マジシャンでありライブラリアンのたまこでもある私

※この文章は2018年11月12日のACADEMIC RESOURCE GUIDE (ARG)の719号(2018-11-12、4211部)で紹介して頂いたものです。

http://www.arg.ne.jp/node/9546


「ライブラリアンでありマジシャンのたまごでもある私」

先日の図書館総合展でARGの岡本真さんと出会い、この想いを文字にすることを決意した。
私がこの文章で伝えたいことは1つだ。

「手品を残すためには場がいる」ということ。私はそれをMagician’s Libraryと呼ぶ。ここで用いたLibraryは図書館という意味ではなく、「パブリック性を含んだ場」と言うような意味合いである。

私はライブラリアンの卵であり、マジシャンでもある。だからこの想いを文字に起こすことを少し恐れていた。マジックは不思議であるから「マジック」なのであって、その原理や技法を映像や文字で残して、保存してしまっては、ちっとも不思議でなくなってしまうからだ。しかし同時に、ライブラリアンの卵である私は、世の中に存在する手品を後世に残したいとも考える。
昨年2017年に鈴木大河率いるマジックチームCirc Hatに所属した。そして、彼らと出会い、夏休みをともに過ごした。自宅を改装した稽古場で私を含め、さまざまなマジシャンが稽古をした。そこでは、さまざまなマジックが産み出され、どんどん進化していった。そのスピードは凄まじかった。
しかし、同時にたくさんのマジックが死んで行くことにも気がついた。これは悪い意味ではなく、マジック自体はどんどん生産されより良いものへと進化するのだが、生産され使わなくなったモノは部屋の隅で亡骸となって転がっているということだ。私は気になり、これらはどうするのかと問うた。すると、「もう使わないから、捨てるのだ」と言った。
信じられなかった。生産性の高さにも驚かされだのだが、新たな手品までのプロセスを捨ててしまうという事実にはさらに驚かされた。そして私はそれらをアーカイブすることに決めたのだ(このアーカイブ活動は現在も進行中である)。

しかし、手品という芸能の保存は非常に困難である。

「手品の本質からいって、秘密をあかさないのは重要なことである。手品師は不思議さのうえに成り立つものであり、それはさらに秘密の上に成り立つものです。手品というのは観客がだまされてこそおもしろさを感じるものです。他人が考えて起こりえないことを起こす能力こそが、有能な手品師にとって必要なことです。古き日の手品師達は、尊厳の念を持って秘密を守ったのです。
ときによって、手品を見せたあと、それをタネ明かしして得意がる人がいますが、その行為は、不思議さという風船に針をさすようなものであることを、じゅうぶん理解すべきです。世界は奇蹟を求め、その奇蹟を信じたいと欲求しています。手品における神秘性というものが、奇蹟に近ければ近いほど優れているといえるでしょう」。
(『ターベルコース・イン・マジック第1巻』19頁1行目~9行目より引用)

とあるように、手品は秘密を明かしてはならないし神秘性も必要とされている。同じ稽古を受けていた手品師たちに話を聞くと、タネや道具を保存されるのは困るなどと言う声も上がる。私もその意見に共感できてしまうため、困り果ててしまった。
しかし、同時に新たな考えが1つ浮かんだ。プロセスをみんなに見てもらえばよい。彼らは常に変化し続ける。したがって、その都度、完成される手品を観客に披露すればよいのではと考えた。観客に披露する場があれば、プロセスが可視化されるとともに、マジシャンの育成にもつながり、また、人々の記憶に手品を保存することが可能となる。手品は動態保存に似ている。現在、手品にスポットは当たっていないが、手品は能や歌舞伎と同じである。誰かがやり続けることで、それが残るのだ。手品も残されるべき芸能である。
今年の7月にFISMというマジックの世界大会があり、そこでチームメンバーの岩根佑樹が3位になった。彼は高校3年生であるが、世界中のプロマジシャンと戦い、勝った。現在彼は、Apollo works というマジシャン向けのマジック道具を開発し商売をしている。将来はプロマジシャンになりたいのだと言う。

実を言うと、私もプロマジシャンを目指している。しかし、プロの世界は厳しい。日本の歴史のなかで芸能者の位置は常に低く、アウトローの扱いを受けてきた。実際に、彼が世界大会で3位を受賞したことを知っている人はどれほどいるだろうか。いまや手品は100円で手に入り、これほど身近な時代にも関わらず、一般的であるとは全然言えない。手品のパブリック性を考えるとその低さに驚く。私はこの社会状況自体を変えたいと考えている。
たとえば、高校3年生の彼が社会に出たときに、手品だけで生活していける社会、また、自宅を改装してまで手品師を教育してくれる人がきちんと生活していける社会こそ、本来あるべき社会だと思う。

みなさんは生で手品を見たことがあるだろうか。手品を見に出かけたことがあるだろうか。また、その頻度はどのくらいのものだろうか。実際、手品を見るためだけに出かけるという人はあまりいないだろう。私が目指しているMagician’s Libraryはそういう人たちが気軽に足を運べるマジックの「場」である。
マジシャンと社会を繋げる役割は、マジシャンでもありライブラリアンの卵でもある私の役目だと思う。将来、Magician’s Libraryを建てることができたら、恋人や友だちと映画館や美術館に行く気軽さでそこを訪ねてみてほしい。

[筆者の横顔]

岡村真衣(おかむら・まい)。皇學館大学 在学。親子3代に渡るマジック家系に生まれ、幼い頃から全国を旅する女性マジシャン。現在はCircHatというマジックチームに所属。2018年には地元で行われたミス伊勢志摩グランプリに輝く等、多方面から手品文化普及の糸口を探す。

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