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第2章 自動車整備科存続の危機  14-2.アフリカ新米教師デビュー

 いよいよ私の最初の授業が始まる。校長は私を生徒達が待つ教室へ案内した。アトリエの隣の教室である。校長の後をゆっくり歩いて行き、中を覗くと7名の1年生の生徒がいた。

 校長と一緒に私は教室に入った。生徒たちの足元に目をやると、皆サンダルを履いている。服装は半袖シャツだ。日本の自動車整備学校の授業は、長袖のツナギに靴は安全靴だ。こんなラフな軽装の生徒たちにとって、ホンモノの自動車整備の技能習得は、想像もつかないことだろう。目の前の少年たちは、これから何が起こるのだろうといった眼差しで教室へ入ってきた私を見つめていた。
 校長は生徒達に現地語で何か言って、そそくさと教室から出ていってしまった。私は一人取り残されたような恰好になったが、生徒達の前に立ち、始めての授業を始めた。

「こんにちは。
 Taka Nakaiだ。
 初めまして。
 日本からこの学校に来た」

 と生徒達に声をかけた。
 すると、懐疑的だった様子だった生徒達は緊張の糸が切れたように、表情がぱっと明るくなり笑顔になった。
 海の東の遠い所にある日本という国から一人の日本人教師が今日やってくることは知っていたようだが、私の様子を伺っていたのである。
 私が独学のフランス語を話し出すと、皆が一斉に歓迎ムードとなっていった。

 私の自己紹介が終わり、生徒の出席をとることにした。
私  「出席取ります。ところで、私の名前は名前(Taka)と名字(Nakaï)の2つだけど、みんなは3つある。何で3つ名前があるんだ?」
 素朴な疑問を生徒達に聞いてみた。
生徒「例えばオマール イブラヒム フセインなら、一番目(オマール)は自分の名前、二番目(イブラヒム)は父の名前、最後(フセイン)はおじいさんの名前だよ」
私  「へぇ~」

 授業は、何とかできたように思った。

 初日はお互いに自己紹介し合い、趣味や好きな食べ物、どこに住んでいるか等の身の上話をして和気あいあいとした雰囲気となった。
 授業はそこそこに車の絵が描かれたプリントを配布し、部品名について黒板に書いて生徒に書き取ってもらい、最後に丸つけをしてよくできました! とした。授業後は1年生の7名と一緒におしゃべりをしながら帰宅した。

 次の日、2年生の授業を行った。教室の教壇に立つと、昨日の1年生より少し体格が大きい生徒が8名椅子に座っていた。「これから何が起こるんだ」といった真剣なまなざしで私を見つめている。
 2年生との顔合わせ授業も昨日同様に無事終わったが、時間割の過密さは想像以上なものだった。
「これから1年生と2年生の2つ違った授業の準備を毎日しなければならないのか……」

 教職員室にいた校長へ授業の出席簿を手渡した。
「良い生徒達だろう」
 と、ドスの聞いた声で笑顔に校長で言われた。私は昨日の1年生と今日の2年生の授業態度を思い出し、笑顔でうなずいた。

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