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給食の時間に歩く人

どうも、初めまして、お久しぶりです。手品師のまいです。
初めての方もいらっしゃると思いますので簡単に自己紹介させていただきます。
現在、私は三重県伊勢市で「妖(あやかし)」というマジックバーを経営しております。また、バー経営をする傍ら、以前から興味のある「インタビュー(取材)」を定期的に行っています。今までは手品師を中心にインタビューを行っていたのですが、最近、他業種にも興味が湧き、今回は三重県伊勢市の学校給食を作っている調理師の稲葉太基さんにお話を伺いました。


稲葉太基さんプロフィール
三重県度会郡玉城町出身。1985年生まれ。
中学生時代バレーボール三重県代表。
辻学園調理技術専門学校卒業の後、志摩市のホテル松阪の洋食屋総合病院の職員食堂に勤務。その後、食品の卸会社(スーパー)に勤め、後に総合病院の病院調理師となる。現在は学校給食調理師として勤務中。


調理師になろうと思ったのはいつぐらいからですか?
 中学生の時くらいからですかね。

調理師になろうと思ったきっかけは?
 そもそも何かを作ることが好きで、自分の作ったもの一番近くでお客さんの反応を見れるのが料理かなって思って。ほら、他の製造業は顔が見れない場合が多いでしょ。お客さんの反応を実際に見れなかったりもしますし。
 うーん、正直なんでも良かったんですが、何か作る仕事が良かったんです。手先が器用だったってのもあるし、何しろ食べることが好きでしたね。

実際に調理師になってみてどうですか?
 世間の人が見ている調理師像って結構かっこいいものだと思うんですけど、実際はすごく地味なことが多いかなー。例えば、食材を料理するまでの下拵えとか、すごく面倒(笑) 緻密だし。調理師を目指す前なんて、一日40kgの玉ねぎをひとりで剥くことになるなんて思ってなかったし……。でもまぁ、そういう地味な仕事を裏でしているのを見せないからこそ、表ではかっこよく見えたりするんですけどね。

どういうことを思って料理を作っていますか?
 現在は、学校給食調理員として、子どもが美味しそうに食べている姿を思って作っています。昔、洋食屋で働いていたころは、お客さんに絶対うまいって言わしたろ!って気持ちでつくってました(笑)

その気持ちの違いは何ですか?
 うーん。料理を提供する対象が違うってのもあるけど、今は学校給食を作ってるから使える食材が決まってるんですよね。学校給食は栄養価のことを考えてつくらないといけないので、普通では入れない欧風カレーに大豆を入れたりするんです。インドのカレーになら大豆を入れても美味しいけど、欧風のカレーには入ってない方が美味しいんだけどなと思ったりするわけです。逆にこの料理にはこれを入れたら美味しいのになって思ってるのに、入れれなかったりもするわけです。給食ってほぼ毎日のことなので、前後の献立を気にしながら提供しなきゃいけないので仕方ないことではありますが、美味しいかどうかってより、栄養価判断になっちゃう節があるんです。
 それに比べて洋食屋で働いていたころは、使える食材の自由度が高かったですし、栄養価云々と言うよりもめっちゃ美味い飯を提供すれば良かったんですよね(笑)

普通に料理するときとプロとして料理するときの差は何かありますか?
 うーん。特にはないかな。学校給食って面白くて、もちろん仕事として料理はしてるけど、今だとこどもに料理をつくってるわけじゃないですか。それってなんか家族に料理をつくってるイメージなんです。身内に料理をつくる時って、変なもの食べさせたくないなって思うでしょ?今はこどもたちみんなにそう気持ちでつくってます。僕のご飯食べてる人は、みんな家族だと思ってます。よく同じ職場で働いてる学校給食のおばちゃんに言うんですけど、自分の孫が変なもの食べさせられてるの嫌じゃんって。やっぱり毎日複数人で大量に給食を作ってると、誰々さんちょっと今日は切り方が雑だなとか、食器の洗い方が甘いなとかそう言うのがあるんですよ。でも、自分の家族、ましてや孫に提供するものだったらそんな変なもの出しちゃダメだなって思うでしょ?些細なことですがそういう意識が大事なのかなって思うんです。きっとそれが子どもたちを守ることにも繋がるんじゃないかなって。


