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止まっていた時計【2024新潟JS回顧録】

『小牧加矢太騎手、重賞初制覇。小牧太騎手の園田復帰が決定し、父がJRA所属として最後の週に行われる重賞で達成。相方は一昨年の新潟JSの覇者、ホッコーメヴィウス。このレースは小牧加騎手が初めて重賞に騎乗したレースであり、自身のJRA初勝利をくれた盟友ヴァーダイトと挑んだもの。かつて目線の先にあった大きな壁。2年後自身が同馬に乗り嬉しい戴冠、そして馬の1年8カ月ぶりの復活Vをささげた。』

↑フィクションでももう少し加減しない?


2024新潟JS 現地観戦レポート


 2024年7月27日(土) 新潟競馬場にて障害重賞 J・G3 新潟ジャンプステークスが行われました。今回、暑熱対策として新潟競馬では5Rから6Rまで約3時間半の休憩を挟み、9Rに行われた新潟JSは16:50発走と前例のない重賞となりました。

異例の昼休み

 発走が午後の遅い時間ということもあり、現地観戦勢の中には当日に出発、昼休み時間中に競馬場到着するという計画を立てていた人も多かったと思います。私も関西から飛行機で現地出発。競馬場には午後1時に着く新潟駅からの直通バスに乗りました。(普段の新潟開催の混雑具合が分かりませんがバスには並んだ人全員が乗れない具合の混雑ぶり)

 昼休み時間帯の新潟競馬場。ターフビジョンには繋ぎの番組が延々と流れており、音声がラジオのように場内に流れつづける。シート前の芝生でうたた寝をする人、水場で遊ぶ親子連れ、パドック開放、ギャンブラーたちの血が騒ぐのは札幌のレースが流れているときだけ…。一言でいうなら"異質"といった空気。この話は本題ではないのでこれぐらいに。来年同じシステムでやるならどう変化しているのか楽しみです。私は朝から何も食べてなかったのでタレカツ丼でチャージし、フォロワーさんと合流してレースの話をするなど適当に時間を潰してました。

タレカツ丼。こういうのでいいんだよ。

パドック

 三時を過ぎ6レースからレース再開。だらけてた観客もボルテージを上げていきます。そしていよいよ9レースのパドック。暑熱対策によりやや遅れて入場。障害戦らしく各馬とも落ち着いた様子です。
 ホッコーメヴィウスは普段からパドックは良く見せるタイプでこの日も淡々と周回してました。止まれの合図のあと、騎手が騎乗。いよいよ初コンビの始動です!

ホッコーメヴィウスと小牧加矢太騎手

レース

 16時50分。いよいよ待ちに待った新潟ジャンプステークスが発走!
レースはまず5番ホッコーメヴィウスと9番ロンギングバースのハナの取り合いになりますが最初の飛越が終わるとすっとメヴィウスが前にいき、後続も各々のポジションを確保。隊列は自然に決まる形となりました。ホッコーメヴィウスが1~2馬身ほどのリードを保ちながら一周を終えます。
ややレースが動き始めたのは2角を終え、向こう正面に入ったところ。ニューツーリズムが位置を上げ、サペラヴィが追走。さらにウインチェレステが後方から一気に前を狙いに来ます。向こう正面一つ目の障害が終わった後、ニューツーリズム、サペラヴィの二頭が同時に加速。二つ目の障害の直後にホッコーメヴィウスの半馬身内まで詰め寄りますが、三つ目の障害、なんとここでホッコーメヴィウスが加速を開始。後続二頭に一馬身のリードを再び確保。ここで一旦サペラヴィは後退、ニューツーリズムが後を追う展開に。

