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情熱なんて暑苦しさは持ったこともない

最近、どうにも筆が進まない。

こんな書き出しをするとどこかの文豪の大先生が遅々として進まぬ原稿用紙に向かって頭を抱えている言い訳のように思えてくる。何ともイメージが昭和だ。
そんな勝手なイメージにさえ謝りたくなるくらい、自分は文豪でも、なんなら文筆家でもない。ちょっと定期的に、ちょっと自分の専門分野に関わる記事を、ちょっとこれ見よがしに書いてみているだけだ。そんな自分が「筆が進まない」なんてどれだけ偉そうなんだ。

「筆が進まない」という表現は、実は間違いだ。正直に言えば、書きたい言葉が見つからないだけだ。
そもそも書きたいことが無いから、筆が進まない。進むはずがない。至って当然のことに悩んでいる。

世の中、何が難しいと言って継続することほど難しいことはない。
今回のような書くことにしたってそうだ。たったの週1回のことでさえ、しょっちゅう書くことがなくて困っている。この艱難辛苦を毎回毎回乗り越えて継続することは、それこそ一度きりのものすごく面倒くさい問題を乗り越えるよりもよっぽど大変だ。これだけ大変なことをやり遂げるのだから、それは成果も上がるだろうよ、と思わざるを得ない。

そんなこんなで継続をしていくために大事なことは、情熱を持つことだそうだ。
火傷するほど熱い情熱を胸に秘めて事に当たると、自然と継続が出来、そして継続した結果、成果が上がるらしい。しかもその熱をもって周りを巻き込み、効率アップのおまけつき。

なるほどねー、と思う。
まぁ、確かにそうなんだろうな、と。逆立ちしたって勝てない、完璧な理屈なのではないだろうか。効率よく継続を維持できるのであれば、そこには成功が約束されている。その効率よく維持する方法が情熱なのだというのであれば、それはきっと間違いじゃない。暑苦しいけど。

あいにくこちとら、生れてこの方、情熱なんてものを持った記憶はない。
触れば火傷するほど熱い想いどころか、触ったら思わず手を引っ込めてポケットに突っ込みたくなるくらい冷たく冷え切った、ジト目でいるのがデフォルトだ。熱に浮かされる、なんて風邪をひいて寝込んだ時にだって経験したことはない。40℃の熱を出したときにだって、I can fly!! なんて叫んでベランダの窓から飛び出そうとしたことはない。

そんな自分だから、いつでも冷静に言い訳を考えている。止めるための。

もういいんじゃない、これまでやってきたけど、この程度の成果しか出てないんだし。リソースを速めに別に割いた方がいいよ。
ここまでやってこの期間でこれだけ成果を出した。これはこれで満足して、次にいけばいいんじゃないか。

そんな考えは常に頭にある。
でも、やめない。やめれない。やめてない。
やり始めたものをそんな理由で止めるのは格好が悪いから。熱に浮かされながら、突き進んでいるんじゃない。情熱なんて持ってない。仮に今後、ものすごく成功したとしても情熱大陸に取材されることはないだろう。なにしろ、取材されても語るべき情熱がない。あるのはただただ、冷静に自分を見つめている冷めたジト目と、恥をかいた自分をそんな冷めきった目で見つめたくないという想いだけだ。

格好良く言いすぎた。

単に引き際が悪いだけだ。株や投資をやってはいけない、典型的な人間だ。そんなものに手を出したが最後、損切が出来ずに大損して路頭に迷う未来しか見えない。だから率が悪いことを知っていても投信くらいまでしかやらない。負けた自分を見たくない。そこにいる自分は、路頭に迷っている状態にいることが分かり切っているから。


最近、どうにも書きたい言葉が見つからない。

やるからには、書くからには、「自分が書いているのだから」というレッテルを張りたい。張子の虎でもいいから何となく見栄を張りたい。そしてそうやって、自分の冷めきったジト目を誤魔化したい。
そんな想いでようやく捻り出してみたら、本来書くべき分野とはまったく違う言葉が並び始めた。違う、これじゃない。

でもせっかく出てきた言葉を捕まえることなく、みすみす掌のうえからこぼれさせてしまうのももったいない。これから別の言葉が並ぶ保証なんてどこにもない。これを逃がしたら次に見えるのは文章ではなく、負けた自分の姿かもしれない。それは嫌だ。第一、もしかしたらこんな言葉だって張子の虎を作る時の紙の一枚くらいにはなるかもしれない。


この文章は、そんな紙の一枚。
情熱なんて持ったこともない、世にいうツマラナイ類の人間がなんとかどうにか捻りだした、「情熱なんて暑苦しいだけだ」と嘯くための言葉の陳列。情熱なんてなくたって、格好悪い自分を見るのが嫌いだ、という見栄と、少しの虚勢があれば世の中で最大級に難しい継続だって出来るんだ、ということの証明。

でも、やっぱり言葉は迷子の真っ最中。きっと迷子でいることが楽しくなってしまったのだろう。帰ってくる気配は微塵もない。誰か、私のやる気スイッチを押してください。どこかからか熱くて火傷するほどの情熱が噴き出してきて、その熱に浮かれて左右も確認せずに十字路を突っ切ろうとしちゃうくらいの、特別なやつを。



…うん、そんな暑苦しい自分は、それこそ、嫌いだ。

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