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きょうだい・ヤングケアラーにまつわるQ&A

きょうだいってどんな思いを抱えて生活しているのだろう?
どうしたらもっときょうだいは生きやすくなるだろう?

ふとしたときに浮かぶ素朴な疑問をひとつひとつ嚙み砕いてみました。

1.きょうだい・ヤングケアラーが感じていること

■どうして「ヤングケアラー」になってしまうのだろう?

たとえば、家族の誰かが風邪を引いたらケアするように、子どもであっても困りごとや問題を抱えている家族に対してサポート(手伝い)をすることはごく自然なことだと思います。

それが障害や病気など慢性的に続く問題となれば、ケアをすることが常態化し、結果としてヤングケアラーになる、という形に位置付けられてしまう可能性があります。家族の病気や障害は、家庭内の緊急事態であることから、子ども自身にとっても、ヤングケアラーになりたくてなるのではなく、ならざるを得ない状況の中でなった、というケースが多いと考えられます。

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■子どもたちが、自分がヤングケアラーだと気付かないのはどうして?

ケアをすることが当たり前(日常生活の一部)、として認識していることが一因として挙げられます。
また、家族の介護に日々追われる中で、自分自身のことについて考える精神的な余裕がないことも理由のひとつでしょう。
大人になって家庭から離れたり、距離を置いたりして、自分の置かれた状況を整理できるようになった段階で、初めて「自分はヤングケアラーだったんだな。」と気付くケースが多いです。

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■「ケア」を取り除けば、ヤングケアラーは生活しやすくなるのかな?

そもそも、ヤングケアラーが社会問題となる背景には、病気・障害の方が自立して生きにくい社会であるという ”社会制度的課題” と、家族のことは家族が責任を負わなければならないという "慣習的課題" が存在しています。

それらが絡みあうことで、家族が病気・障害のある方にかかりっきりになってしまい、ヤングケアラーとなってしまった子ども自身が、まだ甘やかしてもらったり庇護されるべき存在なのに、家族がそれに応えてあげられないという、子ども自身の成長にとって見過ごせない問題が大前提にあります。

加えて、ヤングケアラーである子どもが、障害のある家族やストレスを抱えた親から虐待(暴言・暴力・性被害)を受けたり、学校・社会でいじめや差別を受けるなど、社会からの攻撃を受けているというケースもあります。 このような状況下においても、ヤングケアラーである子どもは家族の大変さをよく知っているため、「これ以上家族に負担はかけられない」と、家庭のことが原因で傷ついたとしても、口外することなく、我慢をしてしまいます

その上で、子どもが背負うには重すぎる役割(介護や過度な気遣い、家族機能を維持する為の役割等)まで担っているという状況が発生しており、  問題はケアを担っているかどうかだけではないと感じています。

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■子どもがケアを担っていなくても問題は発生するの?どんな問題が発生するの?

 この疑問こそ、きょうだいやヤングケアラーが抱える問題の核心かもしれません。具体的には、次のような問題が挙げられます。

◆子どもとして成長に必要なケアが受けられない

・ケアを必要とする人や家族に気を遣いながら日常生活を送っている傾向 が強いため、本来自分に目が向けられてもいい場面でも、周囲の人の目は、ケアを担う子どもにまで充分に行き届かず、誰にも相談できないうちに孤立感や孤独感を強めてしまいます
(例:テストでいい点を取ったから報告し、喜びを共感してもらいたいのに、周囲はケアに手一杯だから話すことができなかった。次第に、「家族にとっては、自分のことなんてどうでもいいんだな…」と感じるようになり、勉強のやる気がなくなった。)

・ケアの対象者は周囲から温かい目で承認や肯定を受ける一方で、ケアに当たる子どもは頑張っても周囲から出来て当たり前と捉えられてしまいがちです。自分を肯定される経験が少ないまま、ケアを必要とする人を肯定していく役割を持つことで、ヤングケアラーの自己肯定感は低下していく傾向があります。