 3角を抜けたあたりでウインチェレステエンデュミオンが進出開始。二頭がニューツーリズムの外を回る形に。この時点でパトリックが内、サクセッションが外の位置をとり直線に入りました。
 4角を終え直線に入った時点でまだ余裕を見せていたホッコーメヴィウス。最終障害を終えニューツーリズムの伴騎手が鞭を入れ必死に促し再び猛追を開始。
『前は!小牧加矢太!そして!伴啓太の追い比べ!』
この時点でやっと「勝てるかもしれない!」という実感がひしひしと湧いてきました。直線では「加矢太ー!残せー!」と絶叫。それに応えてくれたかのようにここで再びホッコーメヴィウスが後続を引き離します。ニューツーリズムはいよいよ脚が限界に。エンデュミオン、サペラヴィ、ウインチェレステの好位追走勢も軒並み下がっていきます。200mを切り最後ホッコーメヴィウスに襲い掛かったのが内外それぞれで控えていたパトリックサクセッション。特にサクセッションが昨年の勝利を彷彿させる強烈な末脚で強襲してきますが、もうすでに逃げ切れる距離。ホッコーメヴィウスが先頭でゴール板前を通過。小牧騎手の右手が上がりました。
『ホッコーメヴィウス!ホッコーメヴィウスゴールイン!小牧加矢太です!

 昨年の覇者が昨年の勝ち方で襲い掛かってきた。それを振り切ったのは一昨年の覇者。それも一昨年の勝ち方で。新旧王者の対決を見事に勝ち切ったホッコーメヴィウス。1年8カ月に及ぶ無敗の期間が終わった瞬間です。「やっとあの強いホッコーメヴィウスが帰ってきた」私は腕の震えが止まらずしばらく呆然とした状態でした。
ただし、ゴール直後に掛ける言葉は決めていたのでなんとか振り絞って声を出してました。
『メヴィウスー!おかえりー!』

表彰式

久方ぶりの優勝レイ

 曇り空の下、多くの人が集まるウィナーズサークル。まずいつも一緒にいる担当厩務員さんと共に入場してきたのは紫の優勝レイを首にかけたホッコーメヴィウスでした。関係者の入場までぐるぐると周回するメヴィウス。レースでは闘志あふれる逃げを魅せてくれますが普段は怖がりでまじめな性格。しばらくしてから小牧騎手や清水調教師の姿も見え記念撮影へ。
 撮影が終わった後は表彰式。北幸商事さん、生産牧場さん、担当厩務員さん、清水先生、そして小牧騎手にトロフィーの贈呈。小牧騎手がウィナーズサークルに入った時、そしてこのトロフィー贈呈の時にはサークルのあちこちから「おめでとー!」「おめでとうございます!!」の声が上がっていました。私としましては「ありがとう!」と言いたかったのですが、場違いかなと思いその言葉は胸にとどめておきました。
(余談: 表彰式の前には清水調教師とエンデュミオンに騎乗した小野寺騎手が談笑する姿も見られました。今回珍しい二頭出しとなった清水厩舎。どんな作戦をたててたのでしょうね)

 表彰式の後は新潟ジャンプステークス恒例、勝利騎手インタビュー(なぜ新潟JSだけやるのかは未だ不明) 初重賞となった3年目小牧騎手は重賞であることを意識しないようにしていたこと、理想の騎乗ができたことなどを話してくれましたが個人的に印象に残った言葉が
『やっぱりホッコーメヴィウス強いですね』
というもの。自分を勝たせてくれた馬に掛ける言葉としては自然ですが「やっぱり」の部分に感じるものがありました。
 そもそも小牧騎手がデビューした2022年はまさにホッコーメヴィウスの全盛期。黒岩騎手と共にJ・G3を無双していた時期です。
小牧騎手が初の重賞挑戦となったのは自身JRA初勝利を共にした盟友でもあるヴァーダイトと挑んだ2022年の新潟ジャンプステークス。ホッコーメヴィウスが初めて重賞を勝ち取ったレースでもあります。何度も小牧騎手の前に立ちはだかってきた馬。それから2年の間、小牧騎手も清水厩舎の馬で結果を残し、遂に来た大きな仕事。あれだけ自分を倒してきた馬の強さを乗ることで実感したんだろうなと汲み取れるインタビューでした。
『馬に勝たせてもらった』
『(直線について)馬には余裕ありました。僕にはなかったです。』

