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気になる人、気にしない人 : そういえば、私は乳がんだった①

私は38歳の時に乳がんの手術をしました。

その1年前、左胸の中にぶよぶよした塊があるのに気付きましたが、母乳の名残がまだ残っているのかなと思い、それほど気にしてはいませんでした。しかし、それが少しづつ大きくなってきた気がして、ネットでしこりについて調べてみる事にしました。

ネット情報では、乳がんのしこりは硬く動かないと書いてあるものが多く、胸の中に小さい水風船が入っていて、掴もうとするとスルッと逃げていくその塊は、なんか違うかも?という感じでした。

きっとこれは良性なんだ。まぁ良性ならいっか、そう思いました。

その年、私は介護福祉士の資格を取る為、何十年ぶりに勉強を始めたところで、とりあえず受かって、今の職場からステップアップする、それだけを考えていました。だから、そのぶよぶよのしこりも気にはなるものの、あまり考えないようにしていました。

介護職はやりがいもあるし好きですが、とにかく人手不足で時間に追われ、体力も使います。パートだった私は、介護福祉士の受験資格を得る為に、それまでより出勤日数を増やし、子供たちが寝てから勉強する毎日で、疲れがたまる一方でした。

でも、テストが終われば解放される。そう思って踏ん張っていました。

今、思い返すとそれはただの逃げで、ちらりと頭の隅に浮かぶ、乳がんかも、、という可能性に触れない為の頑張りだったのかもしれません。

忙しい事を理由に、ネットで良性と書いてある事に安堵し、疲れが取れないのは寝不足のせいだと思い込み、私は誰にも相談せず、ましてや病院になど行く事も考えずに日々を過ごしていました。


そうして数ヶ月後、私は無事に介護福祉士の試験に合格したのを機に、デイサービスから特養へ職場を変わる事にしました。その頃には、しこりは以前より大きくなっていて、手を広げて包み込むと、軽く掴めるくらいになっていました。

さすがに不安を感じて病院に行った方かいいのか悩みながらも、面接が終わるまでは、、採用が決まるまでは、、最終勤務を終えるまでは、、私はまた何かと理由をつけて、先延ばしにしていたのです。


デイサービスの最終勤務の日、いろんなスタッフに挨拶する中、助産婦の資格も持つ看護スタッフに、思い切って聞いてみました。

「左胸の中に柔らかいしこりがあるんだけど、病院行った方がいいかな?あと2年で乳がん検診の対象になるから、それまで様子見てもいいかな?」

看護スタッフは大きな目をさらに大きく見開いて、

「気になるならすぐに病院に行った方がいいですよ、診る方は気にならないので。何もなければ、それでいいじゃないですか。」

そう言ってくれました。

そっか、、診る方は気にならないんだ。

多分良性なのに大騒ぎして恥ずかしいとか、無駄な診察を受けて申し訳ないとか、そういう事は考えなくていいんだ。シンプルに気になるからきました、それでいいんだと思うと、行ってみようかなと思う気持ちが大きくなってきました。

すると近くにいた別のスタッフも、行くならあそこの病院の先生がいいから!と教えてくれたり、病院に行くのが大したことではないと背中を押してくれて、私は「ありがとうございます。行ってみます。」と言って、晴れやかにデイサービスでの勤務を終えました。

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翌日からすぐ特養勤務となり、さらにGWに入ってしまった事もあり、結局病院に行ったのは、しばらく経ってからになってしまいましたが、、。

最終勤務の日に教えてもらった病院に行くと、乳腺外来の先生は、穏やかに話す優しそうな男性で、触診が終わると「今から時間ありますか?」と聞かれました。時間があれば、すぐにマンモグラフィーとエコーをして診てみましょう、と。

その日、三男の保育参観を見てから病院に向かったので、診察を受けたのは11時を過ぎていました。こんな時間から予約もなしにすぐに検査をしてもらえるとは思っていなかったので、その提案にはとてもびっくりしましたが、その先生のフットワークは軽く、大丈夫です、と答えると自ら検査室に電話をし、では待合室でお待ちくださいと言われ、初めてのマンモグラフィーも乳房のエコーも、何も心の準備がないまますぐに行われました。

「失礼します。」

色白の華奢な女性の技師さんは、私のペラペラの胸を背中からお肉をググッと引き寄せて機械に挟みます。自分の胸がこんなに平べったくなるなんて想像した事がないので、「痛みがあったら言って下さいね。」と言われたものの、痛みより驚きの方が強くて、左右の胸が挟まれるたびに、こんなぺちゃんこになるの!?と感心しながら検査を受けました。

その後のエコーも終わり、先生がざっと検査結果を確認して、「パッと見たところ、悪性っぽくは無いけど、、まだ時間があるなら、もう一つ検査してもいいですか?」そう、言われました。

もう、ここまできたら全て終わらせたい。「大丈夫です、お願いします。」と言って、次の検査を行う事になりました。

それは胸のしこりに直接針を刺して、中の組織を採取し調べるというものでした。

「ちょっと痛いけどごめんね。」

そう言って先生はブスッと私の左胸に針を突き刺します。採取が終わると、看護師さんが出血が治るまで傷口を押さえてくれながらたわいない話をし、最後に絆創膏をペタッと貼って、その日の診察が終わりました。

診察が終わったのは13時半くらいだったと思います。あれよあれよと1日で3つの検査を行った私の心はスッキリしていて、笑顔でお礼を言い、足取り軽く病院を後にしました。

こんなにスッキリするなら、もっと早くこれば良かったな。

なかなか踏み出せなかった一歩をやっと進むことができた。みんなが言っていた通り、病院に行くことって大したことではなかった。私はその日、子供のように自分自身の行動に満足し、満たされた気持ちになりました。

つづく。








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