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再結成をしよう、あの日の2人の希望のために

「何年経っても、今と変わらず笑い合えるといいね。」

30年前、父と母が新婚旅行で交わした言葉だ。
希望に満ちた、若き日の2人。描く未来すべてが輝いて見えていただろう。それなのに、それなのに。そう思うと涙が止まらないんだ。

17年前、父はうつ病になった。詳しい原因は言えない。ただ、優しかったから、とだけ言っておきたい。

「今、屋上にいるんだ」

母は、こう電話で言われたそうだ。朝の10時、出勤の見送りをしてから暫く経っての出来事だった。無心で飛ぼうと思ってたのに、家族の顔が浮かんでしまったから最後に、と。

「なんでもいいから、帰っておいで。」
祈るようにそう言って、母は電話を切った。

父は、帰ってきた。それまで人生の輝きすべてを失った姿で。

それからは、私たち家族は坂を転げ落ちるように崩壊していった。懸命に明るく振る舞い続けた母も、2年後には睡眠薬が手放せなくなった。

罵り合う叫び声、物の壊れる騒音に、地団駄を踏む振動。それが当たり前の日常の中で、私の心の支えは愛犬のチャッピーだけだった。

マンションの屋上に足をかけた時も、首に紐を沿わせた時も、チャッピーのキラキラした目が脳裏に浮かんだ。ふわふわの毛並みが、よく通る鳴き声が、何度も私を思い留まらせた。

そんなチャッピーが、もう長くないかもしれない。だから、帰ることにした。東京の仕事を辞めて、トラウマだらけの実家へと。

『私はアダルトチルドレン。私たちは機能不全家族。父も母も、私にとって毒親なんだ。』

きっと実際そうだった。でもそれ以上に、そう言い聞かせることで自分を許したかった。
2人を助けてあげられなかった私のことを。
軽蔑することで自分を守った私自身を。

愛犬がいなければ、私は一生実家に帰らなかったと思う。それだけ深いトラウマがあるから。

でも、そのトラウマの奥の奥で、かすかに疼く気持ちがあった。

「家族で、笑って、ご飯を食べたい」

ずっとずっと、見ないフリをしてきた、聞こえないフリをしてきたその気持ち。

どんなに怖くても、どんなに罵倒されても、どんなに頭がおかしくても。

私はどうしてもどうしてもどうしてもどうしても彼らのことが好きなんだ。

何万回も嫌いになろうとした。そうした方が楽だから。でもなれなかった。まだ私が小さな頃に、ありったけの愛情を注いでくれたのを覚えてるから。

「何年経っても、今と変わらず笑い合えるといいね。」
これは2年前、父が私たち兄弟に送ってきた遺書の一節だった。

「愛し合った2人の間に、心から望まれて生まれてきたのが貴方達姉弟だ」と。

遺書を読んだ時、色んな感情がぐちゃぐちゃで、とてもじゃないけど愛を受け止められなかった。今だって、ぐちゃぐちゃだけど。

でも、チャンスは今しかないんじゃないか。
チャッピーのために実家に帰る今を逃したら、もう2度と私は親に歩み寄れない。

死んでしまってから後悔するなんて、絶対に嫌なんだ。

だけど私は2人が怖い。お父さんともお母さんとも、目を合わせるのすら怖い。昔の記憶が身体をすくませる。

だから、そんな過去を捨てようと思う。
幸せから転落した私たち家族は、もう解散しよう。狂気や絶望、怒りに苦しみ。全部全部捨ててしまおう。

幸せだったあの頃に、想いを馳せるのはもうやめる。割れたお皿は戻らない。良くも悪くも、もうあの頃の私たちではないのだ。

だから、家族を解散する。
そして、再結成しよう。
若き日の両親の夢見た、いつまでも笑い合える家族を、今、新しく作ろう。

今の私たちなら、できる気がするんだ。

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