 そして当然のように小牧太騎手の移籍についても問われます。ですが、太騎手は新潟に来ることもせず、加矢太騎手も特に発奮されてはないと笑いを誘いました。家族としては近くに、同業者としてはそれなりの距離に、それが小牧親子の距離感なのでしょう。にしても太騎手もJRA最終レースで勝利を飾るなど色々持ってるものありすぎだろこの親子。

息を切らしながらインタビューに答える小牧騎手
ありがとうございました。

 インタビュー後は一緒に観戦したフォロワーさんとも別れを告げ、満員のバスに乗車(交通についてはまだ課題がありそうですね)。新潟で利き酒という名の一人祝勝会をあげ、ホテルに泊まりその日は安らかに眠れました。

ここからは一旦、レースの展開について振り返ります。

2024新潟JS レース振り返り

ホッコーメヴィウスについて

 今回のメヴィウスについては「基本はいつもの勝ちパターン。ただし小牧メヴィウス特有の戦い方があった」と感じております。
最初ロンギングバースが仕掛け、飛越でハナを奪うというのはいつものメヴィウスムーブ。そしてすぐに内につける点はインへの意識が強い最近の小牧騎手らしい動きでしたね。(まあ順周り逃げ馬でインにすぐいかなかったら怒りますが…)そこからマイペースで逃げる形を作れたのはラッキーな点。各馬はメヴィウスをマークする競馬に持ち込んだのですがそれが仇となります。
 予想通り最初に攻めに行ったのはニューツーリズム、次いでサペラヴィ。ですがここでメヴィウスが加速をし交わすという動きにより二頭に脚を使わせます。それでいて最後の直線まで脚を残し、サクセッションとパトリックに差される前に脚を使い切らない競馬ができました。
 この「後続に脚を使わせる逃げ」はホッコーメヴィウスの代名詞。ですがその使い方が騎手によって若干異なる。
○黒岩騎手
 黒岩メヴィウスは向こう正面の時点で後続に追いつかれていることも多く、飛越で再びハナを取り返すという競馬が主な戦法。実は脚を残しており、3角からそれをようやく解放し最終的には大きく離すという動きを見せていました。(特に顕著なのが22京都JS)
○平沢騎手
 平沢メヴィウスは前半に追いつかれることはあるものの、道中でじわじわと差を広げ始め、3角から直線にかけて脚を使わせる戦法を使っていました。
○小牧騎手
 そして今回の小牧メヴィウスですが、向こう正面で追いつかせない(加速する)というのが今までになかった側面。また最終障害後もスパートをかけています(これは黒岩メヴィウスと少し類似)。加速で脚を使わせるというのが小牧メヴィウスの特徴と推測。

 ホッコーメヴィウスには飛越により加速するというアドバンテージがありそれで後続を引き離すことでハナを保ち続けるという動きが得意。小牧騎手は馬術キャリアを生かした乱れのない飛越を得意としここの相乗効果はそれなりにあったと思います。そしてここ数年での小牧騎手の"競馬"への対応力。今回最も危惧されていたのが小牧騎手が自らペースを握るレースができるかどうか。というのも同騎手、逃げで勝ったことがほとんどありませんでした。本人曰く「馬のペースを崩してまで逃げの手には出ない」とのこと。馬のペースが逃げのペースであればそのリズムを崩さずにレースができるというのが今回のレースでの大きい収穫になりました。まだ逃げのレパートリーが広い訳ではないですが、メヴィウスの逃げと小牧騎手の逃げ哲学が上手いこと合致したんだと思います。この日の新潟JSはレコードタイムが2回も出るという高速馬場でしたがタイムは3:32.3。二年前にレコードを出したときのタイム3:28.4と比べ4秒も遅いタイムとなり、黒岩メヴィウスと小牧メヴィウスの逃げの違いがここからもうかがえます。

