見出し画像

ナカさんの読書記録 三浦しをん「仏果を得ず」

最近は文楽関係の本を読むことが多いです。
先日、三浦しをんさんの「あやつられ文楽鑑賞」をパラパラと読んで(そういえば三浦さんには文楽の小説もあったはず)と図書館で借りてきました。
表紙のイラストがとても可愛いので文楽を知らない若い人でもつい手に取りそう。借りてきたのは多少くたびれた文庫版でしたが、きっとそれだけ貸出数が多い人気本なのでしょうね!期待が高まります。

健大夫(たけるだゆう)が、寡黙で不愛想な三味線弾き兎一郎(といちろう)と組んで、厳しい修行や恋愛などを乗り越えていく物語。師匠の銀大夫、健の教え子のミラちゃんなど個性的な登場人物も大勢出てきて、ストーリーもアッと驚く展開がたくさんあり引き込まれました。

伝統芸能の中でも特に歌舞伎や文楽、若い人はなかなか接する機会がないでしょう。主人公の健は高校の修学旅行で文楽見て(浄瑠璃を聴いて)まるで石をぶつけられたかと思うほどの衝撃を受け、卒業後文楽の研修所に入り銀大夫に弟子入りすることになったのです。学校で無理やり見せられる芸術鑑賞会も「全く見たことない」よりは「一度でも見たことある」0<1、と何かしらのきっかけを与えられる可能性がそこにあります。私も高校の芸術鑑賞会で歌舞伎を見ましたが何にも覚えてません。。。(健と違い何も飛んでこなかった。。。)千人に一人でも健のような若者がいれば後継者不足の伝統芸能界にも希望の光になるでしょう。文楽は世襲ではないので研修所出身の技芸んさんも実際おおぜいいらして活躍していらっしゃいます。

それと文楽の三味線弾きさんはどの方も「寡黙でクール」というイメージがありますが(有吉佐和子の「一の糸」の露沢清太郎もそんな感じ)、それは床(語る舞台)では暗譜で三味線を弾くので(クラシック音楽のように楽譜を置きません)、空を見つめる真直ぐな視線、重々しい表情で時折ムゥとかハッとか唸り声を出すのみで、情感豊かに喜怒哀楽を大汗かいて語る太夫さんと比べるとまるで「静と動」のように見えます。
健大夫と組むことになった兎一郎は無口で謎が多く、仲間内からは敬遠されているほどですが、物語が進むにつれ本当は人情味ある男という事がわかります。意外にも兎一郎は大のプリン好き!食堂の冷蔵庫にたくさん買い置きしてあり、地方巡業にもプリン持参。。。渋い三味線さんと甘いプリン、ギャップ萌えなキャラクター設定がいかにも青春小説らしいです。

大詰めの一節「もし文楽の神様がいるのなら。健は楽屋の通路を歩きながら願った。俺は長生きさせてくれ。もらった時間のすべてを、義太夫に捧げると誓うから。」とにかく芸を極めるには何度も繰り返し練習、稽古すること。長生きも芸のうち。天から与えられた時間、命をすべて芸に捧げる。真の芸、最高の芸を追い求める健大夫、心の底から出る神への願いでしょう。
プロの太夫さん三味線の方は、同じ演目を何百回やってもそれに満足せずにさらなる高みを目指していらっしゃるのだと思います。私はアマチュア義太夫なのですぐ(さて次の段は・・)と目先の事ばかり考えてしまいます。素人はすぐに飽きちゃうからダメですね、ちっとも上手くなりません(笑)

2020.7


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?