コミュニティ

拡大するコミュニティと、物語

 自分が、すごい、と思っている人と話すとき、ぼくはとても緊張して、言葉がなかなか出てこなくなる。

 それは、自分に自信がないからだと思って、自信をつけようとして、物語についての「知」を身に着けようとした。好きそうな物語を片っ端から読み、大学で他学部の文学ゼミに出て、大学院で文学の研究をした。

 今も、すごい、と思っている人と話すと緊張するから、自分に自信がなかったから相手に圧倒されていた、わけではないみたい(笑)。

 それはさておき、そんな風に、あまりざっくばらんに人と話すことが上手ではないぼくは、楽しく人と居られる場が、素敵だと思っている。物語の「パーティ」的なものへの憧れかもしれない。そんなこんなで、今、コミュニティについての勉強会に参加している。

 そんなこんななぼくは、だから、コミュニティ内では、顔が見えているような深いつながりが重要だと思っていた。

 でも。コミュニティは、拡大する。閉鎖的なコミュニティはそのうち腐敗する。それを避けるためには、どんなに居心地がいいコミュニティでも、拡大する必要がある。

 拡大するコミュニティが、人の居場所として機能するためには、どうしたらいいか。そのことについて、考えてみた。もちろん、勉強会「コルクラボ」というコミュニティに限らない。これは、広義のコミュニティと、物語についての、一考察。

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 コミュニティにおいて、顔が見える深いつながりが重要だと思っているけれど、拡大するコミュニティでは、限界がある。このことについて、コルクラボを主宰する佐渡島さんが言っていたのは、オンライン上で、その深い関係を作れることが重要だ、ということ。(ここで一度、冒頭に戻ると……笑)

 顔が見えないオンライン上で、深いつながりを作る。実体験として、それは、、むつかしい、、と思った。最近、LINE、Facebook、メール、WEB上の掲示板、Slack等々、チェックしなければいけないコミュニケーションツールが多すぎて、ぼくは最近オンラインでのコミュニケーションを放棄気味である。

 それでは。ぼくにもできる、オンライン上で作る深い関係とは。

 ぼくが初めてオンラインで、会ったことがない人とのコミュニケーションを試みたのは、ぼくがいちばん好きな作家・荻原規子さんのホームページの、掲示板上でのことだった。物語の、好きなところを、書き込む。ものすごく緊張しながら、投稿ボタンを押した。

 その掲示板にいた人々は、「荻原規子」という、同じ文脈を共有していた。

 ここで、一つの仮説を立ててみる。顔が見えるような深いつながりを作るには、「同じ文脈を共有していること」が重要なんじゃないか。そして、オンラインで、その関係を築くには、「物語という文脈」が機能するんじゃないか。

 オフライン、リアルの場で顔を合わせると、同じ時間を共有する。これは、同じ時間の流れ、つまり文脈を共有していることになる。だから、現実で顔を合わせることは、同じ文脈を共有していることで、この文脈という媒介が、人と人が仲良くなるためにすごく有効で。

 この代替として、人と人がオンラインで深くつながるための、媒介としての文脈として有効だと思うのが、物語。物語について、語り合えること。

 「文脈」には、いくつもあるだろう、何故オンラインで人と人をつなぐ文脈を、物語に限定するのか、と言われると思う。実際、物語以外にも、あるかもしれない。けれど、ここで何故物語こそが重要だと言うかというと、物語の原初の形が参考になる。はじめの物語、それは、神話だ。

 原始共同体が、一定以上の規模になったとき、その共同体のアイデンティティを保ったのが、神話だ。同じ、神話という文脈、来歴を共有していることで、人々は同一のアイデンティティを得て、一つのコミュニティになった。

 現代社会に生まれたコミュニティを、神話=宗教的に一つにまとめたほうがいい、と言っているわけじゃない。それどころか、多様性がこの世界でものすごく大事だと思っているぼくは、みんなが一つの物語を「信じる」ことが、怖い。

 けれども、物語には、その成り立ちを考えると、人を惹きつける力があることも、確かだと思う。好きな物語について語り合う。共有する。他の人の好きな物語を読んでみる。語り合う。こういう形の、文脈の共有は、オンラインでも可能なこと。

 ぼくは今、物語に関わる仕事をしているけれど、それは別に、人と人のつながりを作りたいから、ではなくて。ただ単純に、物語が好きだった。物語が好きで、それについて考えるのが好きで、話し合うのが好きで、だから、物語に関わる仕事がしたかった。編集者だけどなんなら自分で創作もしたい(笑)。ただ、物語には力があると思っていて、その力についてぼけーっと考えていたら、オンライン上のコミュニティの、人と人の間を深くつなぐ媒介、文脈になるんじゃない? って思った次第。

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