 ともあれホッコーメヴィウスの勝因はマイペースに逃げれたこと。これに尽きると思います。

ニューツーリズムについて

 今回のレースの展開を握っていたのが「誰が最初にメヴィウスにちょっかいをかけに行くか」その有力とされていたのが去年早めにメヴィウスにプレッシャーをかけることで2着にすべりこんだニューツーリズム。実際、2角からホッコーメヴィウスからハナを奪う勢いでスパートをかけ始めました。去年は小野寺騎手騎乗で今年は伴騎手が騎乗となったニューツーリズム。位置を上げるタイミングは去年とさほど変わっておらず、「この馬の戦い方」をしてるなというイメージでした。ニューツーリズムはまず苦しむことになったのが向こう正面最初の障害でのミス。やや人馬で飛越のタイミングが合わず、せっかくスパートをかけていたのに再び下がってしまいました。ここからは伴騎手の意地で再び位置を上げていきましたがここで結構脚を使わせてしまったと思います。向こう正面でメヴィウスを捕らえることはできないと悟ってか一旦好位まで位置を下げ、最終障害後に勝負を持っていきますが(この判断は間違えてなかったと思います)メヴィウスと残していた脚が違いました。サペラヴィ戦と同様のスタミナ切れという形での負け方となった印象です。次に重賞に出るときはもう少し仕掛けるタイミングが後だと面白いかもしれません。

サペラヴィについて

 江田勇亮騎手の復帰戦でパトリック、ニューツーリズムを下すという劇的な勝利を見せたサペラヴィ。今回のレースでも有力候補として挙げられていました。サペラヴィが得意としていたのが向こう正面でハナを取り切りそのまま押し切る競馬。が、それが得意戦法だったサペラヴィにとっては最も嫌な展開になってしまいました。
 前を行くホッコーメヴィウスが楽なペースで言っていたためニューツーリズムと共に向こう正面で前をとらえようとするもなかなか捕まえられず、サペラヴィはここで下がってしまいます。おそらくニューツーリズムと同じく最終障害後での勝負を狙っていたと思いますが、向こう正面の時点でスタミナをまあまあ使ってしまったと考察。
 65キロを背負っていたケイティクレバーを楽に仕留められた前回と60キロでマイペースに逃げていたホッコーメヴィウスを捕まえたかった今回とでは全く手応えが違ったのでしょう。好調のホッコーメヴィウスが出ているレースとは相性が悪いと感じます。

サクセッション・パトリックについて

 2着に入ったサクセッション、3着に入ったパトリック。この二頭は仕掛けるタイミングを一番最後にもっていき、今回のレースがこれが正解であったと思います。パトリックは森騎手らしい、馬群の内から虎視眈々。サクセッションは4角で外にぶん回し加速を開始。どちらも作戦はことなりますが直線に勝負をもっていきたかったことが伝わります。この2頭にとってもホッコーメヴィウスのマイペースは予想外だったとは思いますがそれ以外の面ではそれぞれの力を出せる競馬だったと思います。
 なおサクセッションについては京都HJでの飛越ミスからやや慎重に運んでいた点、パトリックも初めて夏競馬へ挑戦することへの懸念があった点は抑えておく必要があり。ここから連続で続く中京重賞に出るのであればどちらも要注意の馬です。

その他、各馬について

人気上位5頭以外に特筆すべき馬はリレーションシップウインチェレステだと思います。
・リレーションシップ
 
平地の重賞出走経験もある平地力はメンバー抜群の馬。スタート直後は良い位置につけていましたが高田騎手が何かを察したのか馬のリズムに合わせて後ろへ下げていきます。その後馬なりで走り続け最後はサクセッションのさらに外をとり末脚に懸け、4着に滑り込みました。これだけ外を回されたのが若干影響。内から抜けれたのであれば馬券内もおかしくなかったと思います。置き障害ではもう次からは切れない存在です。固定障害は再び様子見かな…。

・ウインチェレステ
 
穴として個人的に推していたこの馬。が、サペラヴィ、ニューツーリズムと同じ罠にはまってしまった気がします。2角から積極的に上がっていったのは好印象。さらに3角でサペラヴィを呑み込めたのは悪くないですね。全体的に外を回されすぎた感はありますが、障害3走目で飛越も良くなってますし、また穴としてねらいたい馬ですね。

