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第94話 サプライズ結婚式

スウィートブライド代表中道諒物語。ウェディングプランナーに憧れ百貨店を退職し起業。でも40歳で全てを失う大きな挫折。そこから懸命に這い上がりブライダルプロデュースの理想にたどり着くまでの成長ストーリー。※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

2017年7月。

「中道さん!結婚式をプレゼントしたいんです!」

以前に僕がプロデュースさせていただいた新婦のお母様からそんな依頼があったのは、蒸し暑い夏の日の午後だった。

その2人は結婚して10年。3人の男の子がいる。長男は10歳。当時まだ若かった2人は生活を優先し、結婚式は挙げなかったらしい。今年はそんな2人の結婚10年という節目の年。

「結婚式をプレゼントしたい!」と、友人たちが発起人となり、僕の元に依頼がきたのだ。依頼人は、今回の新婦のお母様の友人。この人からの結婚式の依頼は、これで3組目となる。僕の事を信頼して頼ってくれる事にとても嬉しく思った。

サプライズ結婚式の準備がはじまった。

お母様の想い、そして友人たちの想い・・・。愛に溢れたその想いは、とてもあたたかい。この空気をともに味わえる僕もとても幸せな気持ちになる。

サプライズ結婚式とバレないように、お2人には、お母様から結婚10年の節目としてフォトウェディング(前撮り)のプレゼントをするという形にした。結婚式は挙げなくても、せめてウェディングドレスだけでも着て写真に残そう!と。

実際は、フォトスタジオで撮影をした後、僕が2人をサプライズ会場であるフレンチレストラングランメゾンへ連れ出す。スタジオ撮影の次はロケーション撮影をすると嘘をついて連れ出すのだ。

怪しまれないように・・・。

僕は事前に2人と会い、前撮りの説明をした。そして、ドレス、タキシードの衣裳合わせを行い、ヘアスタイルの希望も打合せをした。結婚して10年経ったと言っても、まだ30歳。若い。そしてキレイ。とても絵になる2人であった。

水面下では友人たちが準備に追われている。
服装は皆でお揃いの手作りTシャツを着る事になった。そして、僕とお母様の間では、レストランでの人前式や余興の内容などを話し合った。ゲスト皆の意見が色々で楽しい準備である。

ここまでくれば、あとは当日まで絶対にバレない事。
これはかなりのプレッシャーであった。

2017年8月。

サプライズ結婚式当日。

僕と2人は、カメラマン大原翔のスタジオにいた。着付け室では、鷲尾響子が新婦のヘアメイクをしている。しばらくすると、お母様が3人の息子(お母様からすれば孫になる)を連れてスタジオにやって来た。息子たちもおめかしをしている。3人揃うと、とても可愛い。

新郎新婦が仕上がる。
彼女はアイボリーのウェディングドレス、彼はシルバーのタキシード。そして3人の息子たちは黒のタキシードだ。

はにかむ彼女のドレス姿に笑顔を見せる彼。
とても穏やかで幸せに満ちた空気が流れていた。本田さゆりがデザインしたカスミソウのブーケがやわらかく2人の表情を照らしだす。撮影は順調に進んでいった。

2人がフォトスタジオで撮影をしている間、フレンチレストラングランメゾンではパーティーの準備が進む。僕のもとには逐一レストランの状況報告が入ってきていた。どちらも順調だ。

僕はグランメゾンにいるスタッフに、2人の撮影風景画像を送る。おそらくグランメゾンにいるゲストは、その写真を見て盛り上がるに違いない。そんな想像をするだけで楽しくなる。

グランメゾンにいるスタッフから『準備完了!』のメールが入った。

さぁ、いよいよだ。
ここでミスは許されない。

僕は大原翔と鷲尾響子に決行の合図をする。
そして2人に、「では今からロケーション撮影にでかけましょう!」と、声をかけた。フレンチレストランのエントランスをお借りして撮影する事は2人には事前に伝えてあった。

『今、フォトスタジオ出ました!』

僕は、グランメゾンにいるスタッフにメールを送る。僕からのメールを受け、お揃いのTシャツに身を包んだ友人たちがレストランで身を乗り出し2人を待ち構える。

3分後・・・

2人を乗せた車はグランメゾン前の駐車場に到着。
「ちょっとレストランの中見てきますね!」僕はそう言って先に車を降り、グランメゾンの店内に入る。中に入ると、フライング気味に友人たちが今や遅しと待ち構えていた。僕は友人たちに笑顔で大きくGOODのサインをして店を出た。

駐車場に戻り車のドアをあける。そして鷲尾響子がアテンドしながら2人をグランメゾンの入り口へ誘導する。

そして、扉を開けた。

「おめでとーーー!!」

2人の目の前には、涙でくしゃくしゃになったたくさんの友人。すぐにサプライズと気付いた2人も溢れる涙をおさえられない。

あったかい風が吹き抜けた。

ーーーその日の夜。

依頼人のお母様からメールが届いた。

『中道さん、今日はありがとう!サプライズ大成功で楽しい時間になりました(^^) 中道さんのおかげで、また忘れられない日が増えました!本当にありがとうございます。』

結婚式には色んな形がある。
でも、新郎新婦を祝福しようと集まる人たちのあったかい気持ちは、結婚式がどんな形であれ、全て一緒なんだと思う。

皆の心にいつまでも残る結婚式・・・。

僕の目指すプロデュースの在り方がまたひとつ形になったように思った。


第95話につづく・・・。


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