我が家のサンタは都市伝説となった
「ねぇ、サンタさんってお父さんとお母さんなの?」
柔らかな西日が差し込む窓際で洗濯物を畳んでいた私に向かって、三男が不意に聞いた。
「今日、友達にサンタさんはお父さんとお母さんなんだよって言われたんだけど、本当なの?」
「えっと…」
こういう質問を急にするのはやめて欲しい。
もっと小さければ「そんな訳ないじゃん!」と笑い飛ばせるし、逆にもう少し大きければ「バレちゃったか!」とカミングアウトできるのに、『そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれない』と疑っている小3息子に即答する術を持っていない私は、広げたパンツを両手で持ったまま固まった。
「うーん、どうかなぁ」
パンツを畳むフリをして視線を外す。しかしそんな親の気持ちなど知る由もない三男は、さらに直球で攻めてくる。
「サンタさんは、お母さんなの?」
「それは…違うかなぁ」
私は選ぶだけで注文はしない。
「じゃあ、お父さんなの?」
「そうとも…限らないかなぁ」
夫は最安値を探してポチるだけ。
「えー、じゃあどういうコト?」
それはこっちが聞きたい。
どう答えたらいいんだろう。
私は次の洗濯物に手を伸ばし、どうやってこの窮地を乗り越えようかと頭をフル回転させて考えた。
思えば長男も次男もサンタの正体について問いただすことはなかった。
高学年になる頃には気付いているなと感じていたが、親に聞いたらプレゼントがもらえなくなるかもしれないという不安からなのか、まだ幼い三男の夢をぶち壊したくないという優しさなのか、二人とも素知らぬ顔で毎年サンタに手紙を書き、クリスマスの朝にはツリーの下に置かれたプレゼントを嬉しそうに開けていた。
だから私が「中学生になったらサンタさんはもう来ない」という親の横暴でしかないルールを突きつけた時も、二人は「わかった」と頷いて文句も言わなかった。
そうやって兄達はなんとなくこっち側にきてしまったから、三男も自然に理解していくのだろうと思っていたのに、まだ精神年齢が追いついていない状態で「サンタさんはお父さんとお母さんなんだよ」と聞かされて動揺した三男は、そのピュアな心のまま私に真意を問いただした。
正直、困った。
兄達の経験からすっかり油断していた私は、サンタの正体は誰ぞやと聞かれた場合のシュミレーションなどしていない。
サンタさんはいるよと言っても嘘だと疑いそうだし、お父さんとお母さんだよと言ってもがっかりさせそうだ。そもそも大きな目で見つめてくる三男に向かって、サンタの国が実は◯mazonや◯ドバシカメラの倉庫で、プレゼントはトナカイではなくクロネコや飛脚が描かれたトラックが運んでくるなど伝えれるはずもない。
どうにかふんわり答えたい。
絞り出せ、私。
「それはさぁ…あんたが信じるかどうかじゃない?」
「それって信じるか信じないかはあなた次第ってコト??」
いやそれはあのやりすぎな番組のお決まりの台詞じゃないかと心の中で突っ込みながら「そういうコト」と答えると、三男は黒目をぐるりと一周させてからニコッと笑った。
「じゃあさ、クリスマスツリーだそうよ!」
「えっ?今から?」
「うん、サンタさんにお手紙書く」
どうやら信じるコトにしたらしい。それは喜ばしい。苦肉の策に絞り出したふんわり回答は間違ってなかったようだ。
「いいけど…」
しかし、私にはもうひとつ気がかりなことがあった。
「でもさ、プレゼント考えないと」
「あっ、そっか。課金はダメだもんね!」
つい先日、サンタさんに課金をお願いするという三男に「サンタが泣くからやめろ」と眉を顰めたばかりだった。さすがに三男もそのことを思い出してバツが悪そうな顔をしている。
「12月になったらツリーだそうね。僕、プレゼント決めとくね」
「うん、分かった」
こうして我が家のサンタは都市伝説となり、三男の課金の願いは消えた。でも、スッキリした顔の三男を見ていると、まだあと数年、サンタがやってくるかどうかのワクワクを一緒に楽しめるのを嬉しく思う。
サンタを信じるか信じないかはあなた次第
かな。
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