この2頭については中京重賞に出るなら拾いたい。他の馬についても軽く触れます。

・エンデュミオン
 まさかの清水厩舎二頭出し。小野寺騎手との初コンビ。元々前よりでの戦いが多い馬でしたが、今回は追走。3角で仕掛け始めるのはいかにも小野寺スタイル。今回は垂れてしまいましたが、このスタイルのレースもできるはず。小野寺騎手継続なら固定障害で差しで成果を残したいところ。小牧騎手乗り戻りならまた元に戻るかも。

・トライフォーリアル
 長距離固定障害が合うゴリゴリのスタミナタイプですが、最後まで脚を残したもの勝ちになったこのレースの展開がハマったのか最後まで先頭馬群に食らいつき6着と中々に健闘。
さすがに新潟JSは速すぎますが、東京HJとかならやれないこともないかもという印象。てかJG1でみたいよこの馬。

・サイード
 順回り置き障害の申し子。外枠でしたが最初の位置取りは悪くなかったと思います。個人的には向こう正面でもう少しレースに参加してほしかったところ。前がスパートを上げていってからは下がっていきました。枠によってはやりたいレースがあったのかもしれない…。

・ロンギングバース
 今回唯一メヴィウス以外にハナを主張した馬。ホッコーメヴィウスにいいように抑え込まれたのが全て。もう少しガッツを見せてハナを取りあってたら面白かったかもしれませんが中々リスクが高いので仕方ない…。ニューツーリズムやサペラヴィにとってはこの馬がいたのも痛かったですね。

・ダイシンクローバー
 
スタート直後からは良い位置につけていましたが、レースが動き始めるにつれ苦手なスピード勝負の展開に。やはりこの馬の持ち味はスタミナ勝負でしょう。うっかりJG2勝っちゃったから+1キロ背負うの大変だね。じゃあメヴィウスとジューンベロシティはなんなんですか。

・マイネルヴァッサー
 おじいちゃんにスピード勝負はきつかった!今回も無事に完走!今回はもうそれでいいよ。福島で会おう。(でもなあ、斤量がなあ)

総評

 このレースの総評ですが「ホッコーメヴィウス以外は前崩れのレース」だったと言えると思います。そしてメヴィウスについてはこの後の小倉SJ(中京)、阪神JS(中京)にも出ると思われます。よってメヴィウスが今回のコンディションで出てくる場合、最後の直線で勝負ができる馬を選ぶと良いのかもしれません。勿論、今回はロンギングバースしかメヴィウスに仕掛ける相手がいなかったので楽に逃げられたのは事実。他の同型との枠順の関係などを考慮しながら買い目を選ぶ必要があります。

2024新潟JS エトセトラ

 ここからはレースの振り返りにもならない、今回の新潟JSを取り巻く雑談です。

山本直アナについて

『さあ前王者か!現王者か!』
『もう拍手がやみません!』
『タガノエスプレッソが歴史を止めた!』
踏み切らない方ことラジオnikkei山本直アナ。障害レースにおいて上記のようなファンの心をつかんで離さない実況を残すご存じ罪な男です。
今回の直アナの実況で印象深かったのが2件。現地観戦レポートで示した二つです。

①『前は!小牧加矢太!そして!伴啓太の追い比べ!』
 これはやばい
。劇薬。障害レースを追っている人ほど響く実況ではないでしょうか。元々直アナは普段から騎手名を言う傾向にありますが、このタイミングでこの二人の名前を叫ぶことで「初重賞に向けた最後の直線」というドラマをターフにもたらしてしまう訳です。馬券的にもメヴィウスニューツーで決まってくれたらオッズ高かったので手に汗握る実況でしたね。まあ現地ではあんまり聞こえてなかったけど。

小 牧 加 矢 太 で す ! 
 濁音でも半濁音でもない何かがついてるぞこの実況。ゴール直後に放った言葉。デビュー年から絶好調だったゴールドルーキーの初重賞ということで何か洒落たこと言おうと思えば言えたはずです。が、別にそんなんいらないんよ。もうあのゴールの瞬間に「おお!加矢太ついに勝ったか!親父の門出に向けていいレースしたなあ。これから障害界引っ張て行けよ!」みたいな長い思考できました?「か゛や゛た゛お゛め゛て゛と゛う゛」ぐらいしか思わなかったですよ私は。だからあの叫びは直アナの心からの祝福なのかなと思います。思わせてくれ。

ジロー戦は伏線だったのか?

