キングダムハーツ ファン回顧録 〜いかにしてKHは受け入れられていったか〜

これはとある1人のキングダムハーツファンの回顧録。
10年以上にも及ぶファン歴の間、
日本のKHファンはどんな道を辿ってきたのか。
どのようにして大衆に受け入れられていったのか。
ここに記録として残そうと思う。

理由としてはKHとKHファンが
かつてどんな対応を取り、取られていたか
知らない層が増えたからだ。
良い時代になったと個人的には思うが、
それまでの道のりは記録に残しておいても
問題ないだろう。

あくまで個人の回顧録であり、
他のKHファンからすれば違うと思うこともあるかもしれない。
また書き手の性質上、
断定的に書いてしまったり、
上から目線と感じることもあるかもしれない。
不快に感じたら申し訳ない。

私のKH歴は小学生時代に始まる。
幼い身内が重い病にかかり、入院をした。
そんな身内を支えたもののひとつにKHがあった。
当時、我が家はゲームが禁じられていたが、
KH1のウェブサイトを見ることは許されていた。
特に当時、まだリマスター版が出る前で
隠れた名作となってしまっていた『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』を
取り扱っていた数少ないコンテンツだったゆえ、
身内は毎日のようにKHのウェブサイトに遊びに行っていた。
それもあって身内は奇跡的に回復した。

実際に私がKHをプレイできたのは、それから3年後のことだった。
やっとゲームが解禁され、初めてやったRPGがKHだった。
幼い頃から『メイク・マイン・ミュージック』や『メロディー・タイム』などといったディズニー短編集、
もちろんシンデレラを初めとした長編も何度も視聴、
ディズニーランドにも頻繁に足を運び、
ほぼディズニーで育ってきた私が
このゲームに夢中になるまで、さほど時間はかからなかった。

リアルな事情で少しだけKHから離れて、
次にソラたちと再会したのは
中学生になってからだった。
当時、私はオタクに目覚め、
旬ジャンルにどハマリしていた。
そんな最中、身内がKH2をプレイしていた。
覗いてみると、当時の推しと
同じ声優が演じる敵が出ているではないか!
声だけでそのキャラをすぐ好きになるほど
単純だった私は、
身内がクリアしたあと、自分でも2をプレイした。
そして、沼にハマった。
今もまだ沼の底にいる。

その先は天国でもあり、地獄でもあったように感じる。

考察しがいのあるストーリー、
敵味方共に魅力的なキャラクター、
多彩なディズニー世界とその住人たち、
爽快感があり単純なゲームシステム。

その後、KH2FM+も購入。
Days以降は発売日とほぼ同時にソフトを購入した。
しかし、学生の私は旬ジャンルとKHの違いをヒシヒシと感じていた。

グッズがないのだ。

正確にはあるにはあったが、
種類も数も少ない上、高い。
缶バッジもなければ、ぬいぐるみもない。
欲しくてもない。
このゲームが好きだとアピールしたくてもない。
当時はSNSもなかったため、
好きを共有する相手もいない。
周りにKHファンもいなかったため、
DaysやBbSの通信ミッションはいつもひとりでやっていた。

また当時の公式のディズニーハロウィン基準には
明確に対象はソラであるとわかるような
注意書きがあった。
(その頃はまだパイレーツオブカリビアンですら
Dハロ基準外ではあったが)

そして当時のオタクたちは
今よりもまだ市民権が強くなかった。
オタクであることは人に公言したり、
堂々とアピールすることは避けるべき、
という風潮があったように思える。

特にKHファンはディズニーというジャンルの一部分。
ディズニーといえば著作権に厳しいという噂がまことしやかに囁かれている。
グッズがないからこそ自作したいのに、
作ることも許されない雰囲気。
また私はディズニーファン、特にパークの民は
少し厳しい人もいることを知っていたため、
彼らを怒らせないためにも大人しくしているべき。
私はそう思っていた。
ただしコミケにおいてKHの同人誌が
当時でも普通に売っているのを見たことがあるため、
自意識過剰だった部分もあるかもしれない。
(それでもFFと一緒の扱いだったり、
数も少なかったが)

