見出し画像

そこにプライドはないのかい?

『落ちちゃった』
『県は出れるけど、審査されないやつ』

長男から立て続けに届いたラインを見て、私はやはりダメだったかと残念さを感じつつも『よくやった』と思った。


軽音部でバンドを組んでいる高1長男は、少し前に初めて大会にエントリーした。予選はスマホで撮影した動画審査が行われ、次に審査員の前で演奏するライブ審査が行われる。

前回の記事では詳しく理解してなかった(というか聞いていなかった)のだが、動画審査で50組に絞られ、さらにライブ審査で選ばれた25組が本選である県大会に進めるようだ。

そのライブ審査で予選落ちした。

しかし元々軽音楽部を広めるという趣旨で行われている大会は、本選に進めるのは1校につき1組と決められている。そして出場校が25校を下回る場合、審査はされないが本選のステージで演奏を披露できるシステムがある。

そして今回、出場した高校は19校。予選落ちした中から6組がステージに立てるチャンスがある。

長男がドラムを担当するバンドはその6組に選ばれた。
それはとてもすごい事だと思う。

本選に選ばれた先輩は、前回地区大会にも出場したバンドだ。県内でも軽音部が活発に活動している高校で、そんなすごい先輩達もいる中で、結成してまだ半年のバンドが、審査はされなくてもその舞台に立てるなんて親としては鼻高々で嬉しい。

だから長男からラインが届いた時、『じゅーぶん、すごい!次はイケる!』と返したのに既読スルーされた。

あれ?間違った??

返事が来ないことでやっとテンションの差に気付いた私。

そして実際、帰ってきた長男は明らかに凹んでいた。

そんなに落ち込む…?

長男はどちらかというと悔しさを怒りで表現するタイプだ。普段なら「なんで枠があるのに落ちるんだよ!実力で判断してくれよ!!」と怒り狂っているだろう。

それが喋らない。ダンマリ。

私が「本選の雰囲気を経験できるのは良かったやん」と言っても「まぁそうだね」と気の無い返事をして終わり。

これはあかん。マジなやつ。

確かにライブ審査には手応えを感じているようだった。「審査員にめっちゃボーカルが褒められてたし、多分いけるって言ってくれる人もいてさぁ」と嬉しそうに話していた。

「あとは先輩に勝てるかどうかだけなんだよね」

メンバー全員で全力を尽くした演奏は、少し前まで憧れを抱いていた先輩達に全く勝算がない訳ではなかったのだろう。いけるかもしれないという期待は、いきたいという願望に変わり、それでもやはり手が届かずにあっという間に霧となって消えた。

その気持ちをどう処理するか。
それは本人達の問題だ。親は見守るしかない。

私は大会についてはこれ以上触れず、夫にも箝口令かんこうれいを敷いてしばらく様子を見ることにした。



「もっとドラムが上手くなりたい」

数日後、唐突に長男が喋り出した。

「テスト終わったらさ、メンバーとスタジオ借りてもっと練習しようかって言ってるんだよね」

「そうなんや、ええやん」

「うん、やっぱ悔しくてさ。ずっと落ち込んでたんだけど、みんなプライド高いから、次は絶対勝ちたいよねってなって」

「惜しかったもんな」

「そうなんだよ。先輩だけなんだよ。そこに勝てれば地区大会もいけると思うんだよね」

「うん」

「だからテスト終わったら2曲同時に練習して、オリジナル曲を作って、スタジオも借りて、本気でやろうかって気合い入ってて」

そうか、すごいな。
でもなんか引っかかるのは、なんだ?

「練習するしかないから。目標は地区大会だからさ、テスト終わったら始めないと間に合わないから」

まぁ、特にドラムは家で練習が難しいし。
しかし、さっきから気になるフレーズが…?

「マジでテスト終わったらやらんと。本当は1校につき1組しか選ばれないシステムを廃止して欲しいけど、でもやっぱり先輩に勝ちたいしさ」

そうやね、先輩達が引退するまで待ってられないってことやね。
だけど、どうも聞き捨てならない言葉がずっと混じってないか??

「だから、早くテスト終わって欲しいんだよね」

それや!!!

「それはいいけど、テストも本気でやらなあかんで」

「え?」

え?じゃない。現実に戻れ。

「お母さん、三者面談は嫌やで」

来月に行われる個人懇談は、成績が芳しくない子は強制的に三者面談になるらしい。今までなんとか赤点を回避しているとはいえ、自ら笑いのネタにしている成績で、さらに週一程度の遅刻が常習化している長男は、多分、いやきっと目をつけられているに違いない。

「テストもプライドを持って挑んで頂きたいんですが」

「あぁ、そうだね。そうだった。はい…がんばります」

歯切れ悪いな。さっきの勢いはどこいった?

そそくさと二階に逃げてく背中を見ながら、でもまぁいつもの長男に戻って良かったと思った。


そして今週、毎日「ヤバイ、ヤバイ」と言いながらテストを受けている。こっそり覗いたインスタのストーリーには『三者面談だけはマジ勘弁!!』と書かれていて、それはこっちのセリフだと思いながら笑った。

テストもバンドも本気で頑張れ。
どっちもプライドだけは忘れずに、ね。



#ドラムスコ応援日記


この記事が参加している募集

部活の思い出

子どもの成長記録

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?