 この新潟JSの前週に行われた福島1Rで小牧騎手の騎乗するジローが逃げて勝ちました。それまで小牧騎手は逃げのイメージが無いと思われていたさなかでの出来事だったので巷では「翌週に向けた予習なのでは?」という謎のうわさが流れていました。
 これを伏線というのは苦しい気がしますが今回のレースと合わせて「小牧騎手は馬のペースに合わせた逃げしかしない」ということが分かるレースだったと思います。ただジローも前傾姿勢満々だったので逃げへの意識は強かったのかなと。これから小牧騎手が積極的に逃げの手で結果をだしていけば障害リーディングは夢ではない…。にしてもあまりにもタイミングが良すぎて面白かった。

伴騎手は重賞を勝てるのか?

 今回小牧騎手に重賞制覇を抜かされてしまった美浦のホープ伴騎手。最近の伴騎手は逃げまたは追い込みといった極端な競馬で成果を出してる気がします。白浜ポジション? ちょっとお手馬の離脱が相次いでおり苦しい時期にはありますが、この極端な競馬が得意な馬に出会えればきっと届くはず。あと今回のレースをみて思ったのがレース展開に応じた作戦の微調整については伴騎手にはぜひ取り組んでほしいところ。次のニューツーリズムの騎乗で少し戦法を変えてくるかが注目です!美浦の厩舎関係者は是非ともこの騎手にいい馬回してあげてください(誰目線?)

 え?大江原騎手?ビレッジイーグルでJG1じゃあああ!

清水厩舎と小牧騎手について

 今回の小牧メヴィウスが実現した要因として今年に入ってからの清水ー小牧ラインの強化が挙げられます。そのきっかけとなった二頭がエンデュミオンロードスパイラル
 まずエンデュミオンについては主戦の難波騎手の離脱により代替騎手を立てる必要がありました。(水沼騎手は緊急代打でかつ美浦所属なので継続依頼は難しかったと推測。ちなみにスマホ事件の前の話です。)そこで依頼が来たのが小牧騎手。まず1月のOP戦で3着、続く3月のOP戦で1着と確実に成果を出すことができました。
 ロードスパイラルは障害試験から騎乗。一度試験不合格になるものの、なんとか合格。6月の東京のレースで頭角を現し、7月の小倉のレースで勝ちあがりに成功。
 2023年までにはマイネルレオーネの一回しか騎乗依頼がありませんでしたが、今年に入って清水厩舎の馬で成果を出す事例が2件。その結果が今回の依頼につながったと考えております。障害競走においては厩舎と騎手の相性も重要なファクター。今後もこのコンビには注目です。

井上メヴィウスについて

 今回のホッコーメヴィウスの叩きのレースになったのが東京ジャンプステークス。周知のように井上騎手が初騎乗し、2個目の障害で落馬しカラ馬の状態で、先頭でゴール板前通過しちゃったあれです。今回の小牧騎手の活躍により井上騎手がチャンスを活かしきれなかったように映りますが、それは仕方ないと思います。井上騎手にとってはかなり酷な依頼ではありました。二人の差は明白でした。だからこそ井上騎手にはこの経験を今一度踏まえ自身のスタイルについて修正を加えてほしいところ。小牧騎手から学べることも多いと思います。ガッツあふれる今の騎乗スタイルは絶やさないでほしいのですが、それと同時に気持ちを落ち着かせた騎乗ができるようになればいいキャリアが積める騎手だと思います。ぜひホッコーメヴィウスで味わった苦悩を無駄にしないでほしい。まあ無駄にしない騎手であることは知ってますが。

