カルニチンと慢性疲労

ワクチン後遺症研究会で、井上正康先生がこういうことを言われていた。
「スパイクタンパクとACE2の結合というのは、血管内皮細胞でミトコンドリア依存性に起こります。そこでバランスが崩れると細胞障害が起こり、血栓ができます。
もうひとつ、今回のワクチンの毒性機序として重要なのは、PEG化したナノ粒子の存在です。この粒子がjuglar(頚静脈)から全身循環に入ると、必ずしもACE2にはいきなり行かず、全身の細胞にアクセスできるようになります。しかも、たとえば3分で排出されるタンパク質もPEG(ポリエチレングリコール)を付加すれば半減期が3日とか長くなります。PEGは血中に分子を長時間滞留させると同時に、あらゆる細胞との親和性を高めます。厚労省のデータで、コロナワクチンの成分が卵巣、肝臓、脾臓など、様々な細胞に蓄積することが示されていますが、これはPEGの分子特性によります
スパイクタンパクが血中に入るには、アンカーの根っこのところが切断されなくてはいけません。これを切るのがセリンプロテアーゼです。この酵素が多いか少ないかは、細胞によって異なります。たとえば血管内皮細胞には数多く存在しますが、ほとんど存在しない細胞もあります。このプロテアーゼの濃度の違いが、スパイクタンパクをすぐに血中に分泌する細胞と、そうでない細胞(長期間細胞の膜表面にスパイクタンパクを残している細胞)の違いにつながります。
複数回ワクチンを接種した人では、免疫の記憶があるため、抗体や細胞性免疫が発動します。すると、合成したスパイクタンパクを細胞表面に発現している細胞が、選択的に、自己免疫疾患的に、抗体のターゲットになります。どの細胞がどの程度スパイクタンパクを細胞膜表面に発現しているのか、これがワクチン後遺症の多様性の説明になっています

さて、抗酸化物質の投与によりワクチン後遺症の軽減をはかる試みについて、抗酸化物質が脳に届くかどうか?これはひとつにはBBB(血液脳関門)も関与していますが、それ以上に、その物質の脂溶性/水溶性の分配率により規定されます。たとえばある物質がアルブミンに結合していると、これは細胞膜に溶け込めないので、脳には行かず、肝臓が特異的に取り込むことになります。
私は現役時代、科学技術庁の「疲労の分子メカニズムとその防御」の研究班を組織し、疲労に対して世界で初めてメスを入れました。その際、慢性疲労症候群(CFS)が一番のテーマでした。コロナワクチンに限らず、子宮頸癌ワクチンなど複数のワクチンで接種後にCFSが起こることが知られています。CFSのメカニズムの理解には、脳の研究が不可欠です。モデル動物を使った研究で、ブロードマン39野がうつ病に関係していることや、セロトニン産生が行われていることが分かりました。このとき、カルニチンの投与により脳機能が回復することを発見しました。
http://www.jcam-net.jp/data/pdf/20025.pdf
ご存知のように、カルニチンはミトコンドリアのβ酸化のかなめです。長鎖脂肪酸をアシルカルニチンにすることで、脂肪酸をミトコンドリアの中に安全に運び込み、β酸化により大量のATPを合成する。ここで、カルニチンがなければ、長鎖脂肪酸はリパーゼで加水分解されて界面活性剤になり、これが細胞毒として作用します。
カルニチンがあることで、アシルカルニチンが誘導され、大量のATPを安全に作ることができる。つまり、毒がきちんとエネルギーになるわけです。これがカルニチンの重要な作用で、慢性疲労症候群の患者に有効だというレポートが多数出ています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0300297700000309
https://www.karger.com/Article/Pdf/119325
この知見は、当然今回のワクチン後遺症に対しても生かせるはずです」


当院は、保険診療と自費診療の2パターンある。保険診療というのは厚労省の規定するガイドラインに基づいた医療で、全国で均一な質のサービスが受けられる。一方、自費診療は当院独自のスタイルに基づいたものだ。保険診療は3割負担だが、自費診療はそうではない。相応の金銭的負担をお願いすることになります。
「栄養のこととかどうでもいいから、黙って睡眠薬だけ処方して欲しい」というような患者は保険診療でいいだろう。しかし、たとえばコロナワクチン後遺症の治療を求める患者には、自費診療で受診するようお願いしている。ワクチン後遺症治療に厚労省規定のガイドラインなんて存在しなくて、僕独自のスタイルにならざるを得ないのだから、これは仕方ありません。

【症例】18歳女性
2022/2/4初診。保険診療。
「去年10月頃から過呼吸です。電車に乗っているときとか、あるいは家とかで特に何もしていないときにも、息苦しくて疲れやすいです。同じころから頭痛や吐き気もあります。頭痛は激痛とかではなくて、ちょっと痛いのがずっと続く、って感じです。吐き気は主に食後で、実際に吐くことはありません」

若年女性の過呼吸、といえば最初に貧血を疑う。食生活を問診すると「甘いものが好きで、コンビニでよく買い食いする」とのことだから、精製糖質によるビタミンの消耗もありそうだ。
フェロミア(鉄剤)とビタミン剤を2種類処方して、経過観察とした。

2022/3/25再診。
「症状は前と全然変わりません。相変わらずの過呼吸と疲労感で、頭痛も同じ。吐き気もあります」
困った。何ともやりようがない。
これが自費診療なら、「困ったときのゲルマニウム頼み」で、とりあえずアサイゲルマニウムを勧める。これでだいたい何らかの改善があるものだが、しかし「保険の範囲内で」というご希望である。
ふと思うところがあって「コロナワクチン、打ちましたか?」
「はい、打ちました。1回目を9月、2回目を10月に。どちらもモデルナです」
ああ、なるほど。そういうことか。それなら納得です。
過呼吸や頭痛の背景には微小血栓やスパイクタンパクの作用があるのかもしれない。疲労感に対して、上記井上先生の話を踏まえて、エルカルチン(カルニチン)を処方してみよう。

2022/5/11 再診
「過呼吸はなくなりました。吐き気もありません。ただ、頭痛だけはありますが、前よりマシです」
見事に効いた。保険の範囲内だけでも案外戦えるものだな。
勤務医時代、製薬会社の営業担当が医局に来て、しばしば勉強会(という名の新薬の売り込み)を開催していた。弁当などが振る舞われるものだから、僕ら医者はそれにつられて参加するわけです(笑)
あるときエルカルチンの説明会があった。営業担当の話「バルプロ酸やフロモックスなどの長期投与により、カルニチン欠乏をきたします。肝障害や高アンモニア血症の副作用はこれに起因するものですから、エルカルチンの投与により回避できます。
『デパケン使うならエルカルチン』『フロモックス使うならエルカルチン』このようにセットで使うようにしていただくと、患者様の副作用軽減につながります」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssmn/54/2/54_57/_pdf
MRの売り込みに来る薬はだいたいろくなものがないものだけど、エルカルチンだけは印象に残った。
個人的には大塚製薬という会社は好きではないけれども、大塚美術館とエルカルチン。この二つを作ったことだけは評価したい(笑)

そう、「保険の範囲内で」というのはきつい縛りだけど、できることもけっこう多い。たとえば、ペリシット(≒ナイアシン)、ユビデカレノン(≒コエンザイムQ10)、タチオン(≒グルタチオン)とか、かなり重宝してます。