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雑感56 “ヴェネツィアの宿”から、備忘録2

 さて、備忘録の続き。

 タイトルになっている「ヴェネツィアの宿」も臨場感あふれるエッセイだけど、わたしが一番好きなのは「大聖堂まで」だ。メインの話はフランス・シャルトルへの巡礼で、その回想に入る前にノートル・ダムに触れる箇所がある。
 ノートル・ダムの描写は、勢いがある。読む方も、急かされるように文章の列を駆け抜ける。カテドラル、ファサードといった単語が続き、ついにはフランス語と思われるアルク・ブゥタン(飛び梁)が出てくる。建築をかじったわたしでさえ、飛び梁は知っているけれど、アルク・ブゥタンは初めて読んだ。
 かつて、「できるだけ万人にわかる言葉を」「専門用語は説明を入れるか、もしくはできるだけ使わない」と、小説を書くコツとして教わった。たぶん、それは正しい。でも、須賀敦子のこの部分を読む限り、著者が使いたい言葉をそのまま使う勢いは、まれに必要なのだと知った。(続く)


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