昔のKHのオタクというのは、
そういう意味であまり恵まれていなかったように
私は今でも感じている。

しかし、流れは今後大きく変わる。

まず、D23というディズニーの大型イベントに
ついにKHのイベントが参戦。
トークショーやKH3の制作発表、
KH仕様のドナルド、グーフィーが会場に現れた。
(2019年、彼らは海外ディズニーのハロウィンでグリーティングをしていた)
続いてイクスピアリとKH Re:Codedのコラボもあった。
また、SNSの普及により
オタクは仲間を見つけやすくなり、
オタクに対する世間的な圧力も
この頃あたりから減ってきたように感じる。

そしてKH3の開発や発売日が近づくにつれ、状況はさらに好転する。
ブラスバンドやオーケストラコンサート開催、
シャドウなどのぬいぐるみがついに出る、
念願の缶バッジだけでなくポーチや財布、
果ては指輪など実用的なものが出る、
一番くじが初めて出る、
ツムツムにソラとリクが実装される、
ディズニーストアからもグッズが発売されるようになる、
某ブランドやスカイツリーとのコラボなど……
枯れ果てた大地に急に豪雨が降ったようなものであった。

パークにおいてもKHへの風当たりが変わっていく。
まず、Dハロでソラ、リク、カイリの仮装が解禁された。
翌年にはロクサス、ナミネ、アクセル、シオン、テラ、ヴェン、アクアといった主要なキャラクターも解禁されたと聞く。
さらに翌年はXIII機関なども解禁されたらしい。
ディズニーファンというディズニー情報誌には
ランドでKHドナルドの仮装をした子供の写真も載っていた。

またKH3発売直前に
アンバサダーホテルとのコラボレーションが開催された。
カフェに限定メニューだけでなく、
コラボレーションルームまで作られたのだ。
この部屋を取るための予約合戦は「キーブレード戦争」と呼ばれ、
一時はSNSのトレンド入りしたのを見たことがある。
ホテルのお店にKH3ソフトが売られているのも少し話題になり、
スクエニ側の商品たる黒コート王様のぬいぐるみが
飛ぶように売れたという。

この2件の事がとても大きく、パークにおけるKHは市民権をある程度得ることが出来たように感じている。
また18年という歴史は長く、
KHという世界観に対して偏見や違和感を持つ人が減ったように感じている。
パークにおいてKHのぬいぐるみや缶バッジを付けても、誰かに責められることはなかった。
むしろぬいぐるみに関しては、
キャストさん側から「それ、KHですよね!懐かしいです」
と声をかけられることもあった。

こうして今のKHの立場は安定することになった。
初代キングダムハーツ発売から
実に18年という長い月日が経っていた。

今、KHを含めたディズニー関連ゲームを
自由に楽しめている人達は幸いである。
オタクへの偏見が減り、好きなものを好きだと言える時代。
本当に尊く、素晴らしいことであると思う。
反面で嫌いなもの、苦手なものも見えやすくなり、
昔であれば起こりえない、
好きと好きがぶつかり合うような事例も相次いで起こっている。

KHに関しても同様で、減ったとはいえまだまだ苦手意識を持つ人もいる。
過去のD23においてDオタとKHファンが
SNS上で喧嘩しているのも見たこともある。
(KHイベントがD23チケットと該当イベントの2重当選式であり、座席数がかなり限られていたため、該当イベに当たらなかった人がD23チケットを放棄。
D23に行けなかったDオタが怒るという小さな諍い)
またDハロにKHが許されたことを
未だ疑問に持つ人も内外問わず存在する。

私の意見を述べよう。
苦手意識を持つのは仕方がない。
嫌うのだって自由である。
だが「これを好きでいる人もいること」
それを皆が意識すべきだと思うのだ。
存在を認めるだけでいい。

ヴォルテールではないが、
「私はあなたの趣味は好きではない。
だが、あなたがそれを愛する権利は
命をかけて守る」
そんな意識を持つように私も日々心がけつつ、
今日もPS4の電源をつけている。