フィルム_フェスタ

『さよなら僕の性格』第24話 深夜ラジオ

環境が変われば、人間関係もリセットされるし、最初だけ頑張って人間関係を築けば、あとは思うままに振る舞えばいいだけだ。

環境をリセット、つまり大学だ。大学に行くのだ。とてもいい大学に行くのだ……。そして、大学で、太田さんみたいになる! 目立ちまくるのだ。あちこちのサークルに顔を出して、人に話しかけまくり、学校一の有名人になるのだ。

……いや、待て、そうだ。むしろ僕がサークルを作るのだ。そして司会者として、「さんま御殿」のさんまさんみたいに仕切るのだ。そのくらいやらなくてどうする。

忙しくなるだろう。敵も増えるかもしれない。でも、ラグビーの選手が試合中痛みを感じないというのと同じ原理で、テンションが上がっていれば、ちょっとくらいイヤなことがあっても大丈夫なはず。毎日騒いでも気持ちが高ぶっていれば体力も続くだろう。そういう生活をしていれば、次第に体力もつくだろう。

無茶なこともどんどんやるんだ。バーサーカーのように突進しつつ、でもしっかり考えてクールに行動する。動く前に考えるのではなく、動きながら考える。言うなれば「冷静な自暴自棄」。大学ではそれをやるのだ。

自分を変えるのだ。人生を変えるのだ。俺はやる!

爆笑問題のラジオを聴くようになってから、そして大学に行ったら太田さんのようになるのだと決めてから、教室の自分の席で一人で過ごす有り余る時間を、大学生になってからの計画を立てることに費やすようになっていた。

『爆笑問題カーボーイ』はトークもリスナーのネタも素晴らしく、深夜、ベッドの中でケラケラ笑いながら寝落ちするまで毎週ラジオを聴いた。辛いばかりの日々のささやかな楽しみだった。

やがて火曜日が待ちきれず、何となく他の曜日の深夜放送も聴くようになる。そうして聴き始めたのが、月曜日の『伊集院光 深夜の馬鹿力』。

衝撃を受けた。こんな面白い人がいたのか。いや、伊集院さんはテレビで見たことがあるけど、こんな面白い人だったのか。太田さんもそうだけど、面白いことが言える人に強く憧れる。かっこいいと思う。

「面白いことが言える人」。伊集院さんは僕の知る限り、日本でその頂点にいる人だ。すごすぎる……。

『深夜の馬鹿力』と『カーボーイ』。現在もなお絶大な人気を誇る2つの番組との出会いだった。すっかり深夜ラジオの魅力にとりつかれた。

深夜3時までラジオを聴き、朝は7時に起き、学校に行く。当然、睡眠不足である。

授業のノートにはイカナゴのくぎ煮の絵でも描いたのかというくらい、ごちゃごちゃした意味不明な線が書かれるようになる。

「アッシリア」とか「アケメネス朝」とか書いてあるらしいが、こんな小汚い字は情けなくて見るのもイヤだし、「あとで教科書見ればわかるだろ」と、あとで教科書を見るであろう未来の自分に託し、授業を諦める日々が続いた。

これでは成績が落ちることは目に見えている。それでも、ラジオを聴くことはやめなかった。やめられなかった。

別に大学受験を諦めたわけではない。成績を伸ばして一流大学に入って周りを見返すという野心は消えていなかった。

僕には夏休みがある。夏休み頑張ればいい。そう自分に言い聞かせた。

さて、そんな折、3年生の引退に伴い、僕は音楽部の部長になった。2年生が僕だけだったので当然の成り行きだった。

部長にはなったが、部活への取り組みに大きな変化はなく、バイオリンの大きな音を鳴らすのは恥ずかしいので、端っこの方で音量を抑えて控えめに練習して、日が暮れて時間になったらそそくさと帰る。もしくは部活に出ずにメタルギアソリッドの要領で誰かに見つからないように、こっそり家に帰るのどちらかを続けていた。

そんなこんなで、2年の夏休みが始まろうとしていた。

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