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第31話 スウィートブライド誕生

スウィートブライド代表中道諒物語。ウェディングプランナーに憧れ百貨店を退職し起業。でも40歳で全てを失う大きな挫折。そこから懸命に這い上がりブライダルプロデュースの理想にたどり着くまでの成長ストーリー。※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

新しいプロデュース会社のコーポレートカラー、そしてコンセプトを決めた僕は、いよいよ社名を決める事にした。

前会社オードリーウェディングの立ち上げ時期はまだインターネット黎明期だったという事もあり、SEO対策はそんなに難しいものではなかった。

立ち上げ当時の2005年、オードリーウェディングのホームページはどんな検索ワードでも常に上位表示されるようになっていた。そのため、ひと月に5万をこえるアクセス数があり、姫路という小さな地域でのブライダルサイトとしてはとても高い数字だった。

でもそれはオードリーウェディングが優れていた訳ではなく、世の中の様々なタイミングとたまたまうまく噛み合っていたからであった。

今は2012年、もはやネット検索は当たり前の時代。
ゼクシィですら店頭販売の雑誌より、ウェブサイトに舵をきり始めている。

そんな時代に個人のプロデュース会社が新規ウェブサイトを立ち上げたところで、爆発的に上位表示されるはずもない。大手のホテルや専門式場にはもはや太刀打ちできない状況であった。

もし僕が、美しい容姿の女性でプロフィールも完璧ならば、フリーランスウェディングプランナーとして個人売りするのもひとつだろう。ニッチな世界観を武器に、大手に勝てる突破口があるかもしれない。
しかしながら、人生に失敗している40過ぎのオヤジでは、そんな個人売りができる訳もなく・・・。

ビジネス的に考えると、社名は凝ったこだわりの強い名前よりも、一般的にわかりやすい名前にする必要があると感じていた。

シンプルにいこう。

何か題材がないかと思案しはじめた時、僕はふとブライダルの勉強をしていた頃に大好きだったテレビドラマの事を思い出した。

2002年放送の『ウエディングプランナー SWEET デリバリー』

主演はユースケサンタマリアと飯島直子で、オリジナルウエディングをプロデュースする会社の物語。第1話のプールサイドでのウェディングパーティーは、当時のオリジナルウェディングの最先端を走っていて僕は相当に魅了されたものだ。

ドラマのタイトルは忘れていたので、ネットで「ユースケサンタマリア・ウェディングプランナー」と検索した。すぐに『ウエディングプランナー SWEET デリバリー』がヒットする。
懐かしさに加え、当時のワクワク感までもが再燃したような、そんな気持ちになった。

僕は早速、この主人公の2人が経営していたプロデュース会社の名前を調べた。

「スウィートブライダル」

(わぁ、すごくベタな名前だったんだなぁ・・)

あまりの平凡な名前に僕は少し拍子抜けになった。
でもこれくらいわかりやすい直球の方がいいのかもしれないと思い、すぐにネットで「スウィートブライダル」と検索する。
平凡な名前なので、検索すればおそらく何社かヒットするだろう。予想通り、すでにその名前を使用している会社が数社あった。でも調べてみると何やら怪しい匂いのする会社ばかり。その何とも言えぬ怪しさが僕にこの名前を使う事をためらわせた。

(スウィートブライダルは使わないとしても、スウィートという言葉はいいかもしれないな・・・)

僕は社名を考えるのを中断して、しばし『ウエディングプランナー SWEET デリバリー』をYouTubeで楽しんだ。観てるだけで心がワクワクしてきて、本当に初心に戻れたような、そんな気がした。

僕にはこのドラマの他に、僕をこのブライダルの世界に導いてくれた大切な映画がある。

2001年に映画化された『ウェディング・プランナー』

ジェニファーロペス主演のウェディングプランナーがクライアントの新郎と恋におちるという物語。劇中のカジュアルウェディングのシーンがたまらなく良くて僕を虜にした映画だ。

すぐに、ネットでこの映画の事も調べてみた。
でも残念ながら、どこを探してもジェニファーロペスが勤務していたブライダルプロデュース会社の社名は載っていない。僕はいてもたってもいられず、家を飛び出しTSUTAYAに向かった。

(こうなったら、DVD観て社名を探すしかない)

自宅に戻った僕は、早速『ウェディング・プランナー』を観る。しかし、セリフの中にもどこにも会社名はでてこない。
半ばあきらめかけていた時、ジェニファーロペスが帰社してオフィスに入るシーンでガラスの扉があり、ほんの一瞬、そのガラスに社名ロゴが貼ってあるのが見えた。

僕は高揚し、スロー再生にする。
でもはっきりと読み取れない。それでもコマ送りしながら目を凝らすと、ロゴの先頭に大きく筆記体の「B」、そしてその右下に小さく「RIDE」である事がわかった。さらに凝視したものの、右上のアルファベットまではわからなかった。

ただ、ジェニファーロペスの会社は、〇〇〇〇BRIDEである事がわかった。

(なるほど、ブライダルではなくブライドかぁ・・・)

僕は読み取れなかった前半部分に「SWEET」を置いてみた。

「SWEET BRIDE」

(ステキな花嫁様・・・。うん、いいな。)

僕は映画で使用されていたロゴデザインをそのまま拝借し、パソコンで作ってみる事にした。

先頭の大きな「B」のフォントは、「ALS Scrpt」
そして「SWEET」と「RIDE」のフォントは、「Traditional Arabic」にし、「B」の右横に小さく上下2段に配置した。

書体をゼロから作る事もなく、普通の定番フォントでとりあえず置いてみた。ちょっとバランスを見るためだけに30秒ほどで作ったこのロゴデザインが、結果的に正式なロゴデザインになった。

デザインができる時というのは案外そういうものだ。

僕がブライダル業界で独立起業するきっかけとなったドラマと映画から会社名を頂戴するというのは、僕にとってはとても幸せな事のように思えた。
人生がうまく1周するというか、僕自身の夢のスタート地点に再び立ったような・・・、そんな清々しい気持ちでいっぱいになった。

僕は今生まれたばかりのロゴデザインに、コーポレートカラーのラベンダーブルーを色付けしていく。

「スウィートブライド」誕生の瞬間だ。


第32話につづく・・・






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