グルタミン酸と自閉症12

「自閉症には免疫の異常が関係している」などというと、一般の人はちょっと面食らうと思う。「え、何言ってるの?神経系の病気に決まってるでしょ?」と。
手っ取り早く納得してもらうには、自閉症児の採血データを見てもらうといい。採血して、血中に炎症を示すマーカー(サイトカインだとかインターロイキンだとか)が正常児よりも高ければ、「ああ、確かに免疫系が忙しそうだな」と分かってくれるだろう。
そこでこんな研究。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5669898/
32人の自閉症児を集め、彼らと年齢、性別をマッチさせた28人の正常児にも協力してもらい、採血する。11種類のサイトカイン(Th1,Th2,Th17と関連したサイトカイン)の血中濃度を調べ、自閉症児と正常児で比較した。
その結果、11種類のうち3つの項目(TNFα、IL-1β、IL-17a)の血中濃度が自閉症児で有意に高かった。さらに、TNFαの濃度は自閉症の重症度と正の相関を示していた。
シンプルながら説得力のある研究だね。

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Blaylock博士「免疫系が過剰に刺激されると多くのサイトカインが産生されるわけですが、そのうちの一つがTNF(腫瘍壊死因子)αです。自閉症児では血中に高濃度のTNFαがあることが分かっていますが、さらに、TNFαがどのように神経系に悪影響を及ぼすのか、その機序も詳しく研究されています。
まず第一に、TNFαはグルタミンからグルタミン酸を作る酵素を刺激します。この酵素は星状細胞に存在し、グルタミナーゼと呼ばれています。この酵素活性が高まると、グルタミン酸が増加します。つまり、興奮毒性が高まり、脳内でのシナプスの破壊が進みます。
第二に、TNFαはグリア細胞を増加させ、その活性を高めます。
第三に、TNFαはグルタミン酸受容体の一つであるAMPA受容体のトラフィキングを増加させます。AMPA受容体はシナプスの内側に発現していて、普段はじっとしています。しかしトラフィキングにより膜内に入ると、突然、このシナプスのグルタミン酸に対する感受性が高まります。つまり、膜内に入るAMPA受容体の数が増せば増すほど、グルタミン酸の興奮毒性に敏感になります」

グルタミン酸という、いわば"単なるアミノ酸"が、強力な興奮毒として作用する背景にはTNFαの関与があり、さらに具体的には上記のように三つの機序があるわけだ。TNFαは、グルタミンをグルタミン酸に変換する酵素(グルタミナーゼ)の活性を高めることに注目したい。

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腸壁の炎症を改善するために、グルタミンを摂取するべし、という主張がある。特に炎症傾向のない健常者が飲む分には問題ないだろう。しかし腸や脳で炎症が起こっている自閉症児が同様に飲んでもいいものか。
基本的に、臨床は"結果がすべて"である。症状が改善したのなら、よかった。続ければいい。しかし理屈としては、グルタミンがグルタミン酸(興奮毒)に変換されて、むしろ症状が増悪する可能性があるので、体に合わない人は無理に続ける必要はないからね。

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ワクチンで脳脊髄炎になる。これは動物実験ですぐに確認できる。というか、多発性硬化症の病態モデルとして、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)にしたネズミが使われているぐらいなんだ。ワクチンで脳脊髄炎が誘発されることは、研究者にとっては意外でも何でもなく、常識である。
研究者が調べているのは、さらにその先のこと。EAEの発症や増悪の詳細なメカニズムである。EAEにしたネズミで、グルタミン酸をブロックすると、症状が改善する。脳をパカッと開いて顕微鏡で見てみれば、病理像がマシになっていることが確認できるわけ。ここにさらに抗炎症治療を行うと、症状がさらに改善する。
グルタミン酸が毒性を発揮する濃度ではなくとも、補体がニューロンを攻撃したり、IL6がグルタミン酸への感受性を増大していて、そのせいで症状が悪化することもわかった。
たとえば高濃度のビタミンD3を投与すると、免疫系の暴走が止まり、症状が改善する。これは重度のEAEでも同様だった。
Blaylock博士「要するに、治療法はざっと二通りあります。興奮毒性のブロック。これによって動物は改善しますし、さらに免疫系のブロック。この方面からのアプローチでも軽快します。

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免疫興奮毒がどのような悪影響を与えるか、実例をお目にかけましょう。
左は70歳の健常者の脳、右は中程度のアルツハイマー病患者の脳です。この画像は、活性化したグリア細胞だけが光るようにしたものです。アルツハイマー病患者の脳ではグリア細胞が活性化しているのがわかります。
私は常々、"アルツハイマー病は老人性自閉症である"と言っています。逆に、自閉症は小児性アルツハイマー病です。
自閉症、アルツハイマー病、同じプロセスが脳の中で起こっています。年齢が違うため、症状の出方に違いがありますが、それだけの違いです。結局、脳が適切に活動できていないのです。その原因は、このグリア細胞の活性化にあります」