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第3章 発展途上国の壁  18.日本のソースが恋しい

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▲道端にある屋台で食べる昼食 50フラン(30円)

 気づいたら、日本を離れて2カ月、職業訓練学校の仕事も始まり、この一軒家である宿舎での生活にも慣れてきたのだろうか、なぜか無性に日本のソースの味が恋しくなった。これは食のホームシックだ。

 やはり、生まれてからずっと親しんでいた言葉や食べ物、つまり日本語と日本食がずっと無いという状況や環境はかなりのストレスだ。日本に住んでいたら、すぐにコンビニで買える。
 ソースだけじゃない。カレーも恋しい。しかし、日本のカレールーは現地では入手困難な宝物。日本では200円くらいで買えるが、10倍の2,000円くらい払ってもいいくらい。と言っても誰も持っていない……。

 ふと、日本から持ってきたブルドックソースの空の容器を見ると原材料名が記載されているではないか!
 日本の味覚の欠乏症のピークに達していた私は、
「材料が揃えばできるだろう」
 と自分でソースを作ることを思いついた。

 果たして自分でソースが作れるのだろうか? そこはやってみなければ分からない。
 まずは、ソースの原材料集めだ。

 しかし、原材料を集めるところから難題が立ちはだかる。アフリカは物資が少ないのである。アリサビエ市のマーケットでも「野菜売り切れ」「トイレットペーパー品切れ」「コーラ売り切れ」となるのは日常茶飯事。
「来週首都から届くから待って」
 とよく言われる。
 野菜は毎週水曜日に隣国エチオピアから列車で運ばれてきて、それが頼りになっている。だから、買い物は、八百屋の店頭に並ぶ水曜日がベスト。週に一度なので野菜はちょっと多めに買いためる。
 八百屋にはバナナ、トマト、ジャガイモ、玉ねぎ、そして、サラダという名の葉っぱ、唐辛子、オレンジ、パパイヤが並び、量り売りされている。ちなみに、パパイヤは現地語では「パイパイ」。「パイパイって言うんだ~~。へぇー」となんだか感慨深い。
 大体kg単位で買うが、常連となり、いつも買いにくると、玉ねぎやジャガイモをちょっと多めに「おまけ」してくれる。日本の八百屋でもあるよくある風景だ。

 今回も水曜日のアリサビエ市のマーケットに行き、ソースの原材料を調達した。トマト、玉ねぎ、リンゴなど。案外揃うものだ。
 材料が揃ったので、それをみじん切りにし、火で煮込んだ。
 しかし、鍋に材料をぶち込んで火をかければできるほど、ソース作りは甘くなかった。本物のブルドックソースには程遠いが、ソースとしては使えるものにはなったような気がする。今回はこの辺にしておくことにしよう。なんだかんだやっているうちに、日本の味覚のホームシックも収まってきた。こういうのは波のようなものかもしれない。

 味覚のホームシックの後、それでも何かもの足りないのを感じる。何だろう……?

「たまごが食べたい!」

 タンパク質が足りないのだろう。アフリカに来て食事が偏っていたのか、足りなくなっている栄養がでてきたようだ。やはりそういうのは、自然と体が要求してくる。タンパク質ならば、たまごなのだが、やはり、たまごは新鮮なものがいい。ここでは、たまごも新鮮かどうかも怪しい。どうすれば……?

「庭でニワトリを飼う!」

 ニワトリの入手の仕方を人づてに尋ねていくと、職場の学校の生徒の家が、ニワトリを分けてくれるという。早速、生徒の家から、雌鶏を一羽1000フラン(600円)で売ってもらい、宿舎の庭で飼った。おかげでたまごを1日1個を産んでくれて、たまごを毎日食べられるようになった。

 必要ならば、ほしいなら、食べたいなら、「自分でなんとかやる」という環境。誰も与えてくれない。何もない環境にいると、自分でやるしかなくなってくる。だんだんこれが当たり前になってきている。
 ちょっとしたサバイバルだ。

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