名称未設定アートワーク-2

発泡スチロール工場の冒険

今回は、子供の頃の思い出話です。

 あれは小学校高学年の頃。同じクラスの仲良しの子の家が我が家から学校をはさんで30分ほどのところにあった。今ではすっかり住宅街になっているが、あの頃はまだまだ空き地というか草やぶも多く、木や草花があちこちに生い茂っていた。

 その友達の家の前に、発泡スチロール工場があった。トタンでできた倉庫があり、敷地内にはトラックが何台か停まっていた。 週末は休みだったようで人影は無く、時々こっそり入るようになった。敷地のまわりを草やぶに囲まれているので、門から入ってしまえば、近所の人に見咎められることもなかった。

 大きな倉庫の中に忍び込むと、薄暗い建物内には、四角く切られたミカン箱くらいの発泡スチロールがいくつも天井まで積み上がり、そのあいだを縫って人が通れるようになっていて、まるで迷路のようだった。



 大人になった今思えば、とても危険な遊びだっただろう。が、私と友達は、その倉庫探検がとても気に入り、何度もしのびこんでは発泡スチロールの塔でできた迷路を楽しんだ。

 そして、発泡スチロールの谷をくぐり抜け、とりわけ細い通路の奥へ進むと、棚で仕切られた、ソファと毛布が置いてある小さなスペースがあった。まるで隠し部屋のような。

 薄暗いそこは、工場で働く人たちの仮眠場所だったのだろう。トタンの壁にわずかなすきまがあり、外を覗くことができる。そこでゴロゴロするのが、私たちの楽しみになった。

 ある日、いつものようにその隠れ家のソファでおしゃべりをしていると、人の気配がした。今日は工場はお休みのはずなのに、誰かが来た!

 私たちはソファに伏せて毛布をかぶった。建物の中を歩きまわる音がする。何かを探しているのだろうか。たとえば、勝手に入った者がいないかどうかーー。

 やがて足音は小部屋の前まで来た。覗いている気配がする。毛布の下で、じっと息をひそめる私たち。

 足音の主は、しばらく覗いていたようだが、毛布の中までは確認せず、そのまま去って行った。子供だったのでからだが薄く、毛布の下に人がいるようには見えなかったのだろう。そして、建物の中から人の気配が消えても、しばらくはそこから動けず、壁の隙間から外を伺っていた。
 やがてトラックが敷地の外へ出て行くのが見えた。

 どれくらいそこでじっとしていただろう。実際は、わずかな時間だったかもしれない。もう大丈夫だと思い、そろそろと外へ出た。誰もいない。助かった!

 喜び合う私たち。それにしてもものすごい緊張感で、もう工場へしのびこむのはやめよう、と誓った。
 いつのまにか夕方になり、日はだいぶ傾いていた。



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以前、とあるワークショップで書いた文章です。
せっかくなのでちょっと手直しして、イラストを付けてここにアップしました。


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