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マイクロノベル集 346「誰かに聞かされた話」

マイクロノベルNo.1885
「空から魚が降ってくるとは、珍しいことがあるもんだ。そう思っているな? 太古の昔、この山は海だったのだ。この断崖絶壁は海の生物でできているのだ。儂が釣り糸を垂らせば、かつての姿を取り戻す。これはもらっていくぞ」魚は鉄砲水に呑まれて消えた。


マイクロノベルNo.1886
スマホから聞こえた声に怯む。「いま、どこにいる」着信音は鳴らなかった。「遠いな。使いを出す」ケーン。遠くから甲高くて澄んだ狐の声。ぼくは新幹線に乗って、春から通う大学がある地方に向かう。友人も、バイトも、綺麗な下宿も、スムーズに手に入れた。


マイクロノベルNo.1887
今から私が話すことは想像力を働かせて聞きなさい。聞いたら家に帰るのよ。夜道を照らす車のライトは、ふんわりと尾を引いているでしょう。体から抜け出した魂にそっくりよね。尾が繋がる先に、あなたが帰るべき場所はある。前ではなく、後ろにあるのよ。




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