・家庭がケアを必要とする家族中心の生活となるため、家庭が機能不全に陥りやすくなります。アルコール依存症の親の元で育った子どもによく見られる、 "アダルトチルドレン" の特徴を示しやすいという指摘もあります。
(例:本来行う必要のないケアを担い、周囲から褒められる経験が積み重なることで、ケアをすることでしか自分は認められないと誤認してしまう。)

◆周囲からの攻撃・差別

・社会からの攻撃を受けやすい傾向にあります。いじめを受ける率が一般の子どもに比べて高いです。
(例:ケアが必要な家族のことでからかわれる。知的障害のあるきょうだいが万引きをしてしまい、それについて近隣や友達から冷たい眼差しを向けられたり、責められたりする。ケアに手一杯で勉強する時間が無いため、成績が下がり周囲から馬鹿にされる。)

◆将来への影響

・子どもの頃に誰にも目を向けてもらえなかった経験や、自分の存在意義を見失ってしまうこと等の結果として、たとえケアから解放されたとしても、自分に自信が持てなかったり、生きづらさを感じたりするなど、心理的・精神的な部分に影響が残ります。

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■ヤングケアラーの報道番組を見ると、色んな人が辛い経験を話してくれているけれど、ヤングケアラーは、みんなあんなに大変そうなのかな?

テレビなどの報道では、「ヤングケアラー」の定義を踏まえ、ケアそのものや、ケアに対する相談など、目に見える形での支援が必要だという形の番組が多いように感じます。

先ほども述べたとおり、「子どもがケアを担っているかどうか」は、家族にケアを必要とする人がいる場合に起こる問題の氷山の一角であり、ヤングケアラーやきょうだいは、ケアに対する直接的な支援(手助け)はもちろんですが、ケアの軽重に関わらず、ケアラー自身に目を向けてほしいという感情的な支援を最優先に求めています。

また、ヤングケアラーと言っても、介護や障害など様々なケースがあり、ケアの度合いもそれぞれです。しかし、現在は、ヤングケアラーの定義が先行してしまっているため、社会的に定義されているヤングケアラーと、ケアラー自身が想定するヤングケアラー像にギャップが生まれています

実際には、子ども時代に重い負担を課せられていても、自分がいわゆる「ヤングケアラー」に当てはまるかどうか分からない、と感じている元ヤングケアラーも多くいるのではないかと思います。

この、社会的定義と実情とのギャップについても、現時点ではまだ十分な認知がされていないように思います。

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2.行政支援について

■ヤングケアラーについて、国や自治体(行政機関)はどう思っているのだろう?

<国の動向>
中高生を対象にした、実態調査(「ヤングケアラーの実態調査に関する研究」)を受けて、プロジェクトチームが立ち上げられ、2021年5月に報告が出されました。
今後、ヤングケアラーの支援に向けた取組が期待されています。

【参考】
〇ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/young-carer-pt.html
〇令和2年度ヤングケアラーの実態調査に関する研究
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2021/04/koukai_210412_7.pdf

<自治体の動向>
埼玉県では「埼玉県ケアラー支援条例」が制定されるほか、神戸市ではヤングケアラーの専門部署が設置されました。
 国の支援策を受けて、今後自治体においても取組が進められると思います。

【参考】
〇埼玉県ケアラー支援条例
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0609/chiikihoukatukea/jourei.html
〇神戸市:こども・若者ケアラーの方の相談窓口
https://www.city.kobe.lg.jp/a06448/kodomowakamono_carer.html

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■国や自治体(行政機関)から支援を得られるとしたら、どんなことをしてもらいたい?

