が乗る時
余った1席に私を突っ込んでくれるという仕組みなので。
3人組で1人だけ後ろに座って「え〜!」とか言ってるお姉さんの隣に
「よっこらしょっと」と急に鋭角で滑り込むんですけど。

パリピも「誰この人?」って真顔になるんですけど。

こ〜ちとら、シングルライダーじゃ〜い!という気概があるので。
気にしません。

それよりも、事件があって。
私の前に乗っているおじさんが。
あろうことか。
発車直前に、くしゃみを発射されまして。

私の視界の1カメ、2カメ、3カメ全てが。
おじさんから発せられる水飛沫を捉えておりまして。

突然の。
おじさんのスプラッシュマウンテン。
望んでない。全然、望んでない。

「ぶわっくしょォヴアアアアアアアアアアアヒャァン」

薄れゆく意識の中で、おじさんの断末魔が聞こえました。

ドドンパ降りる時に、お姉さんから「大丈夫……?」って
いい匂いのするハンカチを貸してもらったのと。
ビールとリサとガスパールの骨付きソーセージ(ネーミングが良い)を。


かっ込んだら、そこそこ、ハッピーになれたので、富士急ハイランドはおすすめです。あの夏、誕生日に訪れた富士急ハイランドを、忘れない。

あと、29歳になるまでには、話にオチがつけられるようになりたいです。

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記事にいただいたサポートのお金で、母や弟(岸田家)と「したことない体験」に挑戦し、新しく記事を書きます。いつも応援ありがとうございます!

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28歳の作家。100文字で済むことを2000文字で伝える。車いすユーザーの母、ダウン症の弟、亡くなった父の話など。講談社・小説現代 連載、文藝春秋2020年1月号巻頭随筆 執筆。コルク所属。 Official WEB→https://kishidanami.com/
コメント (1)
「ビールとリサとガスパールの骨付きソーセージ」
これを、ここに持ってくるって、十分なオチになってると思います(;^_^A
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