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第4章 みんな生きている 26. 来訪者

 私の一軒家の宿舎には、いろんな人が訪れる。
 多いのは、電話だ。
 現地人の家の多くに電話自体がないので、我が宿舎の固定電話を使いにやってくる。
 通話料(50フラン〔30円〕/3分)は少額だからもらっていない。つまりタダで使わせている。そのため、みんなが電話をかけるためにやってくる。誰と話しているのか知る由もないが、長電話しているわけでもなく、1分くらい話をしているだけなので、我が家の電話はご自由にどうぞ! って感じだ。宿舎の守衛はいったい何をしているのだろうか?
 そもそもイスラム教には、「困っている人を助けよう」という教えがあるらしい。
 つまり、
「自分は困っている。タカ(私)は裕福なんだから、電話や通話料を困っている自分に差し出し、手助けするのは当然だよ」
 と思っているのかもしれない。しかし、私にとっては、日本と比べたら絶対的に物も何にもない環境なので、ある物はみんなで使えばいいという軽い気持ちもある。
 そんなわけで、私の宿舎のトイレと電話は「フリー」にしている。

 校長も宿舎によく来る一人だ。実は、私を何かと気にかけ、休み中でも私の宿舎にやって来てくれている。
校長「タカ、おまえの家にあるプリンターを貸してくれ。小学校の先生が印刷したいんだ」
 学校で使う教材作成のため、日本から船便で送った私用プリンターが宿舎にある。
私 「ダコー(分かった)。パソコンが必要だけど持ってる?」
校長 「持ってるぞ。(ドライバインストール用の)CDも貸してくれ」
私  「ダコー(わかった)。どうぞ。予備のカラーインクもあるよ」
校長 「ありがとー」
 後日、校長は替え用黒インクとプリンターを返却しにきた。休暇中も仕事熱心な人だ。

 この校長、どこかで私を見張っているのではないかと思うくらい、外でも出くわしたりする。町で歩いていたら、
校長「どこ行くんだ」
 校長が自家用車で私を見つけて声をかけてきた。
私 「おぉ~ビックリした。JICA事務所へ行くよ」
校長「じゃあ~乗れ!」
私 「ホントに?! ありがとう」
 こんな具合だ。アフリカ人は目が良いのだなぁ。

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▲アリサビエ副市長宅の玄関

 逆に、私がご近所に行くこともある。宿舎の隣にはアリサビエ副市長が住んでいて、インターネットの電話線を借りに、私が副市長宅に行くのである。
私   「インターネットしたいんだ。電話線貸してくれない?」
子供たち「タカ、タカ、タカ~、いいよ。入って」
 副市長宅にお邪魔して、ダイヤルアップ接続し(約40kbps)メールを送受信。
副市長 「タカ、実はうちもパソコンを買おうと思ってるんだ。タカのパソコンでインターネットをちょっとやらせてくれ」
私   「セパグラーブ(どうぞ) アトンデ(あっ、ちょっと待って)」
 AVGアンチウイルスソフトを起動。パソコン画面にインストールされている様子が表示。
副市長 「タカ、おまえはCIAか。ワッハッハ~」
    「今度、家に食事招待するからな。また来てくれ」
私   「ありがとー」

こんな感じで、みんなオープンな感じの一家でした。

 歓迎されざる来訪者もある。
 ある日、夜中の11時頃宿舎で就寝中。
ドンドンドン!
「タカ! 俺はムスタファだ! お前に貸した教科書を返せ! 中に入れろ!」
 寝室の窓から突然の叫び声が聞こえてきた。驚いた私は、
「ガルディアン(守衛)は何で門を通したんだ?」
 と思いながらも、眠い目をこすりながら起き上がった。

 同僚の先生から貸してもらっていた1冊しかないボロボロの教科書がある。この夜中にそれを返せという。ムスタファ先生は、先日、校長と喧嘩をして学校に来なくなった20代後半の金持ちお坊ちゃまの先生。

ムスタファ先生「前に貸した教科書、なんで返さないんだ! 返せ!!」
 返せ!って、大体、校長と喧嘩して学校から追い出されて来なくなったくせして、どうやって教科書返せってんだと思いながらも、ボロボロの教科書を返却。

 しかし、ムスタファは帰ろうとしない。
ムスタファ先生「酒はないのか」
私      「シードル(リンゴ酒)ならあるぞ」
ムスタファ先生「シードルなんてものは、子供が飲むものだ」
私      「でも、ムスタファはイスラム教徒だろ。酒飲むのか?」
ムスタファ先生「俺はフランスに留学中、酒を飲んでいた」
私      「とにかく酒は今シードルしかないから、これを飲もう」

 結局、宿舎のサロンでおしゃべり。教科書を回収しにくるのはいいとしても、日中に来いよ! 寝てる時に来てんじゃね!!
 と思いながらも、彼とシールドを酌み交わし、彼の自慢話を聞かされ、私の宿舎の夜は更けていった。

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