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【全曲紹介】Dave - Psychodrama - #2 Streatham

2曲目、Streathamはデイブの地元の地名です(Streatham, South London)。この曲ではデイブが若いころの地元での話が展開されます。地元で勉強しろと言われストレスを感じていた学生時代、それを和らげるために使ったドラッグ。そして絶えないももめ事。そうしたものに悩み、摩耗するデイブの心情がみてとれます。Nana Roguesとのダークなトラックの上で、フックからはじまります。

[Chorus]

ロンドンではエリート教育がかなり徹底されているらしいです。学力テストによって、子供たちはふるいにかけられ成績で分類される。親からのプレッシャーもかなり厳しいようです。そんな幼少期のストレスフルな環境をデイブはフックでスピットします。


I grew up in Streatham/Teachers was givin' man tests/Same time the mandem were givin' out testers/I got peng tings givin' man stress/I ain't gotta sex it, message or text it/I don't wanna do you and I/Like I'm in Leicester skippin' my lectures/We used to ride 'round all reckless
俺はStreathamで育った/先生たちからはテストを受けさせられたんだ/時々、仲間がテスター(ドラッグのサンプル)を持ってきてくれたんだ*1/イイ女は男たちにストレスを与えるんだよ…/俺はそいつとセックスはしない、メッセージも送らないんだ/俺はその女としたり、一緒にいたくなんかないんだよ *2/レスターにいるみたいに、俺は授業をサボってた/俺たちは馬鹿みたいにいつもふざけて笑い転げたんだよ

*1 テスターは売人が無料で配るドラッグサンプルのこと。お金がなかったから少量サンプルでストレスを紛らわせてたのでしょう。
*2 Daveは女と付き合うとろくなことがないとおもってたのでしょうか。最後のYou and IはU-N-I(=University/大学)が隠れていて次のラインに繋がります。Daveは大学を辞めて、早く音楽をやりたかったようです。ただお母さんは大学で法律を勉強してほしかったと。大学を辞めるといったときも失望されたと語っていたとか。

Verse 1

最初のバースでは荒んだ地元の仲間たちの生活が描写されます。同時に成功した自分やほかのラッパーの世界を対比して描写していきます。

Stolen 'peds, that's Geely and Vespas/And the feds called my broski restless/Said he got a charge in the car, no Tesla/And everybody 'round me rowdy
盗んだスクーターはGeelyやVespas製*1/警察は俺の仲間を不審者だって呼びつけて、そいつは車の中で捕まったんだ。テスラじゃないぜ *2/俺の周りの奴らはみんな狂暴なんだよ

*1 Vespasはイタリア製の高級スクーター。イギリスではギャングが強奪することで有名らしいです。Geelyもスクーターメーカーとのこと。
*2 歌詞で出てくる"Charge"には充電と捕まるの2つの意味があります。車の中でドラッグを持ってて捕まった」と「車の充電(電気自動車)」の2つの意味が掛かっています。もちろん後者はただのワードプレイなので、最後の「(チャージしてたといっても)テスラじゃないぜ」に繋がるわけです。KOHHの電子じゃなくてローバーのレンジとまあ似たようなものです。

さらに巧みでヒリヒリする表現が続きます。

My G just came out for a shooting/And Ramz done a madness, charting/Say that man got something in common/'Cause trust me, both of their tings been barking
俺の仲間は銃をもって外に飛び出していった。/その間にRamzはヤバいチャートアクションをみせてるんだ。/こいつらには共通点があるんだよ。/だってそうだろ?どっちもBarkingしてるってこと。

*RamzはLondonの若手ラッパーでBarkingという曲でめちゃくちゃ売れたそうです。一方でデイブの仲間は銃を持って殺し合い(=Barking、銃撃するの意)をしてるようなやつがいる。Barkingしてるって意味で共通項があるだろう?というライン。

成功したRamzとストリートで暴れている自分の周囲を絶妙なワードプレイで対比します。同じロンドンなのに、ここまで違う現実がパラレルに走っている。そんな世の中の現状をデイブは鮮やかに切り取っていきます。

Two men and an angry Merc/That's war wit' a German, Winston Churchill/It's mad when man wanna murk you/But you know you gotta be in by curfew/And I seen a lot of man get pressured, why?

