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親子の愛

意識が行動に

ある日の夕方。自宅のベランダに出て外を見ていると、小学4年生くらいの女の子と弟らしい男の子が手を繋いで歩いているのが見えました。

ベランダからは近くの会社が見えます。その会社敷地内にはお稲荷様が祀られています。その前を二人の姉弟は歩いていたのです。

お姉ちゃんが弟の手を離し、お稲荷さんの前まできて、手を合わせたのです。
それを見ていた弟もお姉ちゃんの真似をして、目をつむり、手を合わせていました。

会社などによくあるお稲荷さんは、商売繁盛・厄除けなどを意識して祀られていることが多いと思います。そのお稲荷さんに幼い2人の姉弟が手を合わせ、頭を下げているのです。

不思議に思いながらもそっと見ていました。それから数日が過ぎた日です。
同じように同じくらいの時間に姉弟がお稲荷さんの前で立ち止まって、一緒に手を合わせているのです。

お姉ちゃんは、手にカバンを持っていて、二人でお使いに行くようでもあり、塾に行くようでもありました。

二人はこの前のように、お稲荷さんに手を合わせた後は、手を繋ぎその場を去って行きました。

小学生二人がこの場所を歩いているのなら、きっと近所の子だろうと思いました。
その後、私がベランダに出る時間が合わないのか、しばらく二人の姿を見ることはありませんでした。


二人がお稲荷さんの前で手を合わせていた姿を見てから数ヶ月が過ぎた日です。
夕方、散歩をしていた私の前に、母親と見たことのある姉弟が歩いていました。
母親は私の知り合いでした。その方のお子さんだと知ったのはその時です。

「お子さん、あの場所にあるお稲荷さんでよく手を合わせていますね。時々、見ましたよ」

母親に声をかけました。

「そうなんですか。きっと毎日、手を合わせているかもしれません。いつも二人で出かける時、『今日もあの場所に寄るからね』と話していますから」

不思議でした。二人が会社にあるお稲荷さんに毎日手を合わせる、その理由がわからなかったのです。父親が務めている会社なのか、それとも他の理由があるのだろうか。
黙っている私に、母親が話を続けました。

「実は昨年、夫が亡くなって」

私が返事もできずにいると母親は子どもに「二人で先に行っててね」と声をかけてから話を続けました。

「父親が亡くなってからなんです。鳥居があると、どこの鳥居でも手を合わせているんです。きっと夫が病気になった時、私が近くの神社に毎日のように行って手を合わせている姿をあの二人は見ていたからかもしれません」

 母親は先を歩いている二人の姿を見ながら話をしてくれました。

 そういえば、2回目に二人を見た時、二人はお稲荷さんに手を振って「また来るね」と言っていたことを思い出しました。

 私は母親に言葉を返すことができませんでした。
(子は宝です)
*やまびこ通信「かけはし」より