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第2章 自動車整備科存続の危機  11.夜警を体験する

 猛暑を覚悟して地方都市アリサビエ市に移ったが、2月は、意外に涼しく、過ごしやすい。ジブチでは、夜もクーラーと扇風機を使用しても寝苦しかったのと比べ、アリサビエ市は寒いほどで、JICA訓練所で支給されたジャケットを掛布団にして寒さを凌ぐほどだった。

 アリサビエ市は、昼間の気温は35℃で首都に比べて涼しいのだが、夜は20℃くらいと冷える。ちょっと体験してみようかと、厚着をして守衛のマネをしてみた。

 それを見たムッサさん(宿舎の夜の守衛、46歳)
「タカ、何やってんだ?!」

 私は、ジブチでは崇敬(たかあき)の最初をとって、タカという名で呼ばれている。
「オージョーディ、ジェ ドルミイシ(今日はここで寝るわ)」
 私が明るく笑って答えた。
「……。何で?!」
 ムッサさんが私の不可解な行動に困惑していた。
 夜の守衛はいつもただ座ってボォ~としている。楽そうなので、やってみたが体が痛くなって結構きつい仕事だと分かった。

 ムッサさんは火おこしで、炭に火をおこす種として、子供が学校で使っているノートを燃やすこともあり、たまにビックリさせられる。

 そもそも便利なものが溢れる日本では、マッチやライターで簡単に火をつけることが当たり前。しかし、途上国の地方都市では、現地の人はマッチやライターを買うお金がなかったり、そもそもお店に売っていない、お店すらない環境である。

 大昔の原始時代、又は、地震や津波等の大災害に見舞われた状況下をイメージして「火を起こしたい」となったとき、マッチやライターがないと想像するとどうしたらいいのか困ってしまう。

 ムッサさんは、マッチがないときは、宿舎の庭から火おこしに必要な小枝を集め、木と木をこすり合わせて摩擦させ始める。次第に摩擦面から煙が立っていき、木の削り粉から火種が誕生する。これが結構感動的だ。

 アリサビエ市は街灯がほとんどなく、月明かり・星明りの元、真っ暗な環境下で「火おこし」をすると、真っ暗(真っ黒)の中に線香花火よりも小さな火種が生まれる光景は、とても神秘的である。この神秘的な火種を大きくするために、子供が学校で使っているノートを破いて燃やしているところは、何とも突っ込みどころ満載で、アフリカ流である。

 火を起こしたら、ムッサさんは、眠る態勢ばっちりで、毎日グーグー寝ている。「守衛は夜中の仕事中は起きているもの!」しっかり仕事をする意識をもってもらいたいという日本人的な思いはあるものの、そんな思いはアフリカでは通用しない。

 火をおこし、星空の下でスヤスヤ眠る、アフリカの夜警はまるでキャンプをしているよう仕事である。

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