2人の怒り狂った男がベンツの中にいる。/まさにドイツ人との戦争だな。まるでウィンストンチャーチルさ/人が人を殺すぐらい攻撃するなんて、イカれてるよ。/でもお前は門限までに帰ってこなきゃいけないだろう?/そう、沢山の奴らがプレッシャーを感じて生きてる。なぜなんだ?

Mercはメルセデスベンツと独の政治家メルケル氏が掛かっています。ドイツを代表するベンツとメルケルを引き合いに出しつつ、英独の戦争さながらの激しい争いを描写していると。EU圏のラッパーにしか書けないラインだと思います。

そんな喧嘩や争いが絶えないロンドン。でも一方で門限までに家に帰って勉強しないといけない。そのプレッシャーのもとでみんなが生きている。ここでも暴動と勉強という対局的な2つの事柄を比較して歪んだリアリティを描写していきます。そして最後に「それはなぜ?」と問いかける。そしてまたフックに戻る、と。

バース1はこんな感じで終わり。

Verse2


バース2では、自分の地元でドラッグと階層社会の中で命を落としたり、犯罪行為を繰り返して上手くいかない。そんなストリートの現実が描写されます。

デイブは「そんなことをしても成功はできない、もっと頭を使って賢くなれ」と仲間に、そしておそらく自分にも言い聞かせながらライムを重ねていくわけです。いくつかラインをてみます。

Man are dead or in jail, that's useless/Tell a yute, "If you've got a brain, then use it"/Now I drive past man I went school with/You was the cool kid, now you look clueless
あいつは死んじまったか、あるいは塀の中。使い物にならなくなっちまった/若いやつに対して、俺はこういうんだ。「もし脳みそがあるなら、それ使えよ」ってさ。/俺は今、過去をドライブしてる。学校に通ってるとき、お前がまだイケてたときさ。/でも今じゃお前はもう無価値になっちまった。
And I'm still tryna tell man, "Fuck the Audi, switch it for a Benz"/When you're tryna make it out the ends/Friends of enemies are enemies/And enemies of enemies are friends/Fuck the Benz, I switch it for a Beamer/Tell the dealer, "Need a bigger litre"
お前がここを抜け出そうとしてやっきになってるとき。/俺は今でもこういうんだ、「”アウディ(=ピュア・コカイン)なんかクソ、ベンツ(=ベンゾカイン)を売れよ」って。/敵の味方は敵で、敵の敵は味方なんだ/ベンツなんかクソだ、俺はBMWに乗り換えたよ。/ディーラーにいって、もっとデカいリッター(=エンジン)のやつをくれって言ったんだ。

ここも巧みなライン。アウディとベンツはそれぞれコカインとベンゾカインの隠語で、ベンゾカインの方が単価が高いので抜け出したいならそっちを売った方が良いとラップします。一方で自分はドラッグを売ること自体をクソだと否定し、バカでかいBMWに乗り換える(=努力して成功する)と宣言します。ドラッグを売るのが下手くそで、抜け出そうにも抜け出せない奴。自分は全てを否定してまっとうなやり方で成功する。地元のストリートの現実にデイブはうんざりして必死に抜け出そうとしたのかもしれません。

バース2はこんな感じです。

そしてもう一度フックに戻って曲が終わる、と。

この曲ではイギリスの階層社会とそこで苦しむ若者の姿が非常に鮮明に描写されています。トラックも歌詞の内容にもピッタリとマッチしていて、デイブの地元の悲惨な状況と本人の「暗く陰鬱な感情」「苛立ち」「自分はそいつらとは違うという思い」など様々な感情が垣間見れたのではないかと思います。

つづく、、、

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