『さよなら僕の性格』第23話 爆笑問題
文化祭で友達のいない人間の惨めさを思う存分に味わわされた僕だったが、その頃、一つの噂を耳にする。
テレビで大活躍している爆笑問題の太田さんもまた、友達のいない暗黒の高校時代を過ごしていたというのだ。
ほら見ろ! 友達がいないくらいの人間のほうが大物という証ではないか。
爆笑問題は好きだった。僕の笑いの感覚に合っていた。当時のベストセラー、『爆笑問題の日本言論』も笑い転げながら読んだ。
小さな頃から笑えるものには興味があったけど、体を張った笑いとか、変な格好をしておどけるだけの笑いが好きではなかったから、面白いことを言って笑わせる爆笑問題の太田さんは、単純にすごいとか、かっこいいと思っていた。クラスでは「爆笑問題はつまんない」などと噂しているやつもいたが、僕は「少なくともお前よりは圧倒的に面白いよ」と思っていた。
噂では、太田さんは高校では成績もよかったという。友達がいなくて成績がいい。僕と全く同じである。
そんなこんなで、爆笑問題のラジオを聞くことにした。深夜1時から3時の『爆笑問題カーボーイ』。
そこには、いろいろとまじめに語る太田さんの姿(見えないけど)があった。そして、その語り口や思考回路は普段の僕の頭の中によく似ていた。
友達がいない分、普段からあれこれ内省的に深く物事を考えるクセがついていた僕。太田さんの語りはそんな僕の内面そっくりに思えた。
あるとき、太田さんが大学時代のことを話していた。
教室で机に登って大騒ぎしていたこと。通学時、道行く人にやたら話しかけ、学校になかなかたどり着かなかったこと。仲間で喫茶店にたむろしたこと。
友達がいない高校生活を終え、もうあんなことにはなりたくないという反動で太田さんは、真逆と言ってもいい、激烈な大学生活を送ったという。
「女の子とかもみんないてさ、楽しくて仕方なかった。人生バラ色だと思ったね」
ああ、いいなあ。僕も、友達に囲まれて、自分の言いたいことを言えたら、どれだけいいだろう。
よし、僕も大学生になったら、きっと太田さんみたいに、人の輪の中心で騒ぎまくって楽しくて仕方ない日々を送るんだ!
そう決心した。何しろ、僕には太田さんと同じ何か特別な血が流れているのだから。そうに違いない。
それから爆笑問題の大ファンとなった僕は、全ての出版物を買いあさり、出演テレビ番組もしっかりチェックするようなった。
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