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【旅の記憶】リド島発、本島行きのヴァポレット

ヴェネツィアにいる間、頻繁にヴァポレット(水上バス)に乗った。
ヴェネツィア本島は、そもそもがそんなに広くない島だ。
そして基本的に車は入れず、移動手段と言えば運河をゆく船がメイン・・・
なんて理由を差し置いて、ヴァポレットに乗るのはなにより楽しいのだ。

ともかく船から眺める景色が美しい。大運河沿いに建つ歴史ある建物、教会、
そして行き交うゴンドラやボート。乗っているだけで移動を兼ねた観光ができてしまう。

私はヴェネツィアに着いてすぐに7日券50ユーロを買ったので、後は使い倒すのみ。
ちょっとした移動はもちろんのこと、お腹が空いたから昨日の店へご飯に、とか
タダで使えるきれいなトイレを発見したからまたそこを使いに、とか
そんなちょっと使いも気兼ねなくできるのだ。
(大運河沿いのカ・レッツォーニコという博物館のお手洗いに行くために
ヴァポレットに乗っていた。博物館には申し訳ないけどトイレは旅の死活問題。)

私は、ヴェネツィア本島ではなく、近くのリド島にあるリーズナブルなホテルに泊まっていた。
単純に本島はホテル代が高かったからだ。
ヴェネツィア本島を観光するけど本島以外に泊まる場合、私の選択肢としては
このリド島と、列車で本島へ渡る手前の町、メストレがあったが
個人的にはリド島にして大正解だったと思う。
朝起きたら、地元の人達に混じって本島までヴァポレットに乗り、帰りも同様にリドに戻る人達と乗船することができる。
これは疑似的な住人になったようで、何だか愉快だった。
リド島が出発(終着)駅になっているヴァポレットのルートは多数あり、もちろん7日券で乗ることが可能だったので、お金の面でももったいない思いをしなくて済んだ。

ちなみにこのリド島はトーマス・マンの『ヴェニスに死す』の舞台となった島である。
とある少年に魅了された作家の物語だが、この物語にはコレラの蔓延が描かれてもいる。
感染症という意味では、訪れた当時と今では感じ方がまったく変わってしまった。
以前のように海外を旅するには、まだしばらく時間がかかりそうだが、また出掛けられればいいな、と強く思う。

さて、ある日の夕方、前述のBrekへ晩ご飯を食べにいくつもりでヴァポレットに乗っていると、
初めて検札の男性が乗ってきた。
旅のお供『地球の歩き方』にも「検札は頻繁に来る」とあったが、これまで全然会わないな、と思っていたので「おっ、ついに」と思った。
こちとら紋所のごとく7日券を持っているので、何も心配することはない。
と思ってのんびりしていたら、同じ船に乗っていたおじさんと検札のお兄さんとの間で言い争いが始まったではないか。
まくしたてるイタリア語が聞き取れるわけもないが、雰囲気だけで
「あんた、切符ないんだろ!ないんだったら罰金だぜ!」
「あるってあるって!なぁ、持ってるからちょっと待てよ・・・」
「往生際が悪いぜ!次で下車だ、罰金だ!」
という感じ。そんなに派手にやる?とずっと見学していたかったが、目的の船着場が来たのでやむなく降りた。
下手にトラブルに近づかない方がいい、という危機回避アンテナも働いた。

というわけで、私の中のあの二人は今も小競り合いを続けたままだ。

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