おわりに 止まっていた時計

 実は私は2022年からホッコーメヴィウスを追い始めたニワカであります。だから2021年の善戦マン時代の記憶はすべて追体験によるものです。好きな馬ができる理由って馬券が当たった時だったり、強い馬がなんとなく好きになったりするところからという人が多いと思うのですが、私がホッコーメヴィウスが好きになったきっかけは2022年の無双なんです。特に新潟JSからの阪神JSで障害で逃げるそのテクニックに感動し、東京HJでは単勝を握りしめゼノヴァースに負け、そのレースですら「完璧でないからこそ応援したい!」という気持ちが強くなってました。その後の京都JSは追いつかれながらも最後は大きく後続を引き離すホッコーメヴィウス最高のレースともいえる走りを見せ、「この馬を年末に見たい!」「オジュウチョウサンと大障害で戦う姿が見たい!」「それを他の誰かと共有したい!」と思い、京都JS終了後すぐに、初めて競馬の応援アカウントを作りました。

 しかしその後7カ月は音沙汰もなく、大障害でのオジュウチョウサンとの直接対決は見れませんでした。

 2022年まで現地でホッコーメヴィウスを見たことが無かった私。SNSに優勝レイをかけたメヴィウスの写真を一切載せてなかったのはそのためです。次に出るレースは絶対に現地で応援すると心に決めてました。そして2023年の6月、東京JSに出るという吉報が!すぐに夜行バスをとり現地観戦!がそこにはハナを取り切れず後方でずるずると走り続けるホッコーメヴィウス。しかも入線後下馬。モニター越しに応援していたヒーローがいなかった。ショックを受けて帰った日。
新潟JSは逃げを見せてくれ少しうれしくなりましたが小倉SJではちぐはぐな競馬でもう勝利は見れないのかなと思いました。

 2023年阪神JS。黒岩騎手から平沢騎手のシフトチェンジ。そして馬体重増と毛艶のいいパドックから「もしかしたら…」と思った私はホッコーメヴィウスの単勝一点を買い応援。阪神競馬場で観戦してました。そこでモニター越しで見ていた"あの逃げ"を初めて瞳孔に映してくれました。最後はジューンベロシティに差されてしましたが自分が信じていたものが偽りでなかったと分かった瞬間です。続く東京HJはテレビ越しの観戦。最後の直線に希望を持ちましたがマイネルグロンにやられてしまいました。

 三段跳びの練習をしていたのに11月に放牧。そしてもう一度姿を見せてくれたのが今年の東京JS。井上騎手に不安を感じつつ、もしかしたらがある騎手なので応援馬券を買ったものの、一番見たくなかった姿を見る羽目に。障害重賞でウィナーズサークルを見る前に帰ってしまったのはこれが初めて。

 それでも優勝レイをかけたホッコーメヴィウスを見たかった。小牧騎手に乗り替わるという情報を聴き、新潟JSに望みをかけます。そして、直線。もう呆然としていたというか、現実感がわかなかった。あの画面越しのヒーローが自分の目の前でゴール板を通過した。優勝レイをかけたホッコーメヴィウスとようやく会えた。ウィナーズサークルに君がいる。

 1年8カ月。もう色んなことがありました。素晴らしい障害レースがたくさんありました。ホッコーメヴィウスの周りについては黒岩さんも平沢さんも乗らなくなってしまった。ゼノヴァースもスマートアペックスも、ロードアクアもフォッサマグナもいなくなってしまった。SNSでは私のおかげでホッコーメヴィウスを好きになったという声も届いたし、私を見つけてグッズを渡してくださる方もいました。

 確かに時計の針は進んでいたけど一つの時計だけはずっと止まったままだった。やっとそれが動いた。2022年に応援し始めたときの感情がよみがえった。たくさんの「おめでとうございます」リプをもらったし、リア友からも祝福の声が届きました。その言葉を私に使うのはもったいない気がしたのですが、これもメヴィウスがつないでくれた縁と思いありがたく噛みしめています。

 本来競馬において、信仰を持つとあまりよろしくないことは分かっているのですが、ホッコーメヴィウスは私にとって競馬哲学の根底に関わる存在。多分永遠に突き刺さって抜けることはないと思います。走馬灯のような話になってしまいましたが、今回動き出した時計はまだまだ動き続けます。その時計が役目を終えた時、もっと多くのことを語りたいと思っています。
最高のレースでした。

ありがとう、小牧加矢太騎手。
ありがとう、ホッコーメヴィウス。


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