給食の時間に歩くのはなぜですか?
 純粋に自分が作った料理を食べている子どもたちの反応を見たいなと思いまして。自分が作った給食をどんな子が食べてるのかなーって気になって。
あとこれは実際に給食の時間に歩いてみてわかったことなのですが、子どもって気持ちでご飯を食べてるんですよね。ほら、給食って作ってる人の顔が分からないじゃないですか。それって子どもたちからすればすごく怖いことなんです。怖いって言うかなんだろう、モヤモヤみたいなの。実際口に出して怖いって言ってる訳じゃないけど、きっと心のどこかはモヤモヤしているはずなんです。自分が今から食べるものが、どこの誰が作ったのかわからないってちょっとモヤモヤしますもんね、嫌ですし。そんなことを思いながら食べる料理って絶対美味しくないでしょ。だから残したりするんですよ。
 初めは子どもたちの反応見たさに歩いていたら、ある日「給食作ったひと―?」って話しかけられまして。「そうだよー。今日の給食どうだったー?」って聞いたら「給食のひと初めて見た!美味しかった!」って笑顔で答えてくれて。その時にこれって何か意味があるんじゃないかなって思ったんです。
そうやって給食の時間に歩き始めたら、子どもたちとコミニケーションを取る時間が自然と増えて。「今日は嫌いな食べ物が入っていた!」と言う子でも「がんばって作ったから1口くらい食べてくれたら嬉しいな」と伝えると、次その食材が出たときに実際食べてたりするんですよ。食べ終わって「稲葉さんに言われたから食べたよ!」って報告しに来てくれたり。校内をぶらぶら歩いているうちに、今日はなにが美味しかったとか、自分はこの給食が好きだとかみんな色々話してくれるようになったんです。子どもって単純だから、そういう些細なコミニケーションでずいぶん変わるんですよね。
 あ、そうそう、箸が上下ぐちゃぐちゃになって返却されていたクラスも最近ではきちんと揃えて返してくれたり。面白いですね。
 実際、親の方にお会いしたときに「うちの子が家で野菜を食べるようになりました」と言われた時は嬉しかったですね。
 やっぱり自校式の調理場には意味があって、給食と子どもたちとの距離を近づけることができるんですよ。給食センターの人はこんなことできないですからね。ずっと、せっかく考えた献立も食べてもらえなかったら意味がないと思っていたんです。まさに絵に描いた餅って感じになっちゃうし。栄養価だけ考えて提供して、実際に子どもたちは口にしていなかったのでは意味がないですからね。
 やっぱり子どもたちには楽しく温もりのある給食を食べてもらいたいです。

こんな調理師になりたいというようなビジョンを教えてください。
 近い未来で言うと、現在勤めている学校給食という仕事で貢献するのはもちろんですが、数十年後に今の伊勢の給食のあり方は、当時自分がいたからこのように良くなっていると言われたいですね。それは自分たち調理師の仕事のためって言うよりも、主に食べる人や学校に子どもを預ける親世代の人ためなのですが、安心して子どもを預けられる学校って素敵じゃないですか。
例えば、さっきお話ししみたいに、伊勢の給食は他の周辺の地域と比べても美味しくて子どもの好き嫌いがなおるらしいよとか噂になれば面白くないですか。給食が美味しいからという理由で伊勢に引っ越してくるようになれば面白いですね。
5年とかのスパンじゃ無理だけど、10年20年働いた後にそうなって伊勢を選んでくれる人が増えたらいいなって思います。

〜エピローグ〜
 なににせよ結局は、そこにどんな人がいるのかって話になると思うんですよね。お店で考えたら、どんだけ上手い飯出しても、サービスが悪かったそう何度も行かないでしょ?(笑)
 人間って不確かなんですよ。人が作ったものを人が食べてるわけなので、気分とかで味が変わっちゃうんです。例え同一の人物が作った料理を、自分が信頼してる人が出した時と、全然知らない人が出したときでは本来同じ味なはずなのに、感じる味が全然かわちゃったりとかね。多分、食事ってのは先入観が含まれていて、それで料理の味が変わるんですよ。我々は目で食べてたり、耳で食べたりしている訳です(笑)だって人間の舌ってそんなに正確じゃないでしょ。鼻つまんだら味わからないんだから(笑)だからこそ、誰かのためを思って作られた料理と、対象がボヤッとしている料理の味って全然ちがうし、食べる側とのコミニュケーションが大事なんですよ。(偉そうに聞こえると嫌なのですが)それらをわかって調理している人とそうでない人では全然違いますね。ただ技術をひけらかすのではなく、相手のことを想って調理する人とで、調理師として目指す方向が全然違うと思いますね。できれば僕は後者でありたいと思います。


インタビューを受けてみて(稲葉)
 調理師になった頃から(いろんな仕事をしてきましたが)、自分の料理を食べてくれる人に美味しいと言ってもらいたい気持ちずっとブレてないなって思いました。やっぱり笑いながらご飯を食べるのって楽しいんでよすね。インタビュー楽しかったです。ありがとうございました。

インタビューをしてみて(岡村)
 手品師以外の方にインタビューをするのは久しぶりで、少し緊張しました。
 タイトルに「給食の時間に歩く人」とつけたのは、私が小学生の頃、稲葉さんのような人がいれば良かったのになと思ったからです。私は給食があまり好きではなかったし、どんな調理方法で作られたのかわからない大量のご飯を、みんなと同じ時間に、ほぼ同じ分量を食べるという行為がすこし怖かったです。当時は給食を餌のように感じていたし、学校に飼われているような気分でした。実際に、小学校6年間のうち給食の人の顔を見たことは一度もありません。今思うともったいなかったなと思います。もっと給食の人に話しかければ良かったなと思います。自分の主観だけで給食を判断し、毛嫌いしていました。今は昔に戻って、もう一度給食を食べてみたいと思っています。
 自分のこの記事が拡声器の役割を持てばいいなとか、そんなことは思っていませんが、給食を作っている人の声が少しでも多くの方に届けばいいなと思います。

インタビューにご協力いただいた稲葉さん本当にありがとうございました。とても面白かったです。

また、この記事をご覧いただいだ読者のみなさま本当にありがとうございます。

これからもさまざまな方にインタビューを続けていきたいと思いますので、ぜひまたご覧ください。

2021年5月29日(土) コメダにて取材

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