婦人科疾患とハーブ

今、70歳80歳ぐらいのおばあちゃんに聞いてみて下さい。「おばあちゃん若いときさ、生理きつかった?毎月毎月、"うわぁ今月ももうすぐ生理が来る。しんどくなって嫌だなぁ"って憂うつに思ってた?」
答えは十中八九、ノーだろう。若い女性なら誰しもPMS(月経前症候群)に苦しむものだ、と思われるかもしれないけど、それは事実ではない。今のおばあちゃん世代がまだ若い頃には、日本でPMSはほとんどなかった。PMSは、はっきり、現代病(あるいは文明病)である。(PMSなる疾患概念が初めて提唱されたのは1953年のこと)。
昔はなくて今ある病気、だということは、原因として、昔はなかったけど今あるもの、が基本的にすべて容疑者ということになるけど、容疑者を絞り込む方法がないものか。こういうときには、疫学が役に立つ。たとえばワクチンが原因ではないか、と疑ったとする。ワクチンの接種本数に応じて、PMSの発生頻度(あるいは重篤度)が高いとなれば、相当疑わしいよね。あるいは、シャンプーなどの合成洗剤、化粧品、歯磨き粉、制汗剤など、内分泌かく乱作用が動物実験で示されている物質について、コホートを設定して検証すればいい。「そういうのを使っている人ほど生理がしんどい」って示せれば、意味のある研究でしょ。
でも今回は、その辺の話には立ち入らない。

とにかく現代は、若い女性はPMSに、中年の女性は更年期障害に苦しんでいる。こういう症状に対して、婦人科を受診すればホルモン剤が処方されることが多いだろう。しかし個人的には、できれば人工的なホルモンの投与は避けたい。まずは食事を改め、適宜必要な栄養素を補う。これだけで症状が軽快することもけっこうある。
婦人科系の疾患にどのようなビタミンやミネラルを使うといいか、ということについて、以前のブログで何度か触れたが、今回は特に、ハーブに注目してみよう。

僕は元々、ホッファーの本からオーソモレキュラーを知り栄養療法の世界に入ったものだから、症状に対して、まず「どのビタミンやミネラルを使おうか」と考える。良くも悪くも、それが習慣のようになっている。ビタミンやミネラルでダメなときに、ハーブ(アダプトゲンも含め)を検討する、という感じだったのが、最近はこの流れが、むしろ逆になっている。最初に「どのハーブを使おうか」と考える。ハーブが劇的に効いた患者を何人か見たことで、スタイルが少しずつ変わってきたんだ。
ただし以下の論文にあるように、ハーブの単体投与では効果はぱっとしないことも多いようだ。

『更年期障害の治療におけるブラックコホシュ、セントジョンズワート、チェストベリーの有効性について~系統的レビュー』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22385322/
「ブラックコホシュ、セントジョンズワート、チェストベリー、各種ビタミン、ミネラルについて、これらを単体で、あるいは組み合わせて投与したときに、更年期障害による不調(血流、性器、精神面など)に対する有効性につき、系統的レビューにて検証した。
結果、ブラックコホシュとプラセボの比較試験では、有意差なしとする研究が多かった。しかし、ブラックコホシュとセントジョンズワートの組み合わせでは、プラセボに比べて更年期症状を有意に改善した」

『更年期女性のホットフラッシュと血中ホルモン濃度に対するアカツメクサの効果~系統的レビュー』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4678495/
「アカツメクサが、更年期(閉経前および閉経後)女性のホットフラッシュ、子宮内膜厚、血中ホルモン値に対してどのように影響するか、評価した。
アカツメクサの投与により、ホットフラッシュの頻度が有意に減少し、FSH(卵胞刺激ホルモン)とSHBG(性ホルモン結合グロブリン)の血中濃度も減少した。また、LH(黄体化ホルモン)、エストラジオール、テストステロンの血中濃度および子宮内膜厚もアカツメクサ投与群で有意に増加していた」

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更年期になると、膣壁が薄くなり乾いてくる。サイズも段々縮んでくる(vaginal atrophy)。ただでさえ、自分が女性でなくなっていくようで寂しく感じているところ、更年期の不快な症状が出ては、たまらない。
そこで、ハーブである。
ブラックコホシュはネイティブアメリカンが大昔から使ってきたハーブで、安全性は高い。セントジョンズワートについては、以前のブログで触れたけど、うつ病に効くハーブとして有名。しかし、なんと、更年期障害の助けにもなる。
チェストベリーが効くことは、もはや民間伝承レベルの話ではなくて、ドイツでは薬として保険収載されている。チェストベリー製剤が病院で処方されている、ということです(それを言うならセントジョンズワートもだけどね)。

アカツメクサ、って言われてもほとんどの人が「何それ」って感じだろうけど、みんな必ず田んぼや野原で見たことがあるよ。

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英語でred cloverと言われた方がピンと来るだろう。こんな雑草みたいな植物に更年期の不調をはっきり改善してくれる作用があるのだから驚きだ。「知は力なり」である。摘み取って天日干しして煮出せば、ハーブティーのできあがり。
効果は科学が保証している。使わない手はないだろう。