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最後でいいので。

リモートワークになってからあまりに身体がなまるので、近所の公園を走るようになった。

その公園はとても大きいわけではないがいくつかの設備があり、野球のグラウンドもある。立派なものではなく、週末や夜に近所のお父さんたちが楽しそうに試合をしているようなグラウンド。

当然ながらこのグラウンドもずっと使われておらず、本来ならハイシーズンであるゴールデンウィークもひっそりとしたままだ。

お父さんたちの野球、といえば、どこかの投稿で書いたとおり野球のマネージャーにちょっとした憧れがあったわたしは、当時いた会社の野球部に、マネージャーとして混ぜてもらっていたことがある。
マネージャーといっても、スコアもつけられずグラウンドを整備するわけでもなく、年1回、ちょうど今くらいの時期に行われる健保の試合に、麦茶を作って応援に行くというだけのもの。

野球部の主要メンバーはわたしより少し上の世代で(若い社員はこの時期もっと楽しい遊びをしていたんだろうな)、いわゆる「オジサン」たち。子どもを連れてきている人も多かった。

そんなオジサンチームは、野球部出身などという人はむしろ少数派でほとんどがおそらく超初心者。そしておそらくわたしと同じように「野球部への憧れ」をもって参加している人が多かった。

もちろん野球のレベルも決して高くはない(というか超低い)。1塁でキャッチできるかも怪しいところ、フライを捕ると歓声があがり、グラウンドを転がっていく球を追っている間にホームラン、しかしダイヤモンドを走って1周する最後には足がもつれる、という状態だった。
なおちゃんとレベル分けがされているので、こんなチームでも下部クラスで優勝したこともあるほど、楽しむことはできる。(翌年、1クラス上がったら初戦でボロ負けした)

経理も、営業も、編集も、システム開発のひとも、日ごろ話すこともないオジサンたちが、初夏の日差しのなか少年の顔(そしてときにお父さんの顔)をして、楽しそうにボールを追ったり歓声をあげたりしている。
そんなようすをベンチから見るのが、私は好きだった。
厳しいことで有名だった役員は、若い連中を試合に出すために一緒にベンチを守り、声をからして声援をおくり、勝っても負けても試合後に飲むビール代を支払ってくれた(おそらく会社の厚生費からだろうけど)。

この大会もおそらく今年は行われていないだろうし、ボールに一度も触れずに今年を終えるひとも多いんだろうな、と思う。そしてそれは、当然どこかの会社に限った話ではない。

本来ならスポーツを楽しむひとが最も多くなるこの季節、あらゆる大会や、おそらくそれにともなう練習の中止が報道されている。
スポーツを生業にしているひとや、学生生活をスポーツにささげているひとの辛さは、どれほどかと思う。
まずはこういうスポーツが、少しでも早く開催されること、そしてそれを観る私たちの楽しみも復活することを、こころから祈っている。

そして。
最後の最後でいいので、
私が好きだった、あのオジサンたちの笑顔が、日本中、世界中のあちこちの小さなグラウンドで、また見られる日が来ることも、やっぱり祈っている。

そんなことを考えながら、オジサンたちが帰ってくるのを待っているグラウンドの横を、明日も走ろう。