◆教育・医療・福祉・行政機関への意識啓発
ヤングケアラー支援についての意識啓発が必要だと思います。
その上で、どのような視点で介入していくことが求められるか、どのような支援展開が望ましいのか、各機関が何を担うのか、まずは理解していく必要があると思います。

◆教育機関における環境整備
各校にヤングケアラー支援について精通しているスクールソーシャルワーカー等を配置し、現場レベルで正しく問題に向き合える体制づくりも必要です。

◆子ども達への支援について
まずは、何より相談をする場を提供することが必要です。SNSをはじめ、秘密裏に安心して相談ができる、敷居の低い相談窓口である必要があると思っています。

専門職の方からは、子どもの発達段階に合わせて、障害種や病気について知るための教育や情報提供を施すことが求められます。

また、ヤングケアラー自身が一人の子どもであることを鑑みると、ケアラーとしての悩みに限定せず、趣味や学校生活のことなど広く話を聞くことで、自分自身に目を向けてあげるきっかけを作ってあげることも、支援の一環として必要であると感じています。

「子どもがケアを担っていなくても問題は発生するの?どんな問題が発生するの?」に記載した、想定される具体的な課題を解消するためには、このように幅広い視点での支援が必要であると考えています。

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■ヤングケアラーが国や自治体の相談窓口へ行くことは難しいのかな?

そもそもヤングケアラーが社会問題として認識されていなかったため、自分が助けを必要とする存在だとは認識しておらず、相談をするという概念がありませんでした。また、子どもが自分で行政機関に相談に行く、というのは大変高いハードルであるということは想像に難くありません。

加えて、相談機関側にも、”ヤングケアラーに支援が必要” という認識はありませんでした。それどころか、 ”ヤングケアラーは家族を支えるために有用な社会資源" として扱われてきました。相談先に問題意識がない中で、窓口に子ども達が自分でたどり着くことはないと思います。

また、ヤングケアラーは一次介護者ではないことが多いため、直接的な相談がしづらいことや、ケアに関することは家庭の問題であるため、隠しておきたい・秘密にしておきたいという気持ちもあるかと思います。

ヤングケアラーに対して先進的な取り組みをしているイギリスにおいても、行政窓口につながっている子どもは20%に満たないというデータもあり、大人が積極的にヤングケアラーを見つけていく取組が必要です。

【参考】
〇ヤングケアラーリサーチグループ(ラフバラー大学)
https://www.lboro.ac.uk/microsites/socialsciences/ycrg/downloadable_publications.html

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3.当事者同士の支援について

■きょうだい会@Nagoyaのような当事者同士の支援はいつ頃から始まったの?

日本では1960年代にきょうだいの集まりが始まっています。当時は、障害者への差別・偏見をなくし、きょうだいが障害者を支えていくこと目的としていました。

現在のように、きょうだいやヤングケアラーが自分自身の主体性を取り戻そうという動きが出てきたのは1990年 代以降であり、社会問題として大きく取り上げられるようになったのはここ数年です。

きょうだい会@Nagoyaは2019年4月に立ち上げられました。ヤングケアラーやきょうだいとして、似たような経験をしてきたり、似たような思いを持っている人たちが集まりに参加しています。会を通して、ケアをする中で悩んでいたことなどを感覚的に受容できることが、近年、こういった活動の活発化につながっているのではないでしょうか。

【各地のきょうだい支援についてはこちら(https://sibkoto.org/siblings)】

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■きょうだい会@Nagoyaには18歳未満のヤングケアラーも参加しているの?

きょうだい会@Nagoyaは、18歳以上を対象とした大人のきょうだい会です。参加者は、障害のある兄弟姉妹がいる(いた)ため、いわゆる「ヤングケアラー」が大人になった人たちの集まりです。

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■きょうだい会@Nagoyaは、きょうだいにとってどんな場所なんだろう?

ここで思いを共有することで、みなさんの心が軽くなればと願っています。

きょうだいにとって病気・障害のある方との生活は一生続くものであり、ここで話したからといって、すぐに答えが出るとは言えないでしょう。ですが、一緒に考えたり悩んだりしていければと思っています。

また、1つ課題が解決したとしても、年齢に応じてまた別の課題が出てくるかもしれません。そのため、きょうだいのみなさんがいつでも来られる場所として、継続して活動していきたいと思っています。

なお、参加された方達が書いてくださった感想はこちらで公開しています。
https://note.com/nagoyakyoudai


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